なぜファレルは『ミニオンズ』に参加しなかったのか? 同作プロデューサーにインタビュー
「本作では『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』の照明を再現したんだ」
――今回の主要な舞台は1969年ということで、そこではビートルズ、ローリング・ストーンズ、ザ・フー、ドアーズ、ドノヴァンといったアーティストの有名曲が贅沢にたくさん使われていますが、ざっくりと、その選曲の基準はどういったものだったのでしょう?
メレダンドリ:映画にポップミュージックを使用するというのは、実は多くの人が考えている以上にデリケートなものなんだ。特に今作では、ポップミュージックはスコアの役割も果たしているから、なおさら大変で。できあがったシーンに合わせて、それこそ何百、何千という曲を流して、そこで一番しっくりとくる曲を選んでいく必要があるんだ。まぁ、個人的に自分もスタッフも60年代のロックンロールが大好きだったから良かったけど、この2年間は完全に60年代のロックンロール漬けになっていて、それが他の時代だったらかなりストレスになっていたんじゃないかな(笑)。
――ゲスな質問ですみませんが、ビートルズの曲を筆頭に、かなり莫大な使用料をとられたんじゃないですか?(笑)
メレダンドリ:確かに使用料は高かったよ(笑)。でも、本作において60年代のロックンロールは絶対に欠かせないものだったからね。音楽だけじゃなくて、今回の作品では60年代のあの時代の雰囲気をアニメーションで表現することを、とことん追求していったんだ。たとえば、背景を描く上でライティングの参考にするために、リチャード・レスターの映画『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』を穴があくほど観て、あの作品におけるライティングを再現している。60年代の映画のライティングって本当に独特で、それをここまでちゃんと再現したアニメーション作品は他にないと断言できるよ。
――でも、一つツッコミを入れさせていただくと、ビートルズの4人がアビーロードを横断するシーンがありますよね。あそこで流れるビートルズの曲は『アビーロード』の曲であったほしかったです(笑)。
メレダンドリ:そこを指摘してきたジャーナリストは、君が初めてだよ(笑)。実はこの作品には2、3ヶ所、ロックファンからツッコミの入りそうなシーンがある。それを探してみるのも、マニアックな楽しみ方かもしれないね(笑)。
――『怪盗グルー』シリーズといえば、これまでの2作品は音楽にファレル・ウィリアムスが参加していて、特に前作における「HAPPY」はその年を代表する大ヒットソングにもなりました。今回ファレルが参加していないのは、舞台が60年代だったからという理解でいいのでしょうか?
メレダンドリ:まったくその通り。ここではっきりと宣言しておくよ。ファレルとは現在も良好な関係が続いているし、今後の作品ではまた一緒に仕事をすることになるはずだよ。彼の音楽は、このシリーズにとって必要不可欠なものだからね。ただ、今回の作品は60年代が舞台だったから、作中の統一感を出すために当時のヒットソングで固めたかったんだ。ファレルは本作だけ一回お休み、と思ってもらって構わないよ。
――メレダンドリさんって、結構珍しいファミリーネームですけど、失礼ですが、何系のアメリカ人ということになるんでしょう?
メレダンドリ:僕はイタリア系の家族で生まれたニューヨーカーだよ(笑)。
----あ、やっぱりイタリア系なんですね。あなたがこれまで製作してきた作品は、たとえばディズニーの作品、あるいはピクサーの作品と比べても、明らかに違いがあると思うんですね。その違いを、ご自分ではどのように定義しているのでしょうか?
メレダンドリ:そうだね。ディズニーやピクサーがストーリーを最も大切にしているとしたら、僕が最も大切にしているのはキャラクターなんだ。
――まさにそうですね。そんなにはっきり言ってくれるとは(笑)。
メレダンドリ:僕が大切にしているのは、主人公が完璧なキャラクターではなく、欠点のあるキャラクターであることなんだ。主人公はその欠点を乗り越えようと、いろんな方法でもがくことになる。ストーリーは、その主人公の「もがき」から生まれると言ってもいい。それと、あくまでもコメディであること。コメディでありながら、登場人物たちの感情に観客がアクセスできるようにいつも心がけている。観客がアニメーションに共感をするのは、大きなストーリーよりも、実はちょっとした瞬間のキャラクターの細かい表情の変化だったりするんだよ。そういう細かい変化に気づいた時に「自分はこのキャラクターの気持ちをよく知っている」と思うんだ。そういう意味では、観客だけでなく、アニメーターを夢中にさせるような魅力のあるキャラクターであることがとても重要になってくる。実際に『ミニオンズ』を作っている人たちは、他の誰よりもミニオンたちの大ファンなんだよ。
――なるほど。そういう意味では、『ミニオンズ』って、日本で作られてきた、長年人気のあるいくつかのシリーズもののアニメーション作品と、実はかなり近い発想で作られていると言っていいかもしれませんね。
メレダンドリ:そうだね。それは常々自分もよく感じてきたことだよ(笑)。
(取材・文=宇野維正)