『光る君へ』井浦新の恐ろしい形相は道隆のすべてを物語っていた “家”に執着し続けた最期

 『光る君へ』(NHK総合)17回「うつろい」。一命をとりとめたまひろ(吉高由里子)は、道長(柄本佑)が夜通し看病してくれたことを乙丸(矢部太郎)から知らされる。一方、道長は民を救うべく疫病患者を収容する小屋を建てようとしていた。本来は朝廷が行うべき仕事だが、関白の道隆(井浦新)はそれを拒む。この頃、道隆は体調を崩しており、娘・定子(高畑充希)のいる登華殿で笛の演奏をした直後に昏倒した。

 亡き父・兼家(段田安則)の跡を継いだ道隆。道隆を演じている井浦の佇まいは、兼家が亡くなるまでは気品があり穏やかな気質に感じられた。道隆は感情を押し殺していたわけではないが、鬱屈を抱え、いらだちを爆発させてしまう道兼(玉置玲央)の存在もあってか、本作最初期の井浦の演技はどこか控えめな印象があった。しかし、兼家の跡を継いだ後、道隆は自身の家族を思う気持ちが深まるほど権力を求めるようになる。その権力に飲み込まれるようにして道隆は変貌していき、控えめな印象が一変、傲慢さが際立つようになった。

 道隆の傲慢さは、自身の家族を深く愛し、一族の繁栄を願うからこそのものだ。登華殿で昏倒した後、道隆は安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)を招いた。道隆は「誰ぞの呪詛に違いない」「道兼、 詮子、道長とて腹の中はわからぬ。皆、わしの死を望んでおる」と言うが、晴明は呪詛ではなく寿命が尽きようとしているのだという。道隆はその言葉に愕然とするも、晴明に荒々しく近づくと「お前の祈祷で、わしの寿命を延ばせ」と迫った。井浦の憤るような物言いには、一族の栄華のためにはまだ死ぬわけにはいかないという道隆の焦りが感じられる。

 井浦は道隆の焦りを、さまざまな表情で見せてくれた。たとえば道隆が道兼を呼び出した時。物語序盤で道隆は、道兼と道長は結託して自分を追いやろうとしていると疑ったうえ、疫病対策が急務であると進言する道長の前で、「疫病の民を思うなぞ、あいつ(道兼)の考えることではない」と怒鳴っていた。そんな道隆だが、「どうかどうかどうか、伊周を……わが家を頼む」と道兼の手を強く握り締めて懇願する。道兼と道長を疑い、弟たちは自分の死を望んでいるとまで口にした道隆だが、自分の命以上に家族の先行きを案じている。病によって弱々しい言動ながらも、家族を守りたいという道隆の執念が、井浦の演技から感じ取れる。涙ながらに頼み込む兄の姿に、道兼は気圧された。

 道隆は病をおして、伊周(三浦翔平)に内覧の宣旨をしてほしいと一条天皇(塩野瑛久)に求めるが、一条天皇は答えを保留する。道隆は一条天皇を意のままに操れなくなっていることに打ちのめされる。このままでは一族の栄華が危ういと感じたのか、道隆は定子がいる登華殿に向かうと「皇子を産め」と詰め寄る。定子は一条天皇を慮り、父に対して冷静に言葉を返すが、道隆は「足りない……足りない、足りない」「まだまだまだまだ足りない」「皇子が出来れば、帝はわが一族の真の味方となる。皇子がないゆえ、帝のお心が揺れるのだ」と聞き入れない。皇子を産めば、一族に安寧が訪れるという考えに囚われ、「皇子を産め、皇子を……」と繰り返す姿は狂気に満ちていた。

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