『危険なビーナス』楓はなぜ疑われる? 終盤に向け残された謎を考察

 突然訪ねてきた牧雄(池内万作)の目的は、康治(栗原英雄)が残した研究記録だった。伯朗(妻夫木聡)の父である故・一清(R-指定)は脳腫瘍の後遺症に苦しんでおり、康治の治療を受けた。回復後、一清はフラクタル図形のような精緻な絵を描くようになっていた。

 『危険なビーナス』(TBS系)第7話終了時点で残された主要な謎は4つ。牧雄がいう「価値あるもの」の中身、明人(染谷将太)の行方、禎子(斉藤由貴)を殺した犯人、楓(吉高由里子)の正体だ。この他に、牧雄を突き落とした犯人や「あきとにうらむな」という康治のメッセージの意味もわかっていない。第8話では、このうち「価値あるもの」の正体が明らかになった。

 家に上がるなりペットボトルの水を飲み出した牧雄は、伯朗に取引を持ちかける。牧雄は目指すものが矢神家にないことを知り、禎子の遺産に目星をつけていた。一清の症例は後天性のサヴァン症候群と考えられた。牧雄は康治の共同研究者であり、意図的に天才を生み出す画期的な発見として研究を続けてきたのだ。

 しかし、研究記録を狙っているのは牧雄だけではなかった。勇磨(ディーン・フジオカ)は楓(吉高由里子)と接触して、資料のありかを探る。一方で、伯朗は、禎子の友人だった佐代(麻生祐未)から話を聞く。伯朗が握っている情報は、牧雄のほかに波恵(戸田恵子)や佐代から聞き出したもので、楓は明人と勇磨から情報を得ている。伯朗と楓は協力することで真相に近づいていたが、たった一つの嘘から、一枚岩だった2人の間に亀裂が生じてしまう。 

 『危険なビーナス』を複雑にしているのは、謎の大小関係がわからないこと。こういう場合は、一つの謎を糸口に、外堀を埋めるようにして他の謎に取り組むことで突破口が開ける。明人の行方と禎子を殺した犯人は、今のところ手がかりがない。楓の正体について、これまで伯朗は明人の妻であると信じていたが、ここに来て重大な疑念が生じた。

 そもそも楓は、伯朗以外の親族からは明人の妻であることを疑われていた。佐代は伯朗に「あの女はただ者じゃありません」と忠告し、波恵や祥子(安蘭けい)、百合華(堀田真由)も疑惑の目を向けていた。そう思われる理由として、楓の話に破綻がなさすぎる点があるだろう。普通は何か言えないことがあるはずなのに、楓にはそういう素振りがなく、もっと言えば情報が少なすぎるのだ。理論上、完璧なストーリーというのは100%真実か、またはその逆のどちらかであることが多い。嘘が一つあれば、その嘘を補完するために別の嘘が必要になり、結果的に全てが嘘であるということも十分ありえるからだ。

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