ふかわりょうが贈る、氷河期世代へのエール「中年であることを楽しめればいい」

ふかわりょう『中年よ、すねを剃れ』(中央公論新社)

 ふかわりょうが、最新エッセイ集『中年よ、すねを剃れ』(中央公論新社)を10月21日に発売した。お笑い芸人、MC、DJと多彩に活動するなか、文章を書くことも長く続けてきたというふかわ。本書に収められたエッセイも、もともと本にするつもりではなく、日々のなかで「書き残しておきたい」と感じた出来事を綴った文章だった。

 旅先で過ごした時間、愛車への思い、幼い頃の記憶。書くことでその瞬間を追体験し、言葉を磨いてきた。それらを一冊にまとめるなかで、どんな思いが生まれたのか――。「好き」のひと言では語りきれない感覚や、多くの人が素通りするような日常の細部に目を向けるふかわに、文章ならではの表現について、そして、この本に込めた同世代への思いを聞いた。

文章を書くことは、日々の「筋トレ」であり「追体験」

ふかわりょう氏

――ふかわさんといえば、お笑いのみならずMCや音楽など多岐にわたって活動をされています。なかでも文章を書くという表現についてどのような思いがありますか?

ふかわりょう(以下、ふかわ):僕が文章を書く理由はいくつかあって。まずは、書かずにはいられないという気持ちが湧き出てくる場合ですね。それと、論理的なことを頭のなかでまとめる役割、その2つが主にあります。僕は20歳でお笑い芸人として活動を始めたんですが、当時はメルマガが流行っていたんです。そこで毎週文章を書くようになってから、書くためにアンテナを広げる感覚が出来ました。それからは、どことなく筋トレに近い感覚で、常に文章を書くという作業からは離れたくないな、と思うようになりました。

――では、日常的に書き溜めているのでしょうか?

ふかわ:そうですね。今回のエッセイについても、実はどこかに発表しようと思って書いていたものではなくて。ましてや「中年の本を作ろう」とか、そういうものがあったわけじゃなかったんです。例えば、この本のなかにある、山形で過ごした1泊2日の出来事も、これは文章にしておきたいな、せずにはいられないなっていう気持ちで、ただただ書き残しておいたものでした。僕は常々、何かを形にするって、彫刻を作る作業に似ているなって感じているんです。最初は大まかに削っていって、徐々に精度を上げていくというか……彫刻、やったことないんですけど。

 ただ、そうやって毎日毎日繰り返し文章をブラッシュアップしていくと、その作業自体が追体験になっていくんですよ。僕は、旅そのものも好きですけど、それを文章として落とし込むときの追体験も好きなんだと思います。アルバムの写真を見返す感じに近いというか。自分のなかでこの瞬間をちゃんと収めたい。そこには、ものづくり特有の神経を使う痛みは付きまとうんですけど、むしろその痛みの時間があることで、楽しいだけで終わらない、飽きさせない部分もあるなとも感じていて。その痛みも含めて大切に思っています。

――やはり文章だからこそ表現できるものがありますか?

ふかわ:ありますね。テレビやラジオもそうですが。メディアごとに向き不向きがあるなかで、文章だからこそ伝わりやすいものがあると思います。

――本書のなかにはビジネスホテル『ドーミーイン』への愛を綴った「拝啓 ドーミー様」という手紙形式の章もあります。あれは、まさに文章ならではの表現だなと思いました。

ふかわ:例えば、僕が「サービスエリアが好きなんです」って言うとするじゃないですか。そうすると、テレビでは必ずといっていいほど「好きなサービスエリアを3つ、その理由と共に出してもらえますか?」って言われるんです。もちろん、マスメディアではそういう表現にしたほうが伝わりやすいっていうのはわかるんですけど、個人的にはそんな単純なものとして「好き」を語れないですし、ましてや順位を付けられるようなものでもないんです。そういうもどかしさみたいなものが常にあって。文章でなら伝えられるんじゃないかという思いもあるんです。

しっくり来ない感覚が、表現の原動力になる

――伝えたいものがちゃんと届く形と、その表現と相性のいい場所があるということですね。

ふかわ:僕はお笑いももちろん好きなんですけど、「笑えるもの=面白い」とも思っていない、厄介なタイプなんです。なんていうか、じんわり温まるみたいなものもあるというか。自分のなかでは、すべて地続きではあるんですけど、アウトプットの仕方が全部同じではないんです。「これだけでやっていれば、自分の表現のすべてが出せる」みたいなものって無理だと思うんです。とくに僕は「なんでみんなコレに気づかないの?」って言うとちょっとおこがましいんですけど、みんなが見ているところとズレちゃうところが常にあって。それは決して、奇をてらっているわけではないんですけど。いつも、そういうしっくり来ない感じが、もしかしたら自分の表現の原動力になっているかもしれません。

