ドラマ・映画・舞台で快進撃! 2022年の“岸井ゆきのイヤー”を振り返る

 そして、若き天才ゲームクリエイターと老舗おもちゃメーカーの共闘を描いた『アトムの童』で岸井が演じたのは、崖っぷちに立たされた玩具店の3代目社長・富永海であり、安積那由他(山﨑賢人)&菅生隼人(松下洸平)とともに、ゲーム業界で天下を取るため前線で奮闘していた人物。その後はあまりに急すぎる展開の連続によって、少し影が薄くなっているようにも感じるのだが、登場すれば必ず彼女がそのシーンの核になっていた。海は物語の中心人物だが、主人公はあくまでも那由他だ。猪突猛進型の主人公に対して、彼女はその言動を受けなければならぬ役どころ。ここでの彼女のリアクションが非常に重要であり、そのメリハリが物語の展開にも大きく影響するのだ。岸井のリアクションは柔軟かつ的確である。シーンごとの手触りを決定的なものにするのは主人公ではなく、その受け手である岸井なのだ。

『ケイコ 目を澄ませて』©2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINEMAS

 さて、そんな岸井ゆきのだが、『アトムの童』ではまだ終わらない。主演映画『ケイコ 目を澄ませて』が封切られている。演じるのは聴覚障害を抱えるプロボクサーのケイコだ。声による表現を禁じられているうえ、ケイコは愛想笑いができない。つまりこの役は、何かを表現することをとにかく制限されているのだ。けれども、微細な表情の揺れや目つきの変化だけでも、ケイコの心情がありありと見えてくる。もちろん、ボクサーとして身を削る瞬間の連続があることも大きい。岸井の俳優としての大胆さと繊細さが刻まれた本作は、“岸井ゆきのイヤー”の締めくくりに相応しいものである。

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