田口トモロヲと松尾スズキ、Eテレ『SWITCH』で監督トーク 松尾「僕らのやってることは文章に残せない」

 番組後半は、田口が松尾の演劇が持つ独特な世界観を探っていく。差別や性など、あらゆるタブーを容赦なく笑いに変える松尾スズキの戯曲。特に、田口も出演した1999年の作品『神のようにだまして』は、放送できるシーンが数秒たりともないくらいブラックな笑いに満ちていたようだ。その当時と今を比べながら、「今はアウトサイドなことでも微妙なバランスでポップに仕上げるじゃないですか。そこのバランス感覚がすごいと思います」という田口。それに対し、「伝えることの喜びってあるじゃないですか。前は伝わらなくてもいいやっていう反骨精神があったけど、分かんないことやってもしょうがないって、今は思うんですよね」という松尾。しかし、笑いの反応が瞬時に分かる舞台は、未だに怖いとも。「稽古場でいちばんウケてることって、大体舞台ではウケないんですよね」。そして、「こないだ撮った映画は、現場でおかしいなって思ったことが、意外とフィルムになっても残っていて……それは、うまくいったなって思いました」という松尾の言葉から、最新監督作『ジヌよさらば~かむろば村へ~』の話へ。

 同作にも顕著だった、“体の動き”に対する松尾のこだわりに注目する田口。それに対し、「体が軸を失っているような感じの動きが好きなんです」と応える松尾は、その理由として、小学生のころに囚われたという“神様ノイローゼ”について語り始める。「なぜか、世の中の出来事や人間の動きはすべて神様が決めたプログラムに沿って動いているんだっていう刷り込みがあって……それで神様が想定し得ない動きをやっていたんですよね(笑)」。“肉体のアナーキーな肉体な自由さ”……そこに松尾は、今もなお引きつけられているのだという。

 ジャンルを越境して活躍する松尾に、「松尾さん自身がジェラシーを感じる人とか才能ってあります?」と尋ねる田口。それに対し、「今は嫉妬するとかないんですよね。昔はいろんなことに嫉妬しまくってましたけど……今は(ピースの)又吉(直樹)君が芥川賞を獲っても「ふーん」っていう感じだし、「ちきしょー」とは思わない。嫉妬してるくらいだったら、自分のやりたいことをやっていたほうが……むしろ、それはちょっとした焦りでもあるのかもしれないですけど」と応える松尾。“残された時間への焦燥”に同意する田口に対し、「僕らのやってることって、文章にして残しておけないんですよね。自分たちの肉体性だけでやってるから、僕の体が終わったらお終いだと思っていて。それで終わっていくのも潔くていいかなって今は思っています」と現在の心境を吐露する松尾。そんな彼の「純粋な笑いが欲しいっていうことを考えると、何にもついてないジョーカー的な存在であるほうがやりすいですよね」という言葉で、ふたりの対談は締め括られた。

 田口トモロヲ監督の映画『ピースオブケイク』は、現在新宿バルト9ほかで全国ロードショー中。松尾スズキ監督の映画『ジヌよさらば~かむろば村へ~』は、9月18日にBlu-ray&DVDが発売された。

(文=宮澤紀)

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