『どうする家康』では意外性が見られる? 松山ケンイチが発する色の違い

 放送開始時より波乱の展開が続く『どうする家康』(NHK総合)の第5話「瀬名奪還作戦」にて初登場を果たした松山ケンイチ。緊張と弛緩が反復する物語の中、彼はさらなる弛緩とともに新たな緊張をもたらした。舞台が戦国の世ということもあって何ひとつ安心して観ることはできないところだが、同時に独特の“ユルさ”があるのも本作の魅力のひとつ。松山の存在は、これをさらに増幅させるものなのだ。

 本作で松山が演じているのは、主演の松本潤演じる松平元康(後の徳川家康)の家臣である本多正信。その人物像の描かれ方は作品ごとに異なるのだろうが、『どうする家康』では“イカサマ師で嫌われ者”というキャラクターだ。ほかの家臣たちの発言から、いかに彼が信用ならない人物なのかがよく分かる。にもかかわらず、今川家に囚われている元康の妻・瀬名(有村架純)を奪還せねばならないという、喫緊の問題を解決するために白羽の矢が立ったのが正信なのだ。記念すべき初登場時から感じさせるあまりの胡散臭さ。間の抜けた松山の表情と締まりのない明るい声は、作品の“弛緩”の部分を増長させる一方で、与えられた立場上、同時に新たな緊張感をも生み出すものだった。

 期待感と不安感をあおられ、宙吊りにされ、次なる展開への興味をそそられたのは筆者だけじゃないだろう。瀬名奪還のために彼とタッグを組んだ、服部半蔵役の山田孝之がシリアスなトーンの演技に徹していることも大きく作用した。松山が作り上げる飄々とした本多正信像は、つねに“何か起こしそう”である。やがて彼は元康にとってなくてはならない存在となる。実際にこれからいくつもの物語の転換点で事を起こしていくのだろう。

 本作の公式ガイド『NHK大河ドラマ・ガイド どうする家康 前編』(NHK出版)にて松山は、この本多正信のようなキャラクターはあまり演じたことがなく、興味を抱いたのだと明かしている。これはちょっと意外だ。たしかに、日曜劇場『日本沈没ー希望のひとー』(2021年/TBS系)や、放送中の『100万回 言えばよかった』(TBS系) で見せる姿とはまったく違う。とはいえ、これまで多種多様なキャラクターを演じ、性格俳優の一面を持つ松山である。掴みどころのない役どころはすでに何度も担ってきた印象が強くある。彼が本作の正信のようなキャラクターを演じることには何の意外性もない。たった1話の登場だけで適役だと感じられたのだ。このある種の認識のズレが示しているのは、松山本人が思い描く本多正信像は私たちが目にしている現在の姿とは異なるということなのではないだろうか。つまりはこれから、意外性を感じずにはいられない“松山ケンイチ=本多正信”の姿が見られるのではないかということである。

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