斉藤陽一郎、父親にとっての青春は「家族と過ごす時間」 『ミライヘキミト。』監督と語り合う

 学生からシニアまで、人生の中で迎える数々のターニングポイントでのサポートを事業として展開しているマイナビが創業50周年を迎えた。節目を記念して制作されたWEB映画『ミライヘキミト。』は、監督に『桜ノ雨』や『うみべの女の子』で知られるウエダアツシを迎え、キャストには名優たちが起用され、まさに“実写映画”として評価すべき作品が誕生した。

 “青春”という言葉を軸に、人生のターニングポイントを迎えるヒロインたちと、彼女たちを取り巻く家族の物語を描く本作。次女役を川島鈴遥、長女役を平祐奈、母役を西田尚美、祖母役を浅田美代子が務め、それぞれ4世代のエピソードが紡がれていく中で、父親として彼女たちを見守っている渡利俊夫役を演じたのが斉藤陽一郎だ。

 リアルサウンド映画部では、ウエダ監督と斉藤の対談インタビューをセッティング。女性を主人公とした本作に男性として関わる2人には、“青春”の考え方から理想の父親像についてまで、考えを聞いた。そして第1話で登場する「“お父さん”を野球で例えるとなんだろう」という疑問に対して出た答えとは--。

『ミライヘキミト。』に登場していた青山真治監督作品の“本”

斉藤陽一郎

――ウエダ監督と斉藤さんはキャストの中で唯一事前にお会いしている間柄ですが、お互いにどういう印象を持っていましたか?

斉藤陽一郎(以下、斉藤):実際に初めてお会いしたのは、各話ごとで監督が変わるドラマでのウエダ監督が担当されている回への出演時でした。ただその作品で出番は多くなく、ウエダさんともしっかりと話す機会はなかったので、今回はある意味ではじめましてのような新鮮な形でご一緒できたのでよかったです。もちろん、僕がどんな芝居をするかを知ってくださっている安心感はあったのでお任せしようと思っていましたし、本作のプロデューサーである甲斐真樹さんは青山真治監督作品をずっとやられている方で、僕は若い頃から本当にお世話になっていたので、キャスティングも含めて甲斐さんがプロデュースしてくださった作品としての安心感が大前提としてありました。

ウエダアツシ(以下、ウエダ):やっぱり“青山監督作品の斉藤さん”という印象は強かったですね。それこそ学生の頃から観てましたから。『Helpless』とか『EUREKA』に憧れて映画をやりたいと思った世代なので。そういう意味では、今回スタイルジャムで、青山監督作品を作られてた甲斐さんのプロデュースのもとで斉藤さんと一緒にものを作れることが嬉しかったです。

ウエダアツシ

斉藤:今回『青春』っていう本が出てくるじゃないですか。で、あの本の隣に『アルカナアルカナ』っていう本が置いてあったのですが、あれはウエダ監督が置いたんですか?

ウエダ:いや、美術部ですね。

斉藤:『アルカナアルカナ』って、青山監督の『空に住む』という作品の中で大森南朋さん演じる小説家の吉田理が賞を獲った時の本のタイトルなんです。で、ちゃんと「吉田理」というのも書いてあって。だから、あの『青春』の隣に『アルカナアルカナ』が置いてあることで、現場に青山さんがいる感覚もあったし、そういう想いで置いたのかなと思ってました。

ウエダ:え、本当に。

斉藤:ただ、『空に住む』はスタイルジャムではないんですよ(笑)。だからたまたまだったかもしれないのですが、それはそれですごいことだと思ってました。

ウエダ:気づいてなかったので、ミラクルですね(笑)。

2人の『青春』の詩のお気に入りは?

ウエダアツシ、斉藤陽一郎

――その『青春』は、ウエダ監督が訳をされていましたね。

ウエダ:英語の詩はすでに権利がフリーになっているのですが、邦訳については不明確な部分が多く、それならば僕が訳そうと。

斉藤:訳は少し違っているんですか?

ウエダ:変化をつけたのは最後だけですね。最後の部分だけ“未来”という言葉を入れたりと飛躍させてますけど、大体は同じような内容です。

ウエダアツシ

――訳をする中で引っかかる部分などなかったんですか?

ウエダ:全部難しかったです。形のないものを言葉にするのは難しくて、〈青春とは胸の奥深くに秘めた煌めきをいう〉みたいな一行は英語だとシンプルに書いてあるのですが、ただ日本語に訳するだけではうまく伝えることができないんです。なので、それこそ“ポエム”のような訳し方をしなければ伝わるものにならないと思いました。

斉藤:なるほど。

ウエダ:もともとこの本は、マッカーサーが日本に進駐した際に執務室に飾っていたそうです。それを日本の方が訳して、80年代の経済紙で取り上げられたことで日本経済界に一気に広まった経緯があるらしく。そしてこの詩を書いたサミュエル・ウルマンは70歳を超えてから書いているのですが、この方はそもそも詩人ではなく実業家の方だったんです。人生を重ねた上で書かれた詩なので、若い方にも響くし、お年を召された方にも響くし、今回の4世代の主人公を描く上でまさにぴったりなテーマとなる詩だと思いました。

――斉藤さんはこの詩を読んで何を感じましたか?

斉藤:僕はまず〈青春とは人生のある時間をさすのではなく、その心の状態を言うのだ〉というものが第一にあったうえで、やはり〈未知への好奇心、子供のような探求心〉という、このフレーズに感じるものがありました。

ウエダ:僕も陽一郎さんと被るのは嫌なのですが(笑)、やはりその部分が好きです。

斉藤:〈何事も興味軽やかに、何人の声も許容するしなやかさがあれば、人は若さを失わない〉とかね。そういうのは意外と忘れがちな部分ですよね。

斉藤陽一郎

ウエダ:我々はエンターテインメントの世界で生きているわけですから、子供ごころというか、そういう視点に立ち返ってものを作ることは忘れないようにしたい。

斉藤:今回の渡利俊夫という役の存在もその点にあるような気がしています。本作で、女性たちは初めて本を開いて、色々なことに目覚めていきますが、この本自体は俊夫のお父さんのものなので俊夫はすでに読んでいた、ということを考えると、僕の中では俊夫はそういう生き方をする人間なのだとクリアになりました。つまり、俊夫はすでにずっと青春の中にいて、そうして家族たちを見ているような感覚なのかなと思っていました。

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