阿曽山大噴火、『虎に翼』のバランス感覚に感動 法廷を見てきたからわかる男女比の変化も

 NHK連続テレビ小説『虎に翼』が最終章を迎えている。日本で女性初の弁護士になり、女性初の判事および家庭裁判所長となった主人公・寅子(伊藤沙莉)を中心に、戦後の日本社会を鮮やかに描き出す本作。

 数多くの裁判を傍聴し、法廷を誰よりも知るお笑い芸人・阿曽山大噴火に、本作の魅力と法廷ドラマとしてのリアルさについて聞いた。

「吉田恵里香さんのバランス感覚がすごい」

ーー朝ドラは以前からご覧になっていましたか?

阿曽山大噴火(以下、阿曽山):いつも最初の1、2話は必ず観ています。そこから視聴を継続するかどうか判断するのですが、『虎の翼』は違いました。普通の朝ドラだと最初の1カ月はほぼ幼少期で終わってしまうことも多いのに、今回はいきなり成長した寅子(伊藤沙莉)が登場したので、初めから引き込まれました。

ーー弁護士がテーマということで、特に注目されていたのでしょうか?

阿曽山:それもありますが、「これはすごい」と思ったのは、主演の伊藤沙莉さんの演技です。とにかく表情が豊かで、家庭での顔も、ご飯を食べるときも、変顔も……脚本もすごいですけど、伊藤さんがすごい。このドラマの魅力を語るとしたら、「伊藤さんかわいい」の一言に尽きるかもしれません(笑)。

ーー脚本家の吉田恵里香さんについてはいかがですか?

阿曽山:私はこれまで存じ上げなくて、映画もドラマも観たことがなかったんです。だから、こんなにすごい人がいるんだと思いました。フェミニズムに重点を置いているようで、それだけでもない。第9週「男は度胸、女は愛嬌?」では戦争の真っ只中を描きながら、コメディ回をやったり。お父さん(岡部たかし)が亡くなるのかと思ったら、全然違ったり。よくぞこの2人(吉田恵里香と伊藤沙莉)が出会ったなと思います。

ーー伊藤さんの変顔もここぞというときに出てきますよね。

阿曽山:やっぱりそこのバランス感覚がすごいんだと思います。女性が法曹になる道のりを描きながら、同時に普通の家庭の様子も描いている。戦争そのものは描かないけど、戦後の人々の生活をしっかり描いている。妊娠・出産や玉音放送のような、ドラマ的に定番のシーンを描かなかったのも、「絶対にここは書きたい」という部分が決まっているからだと思いました。

ーードラマのメッセージについてはどのように受け取られましたか?

阿曽山:男女問わず、引っかかることがあったら「はて?」と声に出していい。無理に飲み込まず、行動するのがカッコいいというメッセージだと勝手に思っています。しかも、寅子やはる(石田ゆり子)、花江(森田望智)のように、さまざまな女性が登場するから、観ている人も「私の話」と思いやすいんじゃないでしょうか。

ーー1万件以上の裁判を傍聴されてきた阿曽山さんから見て、法廷シーンはいかがでしたか?

阿曽山:戦前の法廷は、服装も含めて今と全く違うので見たことないものなんですよ。神奈川の桐蔭学園に昭和初期を再現した法廷があって、そこには1回行ったことがあるんですけど、裁判官と検察官は公務員なので奥から一緒に入ってくる。でも、弁護士は民間人なので、私たち傍聴人と同じほうから入ってくるのが印象的でした。検察官と弁護士で座る場所の高さもちょっと違うんです。

ーー現在、裁判を傍聴される中で男女比の違いを感じることはありますか?

阿曽山:全くないですね。裁判官、検察官、弁護人と書記官、被告人、被告の横にいる刑務官が全員女性ということも普通にあるので。ドラマでいえば、1990年に黒木瞳さんが弁護士役を演じた『都会の森』(TBS系)という作品があって、最近TVerで配信されていたので観たのですが、劇中で裁判長、検事、弁護士すべてが女性の史上初の裁判が開かれる、という展開がありました。30年前にすでにそういう話が描かれていたということは、法曹界の男女比も変わってきていたということかなと思います。

ーー他の業界と比べても、女性の進出が早かったのでしょうか。

阿曽山:私が初めて本を出したのが2004年なんですけど、そのときの出版プロデューサーが女性で、その方といくつか裁判を傍聴したときに、「女性の弁護士ってこんなにいるんだね」とビックリされていました。私としては、裁判官も弁護士も実感でいえばほぼ半数近く女性が占めているイメージだったので、普段裁判を見ない人はそこに驚くんだと思った記憶があります。

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