藤原竜也はなぜ愛されるのか 『全領域異常解決室』に集まった“神様”が似合う役者たち
ビールジョッキを手にした興玉雅(藤原竜也)が「キンキンに冷えてやがる………!」と言うのを期待した視聴者は少なくないだろう。説明するのも野暮かと思うが念のため、藤原竜也の代表作『カイジ』の名セリフである。
人間世界にそっと潜んで生きている神様たちが人間界の事件を解決する『全領域異常解決室』(フジテレビ系)は、主演の藤原竜也が過去に演じてきたキャラクターを彷彿とさせるサービスシーンがちらほら。とりわけ、興玉が「私も神です」と言った第6話(正しくは第5話の予告でその場面が登場する)では、『デスノート』で演じた夜神月の「新世界の神になる」と神をもおそれぬ発言をしたことと重ねて視聴者は盛り上がった。
視聴者、どれだけ藤原竜也が好きなのか。藤原の過去セリフつながりだと「僕ってね、………どうしてだか、誰からも愛されるんだよ」(『近代能楽集』「弱法師」より)を引用したい。このセリフの如く藤原の演じた役、そして藤原は愛される。彼がこれまで演じてきた役をリスト化した「藤原竜也の人生年表」というものがX(旧Twitter)で拡散されて盛り上がったこともある。演じる役が常に波乱万丈であるため、こんな遊びができてしまうのだ。
藤原竜也は元来このようにいじられ愛されキャラではなかった。10代で天才舞台俳優としてロンドンデビューし、巨匠・蜷川幸雄のもとでシェイクスピアや寺山修司、三島由紀夫、唐十郎など文学的な作品を演じてきた。映像では、主演映画『バトル・ロワイアル』が社会現象になった。デンマークの孤高の王子とか革命のリーダーとか、超越した人物を演じてきた藤原が『カイジ』によって印象が一転。ギャンブルにハマって身を持ち崩していくクズキャラを演じたことで、高尚な作品をやっている俳優としてやや距離があった藤原が、一気に大衆に指示された。そして、いまや舞台で大衆人気の極地ハリー・ポッター(が大人になった)を演じたりもしている。
そんな藤原の最新作が『全領域異常解決室』(ゼンケツ)である。神隠し、シャドーマン、狐憑き、タイムホール、不老不死の人魚など超常現象や不可解な題材を扱う世界最古の捜査機関・全領域異常解決室の室長代理・興玉雅は、警視庁音楽隊カラーガード(MEC)から出向してきた雨野小夢(広瀬アリス)に、この特殊な部署の説明をする。この説明セリフは神がかっていた。その後も、不思議現象に関する説明セリフが毎回あるが、高尚な作品で鍛えあげた藤原のセリフ術によって、説明セリフがまるで詩のように素敵なものに聞こえるのだ。内容がわかろうがわかるまいが(いや、わかりやすい)、いいものに聞こえてくる。
藤原竜也が、スーツの似合う知的な役を演じるようになったのは、このドラマのスポンサーでもあり、ソフト開発事業を手掛けるスカイ株式会社のCMに、ビジネスマンのイメージで出ているからではないかと筆者は推察していた。社会からはみ出したクズキャラのイメージから脱却する必要があるのではないかと。実際、昨今の地上波によくある、ドラマとCMのコラボもあった。だがそんなことは気にならなくなった。ドラマが極めて面白い方向に転がっていったからだ。
興玉の浮世離れした感じは、実は古事記の時代から何度も転生をしている神であったことが理由だったとわかる。これで、例の「藤原竜也の人生年表」は「転生年表」としてより説得力を増すに違いない。それはさておき、中盤、ゼンケツのメンバーはもれなく神様だったことがわかる。アウェイ感のあった小夢は記憶を失っていたゼンケツの室長で、やっぱり神様だったというのが第7話までの展開である。