怪異には“物理”で対抗? 『テディベアは夜笑う』鞠目が明かす、“恐怖と笑い”の黄金比

 イケメンに化けたクマのぬいぐるみのテリーと、なぜか怪異に好かれる隼人。廃墟やいわくつきのホテルなど、さまざまな場所で怪奇現象に遭遇する二人は、そのたびに物理で対抗し、怪異と派手なバトルを繰り広げる――。

 二人の関西弁の掛け合いにニヤリとさせられたかと思えば、頭の中でリアルに浮かび上がる怪異の恐ろしさにゾワゾワ。そんなホラーとコメディを掛け合わせた新感覚小説が『テディベアは夜笑う』だ。

 リアルサウンドブックでは、著者である鞠目にインタビューを実施。本作の着想や創作の裏側、ホラーの魅力について話を聞くなかで、作品のモデルとなった実話怪談にまつわる不気味な後日談も飛び出した。

ホラー×コメディの可能性

――本作は、どんな経緯から執筆が始まったのでしょうか。

『テディベアは夜笑う』(鞠目/ことのは文庫)

鞠目:ある日仕事の帰りに歩いていたら、たまたますごいイケメンとすれ違ったんです。多分フランスの方だと思うのですが、もう顔が整いすぎて人形みたいだったんですよ。それで、「もし人形が人に紛れて生活していたら、楽しそうだしなんか怖いかも」と思ったのが始まりですね。そこからフランス人形より馴染みのありそうなテディベアに設定を変更して、今の形になりました。

――ホラーだけでなく、コメディ要素も入れようと思ったのはなぜですか?

鞠目:もともと「小説家になろう(以下、なろう)」に、ホラーとほのぼの系の小説を混ぜこぜにして投稿していたんです。デビュー作の『下の階にはツキノワグマが住んでいる』(ことのは文庫)はほのぼの系で、前作の『お客様が不在の為お荷物を持ち帰りました。』(アルファポリス)がガッツリホラーだったので、今回はその間くらいを狙っていこうかなと。

隣人はツキノワグマ? 日常の延長にある心温まるメルヘン『下の階にはツキノワグマが住んでいる』にほっこり

「あぁ、今すぐ本の中に飛び込みたい!」――そう感じるのは、きっと筆者だけではないだろう。本作の中には、もふもふの動物たちに囲まれ…

――ホラーとコメディを融合させた作品を書くのは、今回が初めてですか?

鞠目:長編では初めてですが、短編自体は「なろう」でちょこちょこ書いてました。漫才のような掛け合いが続いて、最後はホラーテイストに収めるといった感じのものです。「なろう」ではホラーってマイナージャンルで読者も少ないんですよ。でもそこにコメディ要素を混ぜると、ホラージャンルの中でもちょっと反応が良かったりしたので、割とニーズはあるのかなと思っていたんです。そこで、今回初めて長編を書いてみたという形です。

――短編を書いているなかで、ホラーとコメディの組み合わせに可能性を感じていたんですね。

鞠目:そうですね。あと、20年ぐらい前になにかのテレビ番組に出ていたホラー映画の監督さんが、「ホラーとコメディは紙一重」みたいな話をされていた記憶がずっと残っていたというのもあります(笑)。

――メインキャラであるテリーと隼人は、どのような順番で生まれましたか?

鞠目:タイミングはほぼ同時ぐらいですね。コメディ寄りの掛け合いで、コメディだったら関西弁だよな。せっかくならイケメン並べる方がいいかな……という流れでテリーと隼人のコンビが出来上がりました。

――二人とも関西弁にしたのは、なにかこだわりがあったのでしょうか。

鞠目:私自身お笑いが好きで、毎年「M-1グランプリ」を見てるんですが、関西弁同士の組み合わせが一番会話のテンポが速いと思うんですよね。それをイメージして頭の中でテンポを見ながら書いてたので、自然と関西弁になってましたね。逆に片方が違う方言だとリズムが崩れて面白くなくなるかなと。やっぱり掛け合いはサクサク読んでほしいので、引っかかりがないように、リズムはずっと重要視してました。

――文章での面白さを追求する上で、関西弁同士の会話のテンポが最適だったんですね。ちなみにあとがきには「ホラーに対して苦手意識がある方にも手にとってもらえるような内容を目指した」と書かれていましたが、多少ホラー表現を手加減した部分もあるのでしょうか。

鞠目:もともとレーベル側から「人が死ぬのはNG」と言われていたのでそこは守りましたが、それ以外のホラー表現などは、手を抜いたら中途半端になると思ったので通常運転ですね。ただ、ずっと怖いと読んでいる側も疲れちゃうと思うので、息継ぎといいますか、緩めるところはコメディで笑わせる。中だるみしないように要所要所に怖い部分を盛り込む、みたいなバランスは見ていました。

誰もが経験していそうなリアリティが恐怖につながる

――ホラー表現でこだわったのは、どんなところですか?

