降霊会の直後に起きてしまった殺人事件。外は大嵐で、とてもではないが舟は出せそうにない。そこで曰く付きの屋敷の中で半強制的に閉じ込められてしまった参加者たち。暗闇の中を激しい雷の音が鳴り響く時、スクリーン越しの私たちも思わず体を震わせてしまう。誰もが容疑者に思えてしまう中、お互いに疑心暗鬼になるだけでなく“屋敷に救う悪霊が本当に呪い殺してしまったのか”と恐れる人間描写が、本作の大きな見どころとも言えるだろう。参加者たちがパニックを起こす中、普段は冷静なポアロも今回ばかりは亡霊に翻弄されてしまう。これまでの作品と違い、引退気味な空気感のポアロを、ブラナーは素晴らしい演技で体現していた。

　そして何より、ベネチアの美しい光景を捉えたショットの数々は、これだけのために映画館の大きなスクリーンで観る価値があると思えるほど。クロースショットからドローンでの空撮まで、さまざまな手法で撮影される水の都。加えて、歴史ある屋敷の外観や室内の鉄柵の質感にヴィンテージ家具の撮り方まで、とにかくこだわり抜かれたショットが楽しめる。巧妙に構築された脚本だけでなく、視覚的な意味でも、本作はこれまでのシリーズの中でもそういった製作陣のクラフトマンシップが感じられる。洋画を楽しむ上での大きな魅力であるリッチなロケ撮は、ぜひ映画館のスクリーンで堪能していただきたい。

■公開情報
『名探偵ポアロ：ベネチアの亡霊』
9月15日（金）公開
監督：ケネス・ブラナー
脚本：マイケル・グリーン
製作：ケネス・ブラナー、リドリー・スコットほか
音楽：ヒドゥル・グドナドッティル
出演：ケネス・ブラナー、ミシェル・ヨー、ティナ・フェイ、ジェイミー・ドーナンほか
配給：ウォルト・ディズニー・ジャパン
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公式サイト：https://www.20thcenturystudios.jp/movies/poirot-movie3