横浜流星×小芝風花の涙なしには観られない名演 『べらぼう』2人の夢が示した“愛し合う”形

 「だから、俺はこの夢から覚めるつもりは毛すじほどもねぇよ。お前と俺を繋ぐものはこれしかねぇからよ。だから、その夢をずっと見続けるよ」と告げた蔦重の言葉は瀬川の心をいつまでも奮い立たせてくれるはずだ。

 この身は「吉原のこれから」のために捧げるも、この心は蔦重との愛を支えに生きていく。そう自分の運命に腹をくくった瀬川の花嫁姿は、ゾッとするほど美しかった。どこか俗世を離れる人のような心境だったのかもしれない。

 そんな瀬川の姿を誇らしげに見つめる蔦重。笑顔を浮かべるも視線を合わせずにすれ違う2人からは、もはや目を見つめなくとも繋がっていることを確信した。そんな2人の決意のシーンが、身請け先となる目の見えない鳥山検校(市原隼人)の前で繰り広げられるのも皮肉なものだった。

 目が不自由な鳥山は、ひときわ人の機微に敏感だ。瀬川の振る舞いは完璧に「身請けされる花魁」だった。だが、「想い人と添い遂げる女性」とは違うものだと感じ取ったに違いない。その胸の内で密かに誰かの愛を抱きしめているということも。

 「ものは引いて見るってことが大事なんだよ」とは、蔦重に商売と人生を指南する須原屋市兵衛(里見浩太朗)が掛けた言葉だった。表面的には思い通りになっているように見えても、その本質的には肝心なところが手に入っていない場合もある。今は順風満帆に思えても、長い目で見たら形勢逆転となることも。

 蔦重との永遠の愛を胸に生きる瀬川を鳥山がどう受け止めるのか。そして、蔦重と本屋たちとの対立。さらに田沼意次(渡辺謙)一派と、松平武元(石坂浩二)と田安賢丸(寺田心)の静かに繰り広げられている長期戦からも、ますます目が離せない。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
総合:毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
BS:毎週日曜18:00〜放送
BSP4K:毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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