鞠目:私、ホラー小説は読むんですが、ホラー映画はほとんど見たことがないんですよ。ビジュアルで来られるとキツいものがあるので(笑)。だからこそ、ホラーを書くときは、自分が何を怖いと感じるのかを言語化するように心がけています。

 怖いものの定番といえば、白い服に長い黒髪の女性などが思い浮かぶと思いますが、作家さんによって恐怖の描き方は違いますよね。たとえば背筋先生の作品には、首が伸びたり、身体の一部が人間とは違っていたりする描写があります。私も、そうした定番のイメージに何かキャッチーな要素を加えたいと考えて、今回は自分が嫌だと感じるものの組み合わせを書いてみました。

――今作には、ビジュアルや行動もさまざまなタイプの怪異が登場します。こうしたアイデアは、どのように生まれるのでしょうか。

鞠目:基本怖がりなので、ちょっとしたことでも「もしこれがこうなったら嫌だな」ってすぐ考えてしまうタイプなんですよね。この間も、道ですれ違った人の紙袋の中身がちらっと見えて、なんかよくわからないものが入ってたんですけど、「あ、もしこういうものが入っていたら嫌だな」とか想像しちゃったりして。ホラーになりそうなものをついつい考えてしまうんです。だから軸と使うものさえ何か決まっていたら、あとはもう、ああでもないこうでもないと考えて、その中で一番しっくりくるものを選ぶって感じです。

――日常のなかで恐怖につながるものを敏感に感じ取り、それを作品にも反映されているんですね。

鞠目:そうですね。もともと「なろう」に投稿していた短編も、自分が経験した嫌なことを一人で抱え込みたくなくて、小説にしてみんなにも気持ち悪くなってもらおう、という考えで書いていたので(笑)。

――ちなみに、今作にも実体験を反映した部分はあるのでしょうか。

鞠目:第六章に、お墓で黒い服の女性に遭遇するシーンがあるんですが、あれは近所の居酒屋の大将から提供してもらった実話怪談がベースなんです。先日、その方に見本誌を渡しに行ったところ、後日談を聞いたんですよ。

――後日談?

鞠目:はい。大将は、あの話が本になることをお墓にご報告しに行ったそうなんです。山間のお墓なんですけど、そこで突然すごく大きな笑い声が聞こえて。明らかに自分を笑っているような感じがして、「誰や?」と思って周りを見ても誰もいない。お墓の他の列を見ても誰もいない。気持ち悪くなって、「ほな、もう帰るからな」と帰り際に手を合わせていたら、肩の辺りを強く押されて尻餅をついてしまったらしいんです。で、家に帰って肩を見てみたら、二本の指の跡が黒くついていたんだとか。

――後日談というか、マジの怪談じゃないですか……。

鞠目:あはは(笑)。

――同じ章には、玄関の向こうから家族の声がして、ドアスコープをのぞいたら黒い棒が立っていたというシーンもありますよね。あの描写も、なんともいえない不気味さがありました。

鞠目:あれは完全に創作ですね。化け物の見た目って、人によって結構イメージが違うと思うんです。鬼だったら、色とか角の長さとか表情とか、いろいろ考える余地があるじゃないですか。でも棒だったら、色や太さをある程度示してあげれば、だいたいみんな同じようなビジュアルが思い浮かぶかなって。かつ、棒が話して動くのって気持ち悪いなと思って、今回書かせてもらいました。

――“読者が共通したイメージを持てる”という基準を大事にしているんですね。

鞠目:ドキュメンタリーを目指しているつもりはないですが、日常の延長を意識して書いているので、なるべくリアルにしようとは思っていますね。第三章に出てくる給湯器詐欺の話も、実際に祖父母の家であった話を盛り込んでるんです。そうやって、誰かが経験していそうなことを書くように心がけてます。

