『エール』華とアキラは裕一と音のようなベストパートナーに 『いだてん』を彷彿とさせる設定も?

 1週間で一つの起承転結が意図された朝ドラで「承」のはじまりにあたるのが火曜日だ。『エール』(NHK総合)最終週の第117回は、回数短縮の影響からか、過去最高に情報量の多い火曜日となった。

 時を戻すと、古山家を訪れたアキラ(宮沢氷魚)は裕一(窪田正孝)と対面。裕一はアキラに「どうして華なんだ?」と尋ねる。アキラは自身の性格を「頑張ることが照れくさくて苦手」と話し、「華さんがそばにいると素直になれます」と答える。華(古川琴音)のほうは、アキラと一緒にいると「自然でいられる」。人の気持ちを大切にするあまり、重くなってしまうことに悩んでいた華。「アキラ君はこの調子だから、それを飛び越えてくる」と打ち明ける。正反対の2人は、正反対だからこそ互いを補い合える。華とアキラは、裕一と音のようなベストパートナーだった。

 前回放送で、自分と音(二階堂ふみ)が結婚した時のことを思い出していた裕一。華とアキラの姿に運命的なものを感じたのだろう。自分たちと同じように、十字架の前で2人の結婚を見届けた。晴れて夫婦となった華とアキラ。孤児院で行われた結婚式では、ロカビリーバンドの演奏に合わせて、福島三羽ガラスの鉄男(中村蒼)や久志(山崎育三郎)、喫茶バンブーの梶取保(野間口徹)・恵(仲里依紗)夫妻、吟(松井玲奈)と智彦(奥野瑛太)の一家が軽快なステップを踏んだ。

 リーゼントスタイルの型破りな新郎アキラに、祝福の言葉を贈るのはドラマーの根来(Kaito)。新しい世代が鳴らすリズムは、『エール』に新しい風が吹き始めていることを実感させた。光子(薬師丸ひろ子)の最期を看取れなかったのは残念だが、名曲が誕生する過程を描いてきた本作で、あえて若い2人のストーリーに尺を割いたところに、未来に目を向けるという『エール』の立ち位置が表れていたように思う。

 そう、『エール』はいつでも未来に向かって放たれている。華が結婚し「俺たちの人生も終わりに近づいた」と漏らす裕一に、「私はまだある気かしますけど」と返す音。音の予感は、ほどなくして現実のものとなる。東京オリンピックの式典運営協議会から、開会式のオープニング曲を作曲してほしいとオファーが舞い込んだのだ。

 東京オリンピックというゴールを目指してきた『エール』で、黒ぶちメガネをかけた協議会の酒井(今野浩喜)に、前年の大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(NHK総合)の田畑政治(阿部サダヲ)を重ねた人もいたのではないだろうか。

 一世一代の仕事を前に机の前で思い悩む裕一。何度も見た光景が繰り返される。しかし、ここまで見てきた視聴者は知っている。裕一が、この後、あっと驚くような名曲を書き上げることを。中断を挟んだ8カ月の放送で私たちが受け取ってきたのは、「良いものを届けよう」というキャストとスタッフの熱意。きっと裕一も最高のエールを届けてくれるはずだ。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)~11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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