『おむすび』2024年のエピソードを総括 “ギャルマインド”が意味していることとは?

 NHK連続テレビ小説『虎に翼』の寅子(伊藤沙莉)から結(橋本環奈)がバトンを受け継いで、早3カ月。第111作目『おむすび』のヒロインに選ばれた結は、芸能界をスターダムに駆け上がった橋本環奈とは対照的に何者でもなかった。いや、何者かになることを放棄していた主人公だったのだ。

 けれど、かつての阪神淡路大震災で傷を負い、毎日を懸命に生きていても報われはしないと悟った結は、ルーリー(みりちゃむ)たちに半ば強引に「ギャル」の道へと誘われ、翔也(佐野勇斗)に恋をして、なにかを一生懸命やっている人を“食”で支えたいからと栄養士になった。高校時代は家の手伝いと書道部、そして「ハギャレン」こと博多ギャル連合の活動に勤しんでいた結はいま、初めて社会の波に揉まれている。


 ヒロインが我が道を切り開いていくパターンが多い中、結はいわゆる“コネ”就職で(試験は受けている)、翔也がいる星河電器に採用された。ドラマチックな展開ではないかもしれないが、リーマンショックなどで景気が落ち込んだ、あの時の空気を思い出すエピソードだった。結が縁故採用に「なんかずるくない?」と躊躇っていたのも、当時の若者たちのありのままの感情なのだろう。

 朝ドラ視聴層の中には、今作で橋本環奈の芝居を“初めて”じっくり観た人も多いのではないだろうか。『銀魂』シリーズを筆頭に、『斉木楠雄のΨ難』や『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』シリーズなど、映画では数々の人気漫画のヒロインを任されてきた橋本は、『おむすび』の脚本家・根本ノンジに「朝ドラ史上最強のヒロイン」だと言わしめるほど。2023年のドラマ『王様に捧ぐ薬指』(TBS系)では、美しすぎて周りから嫉妬され、「悪女」呼ばわりされるヒロインを嫌味なく演じきった。漫画やアニメだからこそ許される突飛な世界観にもすんなり馴染む適応力、そして圧倒的なビジュアルとコメディーセンスを両立させられる稀有な存在だ。そんな“誰もが知る”橋本環奈をヒロインに据え、私たちが歩んできた平成、令和を半年間かけて紐解こうとする『おむすび』は、あらためて挑戦的な試みをしていると思う。

 さて、そんな『おむすび』に欠かせない要素が食、そして“ギャル”だ。ギャルの定義は正確に定まってはいないが、昭和に生まれ、時代の流れと共にその姿は変わり、90年代後半から00年代半ばくらいにかけて、最盛期を迎えた。現在はK-POPアイドルが火付け役となり「Y2K(Year 2000)」という名称で、ミニスカートや厚底シューズなど、私たちが想像するようなギャルが当時身につけていたファッションが、ふたたび注目を浴びている。


 橋本演じる結は1989年生まれ。同世代の筆者からすると、結はちょっと遅れてギャルに目覚めた。たとえば、広瀬すずや『おむすび』にも出演している山本舞香らが全盛期のコギャルを演じた映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』の時代設定は1995年〜1997年。まさに阪神淡路大震災があった年で、結が幼稚園から小学校低学年だった頃の話だ。

 結が社員食堂で働き始めた2009年は、ファッションも多様化しており、えびちゃん(蛯原友里)を代表とする赤文字系や個性的な青文字系、そして森ガールなどの新ジャンルが芽吹き始めた頃で、結のような典型的なギャルファッションは衰退していた。まさに現在の結は、ギャルの掟その2である「他人の目は気にしない。自分が好きなことは貫け」を体現している、まごうことなき“ギャル”なのだ。

 最初に成長のトリガーとなったのは、やはり第4週「うちとお姉ちゃん」で披露されたガングロギャルのメイクだろう。父・聖人(北村有起哉)も気づかないくらいのメイクを施された結は、多くの人の前でパラパラを踊り、新たな自分を解放する。半ば強制的にギャルにされた結が、今度は自らの意志でギャルファッションに身を包んでいる。

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