――ふかわさんの作品やトークを拝見すると、とても繊細に物事を捉えていらっしゃるんだなと思います。

ふかわ:いや、「繊細だ」なんてなかなか言われないですよ。むしろ「めんどくさい」と言われます。ただ、僕としては本当にめんどくさいタイプって、実は違う人種で。例えば、「じゃあ集合写真を撮ります」ってなったとするじゃないですか、そしたら「あ、真ん中どうぞ」「ええ!? 私なんて真ん中になるような人間じゃないですから」「いえいえ、真ん中ぜひ」みたいなのが、一番めんどくさいです。もう誰が真ん中でどうだとか、どうでもいい。 黙ってスッと撮ればいいんだって、って思います。あと、ネットニュースに「どうでもいい記事」とか書き込んでる人。「アナタ、それ見てコメントしてるじゃないか」っていう。あ、ちょっと話がそれてしまったんですが、本当にめんどくさいタイプっていうのは他にちゃんといて。僕は“めんどくさい人”っていう商品イメージをまとっている感じなんですよね。

――(笑)。その多くの人が素通りしそうな場面を、ちゃんと見ているんだと思います。

ふかわ:みんながどうでもいいと思っていることに、どうでもいいと思えないタイプなんです。なので、後々「だから言ったじゃん」っていうことが多いんですよ。「僕があれだけ言ってたのに、あのとき全然耳貸してくれなかったよね!?」みたいなことがすごく多い。それで、「だから言っただろ」っていうフレーズをブリッジにしたネタを作ったり。

――先ほどお話に出た、山形の出来事を書かれた章では「脂の乗った秋」という詩的な表現が印象的でした。そうした文章表現を、どのようなところから吸収されているのでしょうか?

ふかわ:特定のものはないです。「言葉はファッションだ」と思っているので。「この言葉にこの組み合わせはどうだろう?」と、好きな服を選ぶような感覚で、自分の好みの言葉と向き合っているところが多いように思います。

――普段、どういったものを好んで読まれていますか?

ふかわ:読書自体は日常のなかにあります。手に取るのは、基本的に文豪と呼ばれる方の作品が多いですね。今日は三島由紀夫さんの本をカバンの中に入れてきました。もちろんSNSなどもある程度は見ますが、やはり過剰摂取には注意しています。本を開いて飛び込んでくる文字のほうが、脳に栄養がある感じがします。

同じ時代を生きた人へ、子守唄のような一冊を

――今作は、タイトルの『中年よ』という呼びかけをはじめ、同世代に向けて語りかける場面が多くあります。

ふかわ:いざ本にするというときに、同世代と何かを共有できたらいいなという思いが強くなっていきました。本のなかでも書いていますが、僕は氷河期世代に生まれたことによって、ものすごく感性が磨かれたようにも思っているんです。子どもがたくさんいて、みんなが同じもので横並びで育って、人と違うものが異様に目立ってしまう環境でしたから。その世代特有の感覚をブラッシュアップしていった結果、「お前んち、天井低くない?」みたいな『小心者克服講座』というネタにもつながった。きっと違う時代に生まれていたら、ああいうものはできなかったと思うんですよね。なので、こうして氷河期世代に生まれた僕が50代に突入し、改めて文章を書いて、本として出版することに意義を感じていますし、ちゃんとここまでたどり着けてよかったなと思います。

――「氷河の一滴」は、まさしくこの世代に生まれた方なら思わず胸が熱くなる章だと思います。とくにファミコンを取り出すときの白い発泡スチロールの描写から、あの時代の空気感がそのまま肌に触れたような感覚になりました。

ふかわ:嬉しいです。僕としては、あそこでそれなりの思いがあって「発泡スチロール」を文字にしたいって思っていたので。あの上蓋を持ち上げるときの、なんとも言えない感触が実体験として強く残っていたんですよね。人によっては、入れ物の話なんてどうでもいいと言えばどうでもいいのかもしれないけれど、僕はやっぱり「この発泡スチロールは落とせない」と思っていました。

――良かったです。まさに、あの時代の追体験だったので。同じ時代を生きてきた温かさを感じました。

ふかわ:この本のテーマは、中年を賛美したり悲観したりするものではなく、あくまで僕自身がこの数年、目の当たりにしたり、心を動かされたりしたものを、ありのままに綴る、ということでした。だから、大きな展開よりも、小さな起伏を楽しんでいます。

――愛車を手放す葛藤を綴った「物欲怪獣」の章は結構ドラマチックな展開でしたね(笑)。

ふかわ:あれはもう本当にこじらせてるというか。自分でもバカだなって思います。

――「でも、バカになれるのは幸せなこと」というフレーズに心を掴まれました。たしかに年齢を重ねるほど捨てられない愛着もあるなと。同時に「思い通りにならないから、人生は楽しい」という言葉にも励まされました。

ふかわ:50年以上生きてきて、自分が中年になった今、改めて実感したので。この本を読んだ同世代が、年を重ねることも悪くないなって、中年であることを楽しめればいいなと。もともと「氷河期世代のセレナーデ」っていうサブタイトルが僕のなかであったんです。氷河期世代の人たちの心が荒んだときに、子守唄を聴くような感じの本にしたいと。『中年よ、すねを剃れ』って一見、突き放しているようなタイトルではありますが、温かな気持ちになって、本を閉じて、眠りについてもらえたら嬉しいです。

■書誌情報
『中年よ、すねを剃れ』
著者:ふかわりょう
価格:2,200円
発売日:2026年10月21日
出版社:中央公論新社

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