――リアリティでいうと、本作には推し活行き過ぎてストーカーになる人、ゴミをわざと荒らす人など、人間のリアルな陰湿さも描かれています。

鞠目:人を描くときもリアルさは意識していますね。SNSでいろいろな人の投稿を見て、それに脚色して話を作ることもあります。完全にいない人を書いてしまうと、「怖い」よりも「こんな人いないだろ」っていう感想が先に出てしまうと思うので。

――普段からSNSを見て作品のアイデアを探しているのでしょうか。

鞠目:よくしてますね。Xでバズってる内容は、その反応も含めてよく見ます。たとえば育児系のアカウントで、「旦那が育休取ったのになにもしてくれない」っていう愚痴を書いているポストを見かけたら、それに対してどんなリプがあるのかチェックしたり。割と注目を集めていて、かつプラスの面もマイナス面もあるものは、とりあえずいいねをつけておいて、書けそうと思ったらメモに残しておく感じですね。

――リアリティを追求される一方で、怪異と遭遇したときはバトルもののような展開にもなりますよね。

鞠目:それ、実は全然意識してなかったんですよ。読者の方からもそういった声をいただいて初めて気づきました。

――お祓いなどではなく、物理で対抗する形にしたのはなぜですか?

鞠目:いざ怪異と遭遇したときの選択肢の一つとしては、物理もありなのかなと。もしかしたら夢を見ていたのかもしれないんですけど、私、一度金縛りにあったことがあるんです。身動きが取れなくなってしまって、周りがすごく騒がしくて。そのとき隣では子どもも寝ていたので、「この声で子どもが起きたら、また寝かしつけせなあかんよな」と思ったらすごくイラッとして、思わず「お前たいがいにせぇや!」と怒鳴ったんです。すると、自分の声で目が覚めたのか、金縛りも解けて、周りの声も聞こえなくなりました。だから、怪異に対しても意外と物理というか、勢いが効果を発揮することもあるのかなと(笑)。

――そこも実体験が元にあるんですね。実際のバトルシーンはどのように展開を考えていくのでしょうか。

鞠目:私は頭の中で映像をイメージしながら、キャラクターをどう動かしたら一番しっくりくるかを模索して、それを文字にしていくんです。なので、怪異に遭遇するのは決まったけど、結末が決まらないっていうときは、「どう動かしたらスカッとするか」を軸に考えてました。だから「もうとりあえず殴りに行かせたらいいか」とかになってしまうという(笑)。

ホラーはわからないまま終わってもいい

――昨今、令和のホラーブームと言われており、小説をはじめ、映画やゲームなどさまざまなホラーコンテンツを多くの人が楽しんでいます。あらためてホラーというジャンルの魅力はどんなところにあると思いますか?

鞠目:「自分の身にも起こり得るかもしれない」という視点で楽しめるところが魅力なのかなと思います。異世界やファンタジーの世界に自分が行くことはなかなかないと思うんですけど、ホラーは「もしかしたら自分にも……」という感覚がありますよね。あと日常をテーマにした物語はたくさんありますが、ホラーは、サスペンスやミステリーに比べて、よりスリリングな部分があると思うんです。ミステリーには謎を解き明かす面白さがありますが、ホラーは必ずしもそうではない。自分の常識が通用しないものを描くジャンルだと個人的には思っています。だからこそ、わからないまま終わる物語があってもいい。もちろん、そういう終わり方を嫌がる人もたくさんいると思います。でも、たとえ納得できない終わり方だったとしても、何かが自分のなかにじくじくと残る。そうした独特の読後感を楽しめるのが、ホラーというジャンルなのかなと思います。

――実際の恐怖体験も、必ずしもオチがあるわけではないものが多いですよね。ご自身の作品を読んだ方にも、そうした独特の読後感を味わってほしいという思いがあるのでしょうか。

鞠目:そうですね。ホラー作品を書いているときは、嫌な読後感というかザラザラした手触りのような感覚を残したいと思っていました。指に少し残ったささくれや、風呂場の床のタイルにある黒カビのように、常に意識しているわけではないけれど、ふとしたときに目に入って嫌な気持ちになる。そんな、ざらりとしたものが心に残るようにしたいですね。

 ただ、今作においてはコメディにもかなり力を入れているので、どこかで一度でもいいから読者に声を出して笑ってもらえたら嬉しいです(笑)。「ホラーなのになんか笑えたな」「変な本だったな」みたいな、ちょっと不思議な読後感が残ったらいいなと思っています。

■書誌情報
『テディベアは夜笑う』
小説:鞠目
イラスト:Ney
価格:781円(税込)
出版社:マイクロマガジン社(ことのは文庫)

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