吉原光夫、『エール』で見せた男の背中 求心力ある存在感で映像界でも飛躍へ

 タイトルバックが3話続けてカットされるなど、異例の緊張感を持って“戦争”が描かれたNHK連続テレビ小説『エール』。恩師・藤堂(森山直太朗)の死、自身の手がけた曲が戦争に加担していたと自覚し、裕一(窪田正孝)は茫然自失状態になってしまう。

 戦争が終わり、戦後の復興とともに裕一がどう立ち直っていくかが今後の見どころとなるが、戦争の傷を受けたのは裕一だけではない。音(二階堂ふみ)の実家である関内家は、空襲によって家が全焼、梅(森七菜)と岩城(吉原光夫)は負傷し病院での治療が続けられている。第81話では、音が2人の見舞いに豊橋へと向かうことになる。

 ここまで出番は決して多くないながらも岩城役として存在感を放ってきたのが、本作がドラマ初出演となる吉原光夫だ。ここまでの『エール』での演技について、演劇&ドラマ考察ライターの上村由紀子氏は次のように語る。

「おそらく、2行以上の台詞はなかったと思うぐらい、本当に言葉数の少ない役柄でした(笑)。にも関わらず、馬具職人・岩城として大きな存在感を放ったのは流石の一言です。まさに、言葉ではなく“身体”で語る俳優。これまでの出演舞台では、“声を発さない”ということはもちろんありませんでしたから、その姿は新鮮に映りました。『エール』にはミュージカルで活躍する俳優さんがたくさん出演されていますが、皆さんそれぞれに歌唱シーンがありました。その歌声に朝から癒やされた方も多いのではないでしょうか。が、吉原さんにはその機会が鼻歌以外なくて……。そんなところも吉原さんらしいなと感じつつ、じつは歌の表現力も素晴らしい人。『エール』岩城役で吉原さんを知った方はなかなか想像できないと思いますが、【[みんなでエール] みんなで星影のエール | 出演者が歌い継ぐ】でも聴くことができるのでチェックしていただきたいです」

 岩城は関内家にやってきた五郎(岡部大)の師として厳格な姿を見せてくれたが、吉原自身も周囲から慕われる存在だと上村氏は続ける。

「岩城が心臓の病を抱えていたことが光子(薬師丸ひろ子)の台詞によって明らかとなりますが、岩城はかなり前から自分自身で分かっていたと思うんです。自分の仕事を、関内家を、誰に託すか、となったときに五郎が現れた。五郎は器用な人間ではないし、人として足りないところもたくさんあるけれど、彼の中にある誠実さや真面目さを岩城は感じ取り、自分のすべてを教えていったのだと思います。五郎は馬具を作ることで自分も戦争に加担しているんじゃないかと悩みますが、岩城はそのたびに『馬具は人と馬を守るためにある』と伝えます。安隆(光石研)から受け取ったものを今度は五郎に託す。岩城と五郎のシーンは短いながらも、五郎が岩城を信頼し、2人がどんな関係で仕事をしてきたのかが伝わってくる非常にいいシーンでした。岩城と同じように吉原さんも“求心力”がすごい。『光夫さんが言うならやる』という後輩や関係者が沢山いて、多くの人に愛され慕われています。そんな彼自身の人柄も、岩城として画面に滲み出ていたように感じました」