ファン・ジョンミンの悪役ぶりに惚れ惚れ 『ソウルの春』が傑作韓国ノワールである理由

 そしてクーデターを起こす首謀・チョン・ドゥグァンを演じるファン・ジョンミンの芝居が素晴らしい。まず前提として、モデルとなった全斗煥(チョン・ドゥファン)に似すぎていて驚いた。メイクもあるだろうが、観る前から全斗煥の顔が頭に入っていたら思わず劇中に笑ってしまうほどだろう。本作の物語においても、高潔な軍人で主人公然とするイ・テシンが窮状においても悪に立ち向かった悲劇のヒーローとして描かれる中で、悪役としての存在感をたっぷりと発揮している。それでいてどこか一挙一動が気になってしまうような、絶妙な抑揚が素晴らしいのだ。最近のヒット作、Netflixシリーズ『地面師たち』でもなぜか詐欺グループを応援してしまうほど引き込まれてしまう俳優たちの演技を思い出した。キム・ソンス監督の演出とあわせて、やはり本作も名作となったのだろう。

 本作に登場する人物たちの立ち位置は複雑で、時々置いていかれそうになるものの、おおまかなあらすじさえ把握しておけば何も問題はない。観終わったあとに勉強しようと思ったならば、Wikipediaの当該ページに関連の情報がびっしりと書かれているのでおすすめだ。個人的には、本作で最初に殺されてしまう大統領・朴正煕の娘が、2013年から2017年まで就任した女性大統領の朴槿恵であったことを知って驚きだった。本作はエンタメとしての韓国現代史に触れるきっかけの作品として秀逸な一作だと思う。

参考
※ https://klockworx-asia.com/seoul/

■公開情報
『ソウルの春』
全国公開中
出演:ファン・ジョンミン、チョン・ウソン、イ・ソンミン、パク・ヘジュン、キム・ソンギュン、チョン・マンシク、チョン・ヘイン、イ・ジュニョク
監督:キム・ソンス
脚本:ホン・ウォンチャン、イ・ヨンジュン、キム・ソンス
配給:クロックワークス
2023年/韓国/韓国語/142分/シネマスコープ/5.1ch/字幕翻訳:福留友子/字幕監修:秋月望/英題:12.12: The Day/G
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