今泉力哉監督と考える、日本映画界の現状 作家にとって理想の環境はいかにして作られる?

「『役者として上手いか』よりも『人として面白いか』」

ーー『サッドティー』も『退屈な日々にさようならを』もそうでしたけど、今泉監督のワークショップ作品って、敢えて名前は出しませんが他のワークショップ映画とは明らかに違いますよね。物語の構造や脚本のテーマという点ではかなり実験的なことをしてるんだけど、役者の自然さだったり、作品のルックだったりのウェルメイド感は絶対に手放さないというか。

今泉:そこはものすごく意識してます。監督の得手不得手ってあると思うんですけど、自分は映画の中で「人物を描く」という意識が強いし、役者さんを人としてじっくり見て、その人に本当に合う役を当てるのが得意だと思うんです。だから、キャストの選び方もちょっと特殊で、ただ上手い人を選びたがるプロデューサーとは意見が合わないんですよ。もちろん、信頼はしてくれてるんでしょうけど、「この人で」って選んだ時、よくプロデューサーから「この人で、大丈夫ですか?」って言われます。ちょっと危なっかしいくらいの人の方が自分は好きで、「役者として上手いか」ってことよりも「人として面白いか」ってことを優先させるので。

『街の上で』(c)『街の上で』フィルムパートナーズ

ーーいや、そこが絶対的な今泉作品の安心感で。どんなに作品を量産しても、「他のどの作品よりもその役者が魅力的に撮れている」という一線は守られている。

今泉:異様なペースで作品をつくっているってよく言われますし、確かにそうなんですけど、いつまでこれが続くかもわからないなって思いもあるんですよ。何年かして振り返った時に「あの頃の自分はどうかしてたな」って自分で思う時が来るとは思うんですけど。きっと今はそういう時期なんだろうなっていう。けっこう冷静に見てますね。一切浮かれてないですし(笑)。本当にキツくなったら休むだろうし。

ーー全然そんな気配もないですけど(笑)。

今泉:最近はわりと、鬱々とした脚本を書いてますよ。『退屈な日々にさようならを』のような、ちょっと自己言及気味の登場人物も出てくるような。

ーーへえ! それは楽しみですね。先日、2022年いっぱいまで全部スケジュールが埋まってるというツイートもされてましたけど、では、その作品もその中に入ってる?

今泉:入ってます。本当はもっと早く動き出す予定だったんですけど、俺、11月にコロナ陽性になってしまって、それでいろいろ遅れちゃって。

ーーそうでしたね。2020年の総括インタビューとして、その話も訊いておかないととは思ってました。ご家族は大丈夫だったんですか?

今泉:当然みんな濃厚接触者になっちゃったんで、検査をして、みんな陰性ではあったんですけど。仕事や学校もみんな14日間休むことになって。

ーー今泉監督の症状は、そんなに重くなかった?

今泉:軽かったです。本当に最初の1日、2日だけ熱が出て、病院に行って、陽性が出て。その直前、ちょうど仕事でホテルに詰めてて、4、5泊してたんですよ。その最終日にめちゃくちゃ具合が悪くなって。打ち合わせとかも全部キャンセルして、そのまま家に帰ったんです。後から妻にめちゃくちゃ怒られましたけどね。「なんでそんなに具合が悪いのに帰ってきたんだ」って。自分もその時点では中途半端な知識しかなくて、まだ熱は出てなかったし、味覚にも嗅覚にも異常がなかったんで、帰っちゃったんですけど、本当に妻の言う通りで、とても申し訳なかったですね。「味覚がなくなるの、全員じゃないからね!」って。「え、そうなの?」っていう。愚かでした。

ーーじゃあ、それから病院に行って、そのまま指定ホテルに隔離されて?

今泉:そうです。病院、からの、自主的に泊まっていたホテル、からの、指定ホテルですね。陽性者が詰まった乗合いワゴンのお迎えが来て。ちょうど撮影とかがなくて、あまり人と会ってない時期だったので、不幸中の幸いではありました。

ーー仕事の量もまったく減ってなかったわけですけど、そういう意味でもまさに「2020年を生きた」という感じではありますよね。

今泉:ええ。作品の公開がひとつ延期になったくらいで。その前にちゃんと2本公開できたのも今から思えばギリギリで運が良かったし。ただ、症状自体は軽かったですけど、やっぱりコロナに罹った時は怖かったですよ。入院中とか、退院直後とか、ここでは言えないようなこともいろいろありました。

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