『あんぱん』大森元貴自身の歩みとも重なるたくやの言葉 嵩も新たな一歩を踏み出す
NHK連続テレビ小説『あんぱん』第94話では、嵩(北村匠海)が「漫画家として生きる」という夢と、現実との狭間で揺れながらも、その一歩を踏み出す姿が描かれた。テーマは“覚悟”。それは嵩だけでなく、彼の選択を支えるのぶ(今田美桜)、夢に向かって力強く進んでいくたくや(大森元貴)、そして子どもを授かったメイコ(原菜乃華)と健太郎(高橋文哉)にも等しく向けられた言葉だった。
物語は、嵩が会社を辞めて本格的に漫画に取り組みたいと、のぶに思いを打ち明ける場面から始まる。これまでも副業として漫画制作を続けていた彼だが、「思い切り描きたい」と語るその顔には、迷いと希望が混じっていた。それでも、のぶは「全力で応援するき」と即答。嵩が「負担はかけない」と気遣うほどに、のぶは自然体で彼の背中を押す。その姿は、これまで数々の困難を2人で乗り越えてきたからこその信頼と、愛情の表れだった。
そして、2人は「いつか広い家に引っ越したい」と夢を語り合う。目の前の現実は厳しいが、理想を思い描く時間があるだけで、日々はすこしずつ前を向ける。だが、画面が切り替わると、時は5年後。嵩はまだ三星百貨店に勤めたままだった。あの夜語り合った“夢の続き”は、いまだ手付かずのまま残されていた。
この頃になると、のぶの働く事務所に議員の漆原(加藤満)が訪ねてくる。話題にあがるのは、女性議員として活動を続けている薪鉄子(戸田恵子)の立場について。のぶたちが議会で女性の声を届けようと奔走する一方で、社会の風当たりは依然として強く、女性議員は不利な立場に追いやられていたという。
一方、嵩は本業よりも副業の収入が上回るほどに生活は安定しつつあった。しかし、それでも会社を辞める決断はなかなかつかない。どれだけ準備を整えても、安定を手放すには勇気が要るものだ。収入、保証、社会的立場……それらを失う不安が、最後の一歩を鈍らせていた。