Licaxxxが分析「ファレルの人生をレゴ®アニメで表現できた理由」 音楽好き注目ポイントも

 音楽プロデューサーにして、ルイ・ヴィトンのメンズ・クリエイティブ・ディレクターなどを務め、ジャンルを問わず現代のカルチャーを牽引する存在、ファレル・ウィリアムスの人生を映画化した『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』が4月4日より公開された。

 1973年にアメリカ・バージニア州にあるバージニアビーチで生まれたひとりの音楽少年が、ワールドワイドにムーブメントを起こした「Happy」をはじめ、Daft Punk「Get Lucky」やケンドリック・ラマー「Alright」など、プロデューサーとして数々のヒット曲を世に送り出し、世界的ヒットメーカーとなるまでの軌跡を全編レゴ®アニメーションで描いている。

映画『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』日本版予告編

 公開を前に、本作を鑑賞したDJ/トラックメイカーのLicaxxxにインタビュー。同じ音楽クリエイターとして共感したというファレルの“オタク”な一面やアーティストとしてのスタンスをはじめ、ドキュメンタリー/音楽映画としての魅力についてたっぷりと語ってもらった。

ファレル・ウィリアムスの人生だからこそレゴ®アニメーション化できた

ーーファレル・ウィリアムスの人生をレゴ アニメーションで映画化した作品ですが、率直に観ていかがでしたか?

Licaxxx:いやあ、よかったです。そもそも私、レゴ好きだし『LEGO スター・ウォーズ』シリーズも観てるし。ただ、レゴでドキュメンタリーを作るなんて今まで観たことも聞いたこともないから「どうなるんだろう?」みたいな気持ちでしたけど、想像以上に面白かったです。

ーーLicaxxxさんとファレルの音楽との出会いを教えてください。

Licaxxx:もともと2006年頃、高校1年生くらいからジャスティン・ティンバーレイクやティンバランドといった、『ファレル・ウィリアムス:ピース・バイ・ピース』にも出ているようなアーティストを聴いていたんですが、ファレルを認識したのは、Teriyaki Boyzの「Zock On! Feat. Pharrell And Busta Rhymes」(2008年)というヤバいタイトルの作品でした。自分にとっての洋楽って基本はUKロックだったから、あまりヒップホップ自体は通っていないのですが、当時、リアルタイムで音楽を聴いていたら必然的に触れることになる存在かな、と。そこから、ティンバランドがめっちゃ好きになって、N.E.R.D追って……という感じです。

ーー映画の中でも語られていましたが、ファレルはジャンルにとらわれないですよね。ファレルに対してはどういう印象を受けましたか?

Licaxxx:それは「映画に対してどう思ったか?」の答えにも通じると思うのですが、ファレルって裕福な家の生まれではないけど、でも彼の人生ってめちゃめちゃクリーンですよね。だからレゴで自伝を作れたのかな、とも思いました。ちゃんと苦悩して、家族に向き合って、音楽に向き合って、ここまで来ましたみたいな人ですよね。めちゃくちゃな人生を送ってないから、例えば『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』(ボブ・ディランの若い日を描いた伝記映画)みたいに脚色して俳優を起用して映画化しても少し物足りないのかもしれないな、と。けれど、“音が色で見える”という共感覚を持つ彼の世界観をしっかり表現する、このファンタジー感をうまく合わせるのは、やはり彼のクリーンな人生でなければできないとも思いました。

ーーなるほど。

Licaxxx:あと、優れたアーティストはめちゃめちゃ自堕落な人ばかりだと思ってたんです。ドラッグと女、酒。こういったものに溺れる人からしか天才は生まれないのかな、努力で成り上がってる人があまりフィーチャーされなくて悲しいな、みたいな気持ちだったんですけど、ファレルは努力で、そのハングリー精神だけで成功を掴んだのが印象的でした。

ーーそれを表すのにレゴ アニメーションが効果的に使われていましたね。

Licaxxx:そうなんです。だから観た後に、「これはマジで良かったな」と思ったんです。ファレルは才能溢れる人だけど、ちゃんと地道に努力してる人なんだっていうのが好印象といいますか、素直な人なんだと感心しましたね。

ーーLicaxxxさんがファレルに対して抱いていたイメージと違いましたか?

Licaxxx:若干違ったかも。“ザ・ヒップホップ”な人というよりも、根がプロデューサー気質というか、イノベーションを起こしたい人、イノベーターという感じでしたね。

ーー結構ちゃんとナードでしたね。


Licaxxx:ですよね。ハングリー精神のあるオタクでした。

ーー確かに。ハングリー精神のあるオタクが、人生を振り返り、それをレゴ アニメーションで表現する。

Licaxxx:で、途中で周囲にいた人にちょっと騙されつつ(笑)、あれもなんか“オタクムーブ”な感じ。それで本人がめちゃめちゃ稼ぎたいわけじゃないんだ、っていうのもあって、そこから「結局僕は何が作りたいんだろう……」と自問するようになっていって。その地味とも言えるひたむきさが本当にナードでした。

ーー自身の活動などを振り返ったときに、共感できたシーンはありましたか?

Licaxxx:作中で「その時良くないと思っても、寝かしたら熟成されるんだ」みたいなことを言ってましたけど、「うわ、ファレルでも“熟成”とか考えるんだ」と思いました(笑)。トラックを作ってる人たちは熟成ってあると思うんです。短いループだけ作ってプロジェクトファイルを寝かして、久々に開いたら「これいけるんじゃない?」みたいなことって。DJでも、自分の旬が過ぎてあまり使わなくなったレコードのアーカイブを、改めて掘ると「これいいじゃん」みたいになることってあるんですよ。それを“熟成”って呼んでるので、熟成の感覚が一緒なのは驚きました。

ーートラックメイクやDJは流行りを知っておくなど“タイム感”が重要でもありますが、同時にこの仕事には熟成が必要になるということですね。

Licaxxx:やっぱり自分の中でも時間が経ってから良いと思えるものも出てくるし。それは本当にその通りだと思います。「ファレルでも熟成してるんだ」ってことをみんなに伝えたい(笑)。

ーーでも、今おっしゃったような感覚は、世界中のトラックメーカーが同意し得るわけですよね。それだけでもこの映画の意味がありますね。

Licaxxx:あると思います。

関連記事