『カムカム』安子と稔に現実を突きつける 段田安則&甲本雅裕が示す父親像

 なんて素敵なカップルなのだろう。『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)の、安子(上白石萌音)と稔(松村北斗)の純愛に、毎朝癒されている。安子の素朴さに触れ、穏やかになっていく稔の心。そして稔は、安子にたくさんの初めてを教えてくれた。旋律のように聴こえる英語の美しさ。初めて飲んだ苦いコーヒーの味。恋をすることの楽しさから、切なさまで。

 だが、小さな商店街で菓子屋を営む橘家に生まれた安子と、地元でも有名な名家の跡取り息子である稔の恋は、一筋縄ではいかない。まだまだ見合い結婚が主流であった当時は、“好き”という気持ちだけでは一緒になることができないのだ。安子と稔の両親はどちらも見合い結婚。だからこそ、2人はよく分かっている。お互いに、“好き”であっても、上手くいかない恋があるということを。分かってはいるけれど、“好き”が上回ってしまい、“現実”に戻ってくることができない。そんな2人に、“現実”を突きつけたのが、稔の父である千吉(段田安則)だ。

 「父さんや母さんがなんと言おうと、僕は安子さんと一緒になります」と宣言した稔に、千吉は「お前の惚れたその安子いうおなごを、どねんして食わせていくつもりじゃ」と問いかける。雉真の家を捨ててまで安子と結婚するのなら、何か考えはあるのか? と。

 千吉は雉真繊維を一代で築き上げた男だ。稼ぐことの厳しさを、人一倍肌で感じてきたのだろう。だから、菓子屋を営む橘家のことも決してバカにはしない。たとえ小さな店だとしても、商いを営み、儲けを出すことの難しさが分かっているからだ。

 稔が橘家に婿入りをして、菓子屋を継ぐとしたら……雉真繊維の後を継ぐ以上に、大変なことが待ち構えているかもしれない。厳しく見える千吉だが、その厳しさの奥には、“息子に幸せになってほしい”という優しさが見える。感情論で「ダメだ」と決めつけるのではなく、稔の意見をしっかりと聞く。そして、彼の甘い考えを指摘した上で“現実”を突きつける。千吉は、息子を一人の人間として信頼しているからこそ、「分かった。その代わり、家を出ろ」と厳しい言葉をかけたのではないだろうか。

関連記事