『縁の手紙』は“緑”と“縁”が美しい――新海誠を思わせるアニメ映画と『ダンジョン飯』九井諒子に通ずる原作、それぞれの魅力

 9月25日公開のアニメ映画『縁の手紙』は、「LINEマンガ」で配信中の韓国の縦スクロール漫画・ウェブトゥーンが原作。迷いを抱える少女が謎の手紙に導かれ、次の手紙を探して回る中でいろいろな出会いを重ね、自分を取り戻していく物語だ。アニメ映画は新海誠監督作品を思わせる繊細でリアルな絵柄だが、原作は絵本やイラストに近い絵柄で、それぞれに違った魅力がある。

『君の名は。』や『となりのトトロ』にも通じる田舎の風景

 燃えるような緑が連なる風景の中をバスが行く。乗っているのはソリという少女。ソウルにある学校に通っていたが、いじめられていた同級生をかばったところ、今度は自分がいじめの対象になって学校に行けなくなり、子どもの頃に住んでいた田舎の家に移ることになった。

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 そして改めて通い始めた学校で、ソリが経験する出来事を描いたのが『縁の手紙』というアニメ映画だ。その映像には、日本でも目にする山里の風景や、森の木々が精緻なタッチで描かれている。浮かぶのは、新海誠監督の『君の名は。』で舞台となった、三葉の暮らす湖畔の集落や、宮﨑駿監督の『となりのトトロ』でサツキとメイが引っ越した田舎のビジョン。どこか見覚えのある風景が、韓国のアニメ映画でありながら、日本のアニメ映画に見慣れた目にも違和感を覚えさせない。

 キャラクターのデザインも、新海作品や今年の夏に公開となった『夏と花火と約束と』のような青春ストーリーが描かれた、近年の日本のアニメ作品に近いところがあって、これもまったく違和感がない。新海作品を手がけるコミックス・ウェーブ・フィルムが配給ということもあり、このスタジオの新作アニメだと勘違いする人がいても不思議はない。

 ソリという名前や、文字として登場するハングルが登場するところは確かに韓国のアニメ映画だが、それでも、発端となる少女が誰かを守ろうとしていじめに遭う状況は、『ガールズ・バンド・クライ』の井芹仁菜と同じだ。日韓を問わず、もしかしたら欧米も含めて若い世代が直面している学校での居場所のなさを描いている点で、世界に通じる作品なのかもしれない。

 ストーリーの方はといえば、ソリは転校した学校でも、いじめの記憶に縛られて周りとなかなか打ち解けずにいる。環境を変えればすぐに良くなると思っていただけに、よけいに落ち込んで苦しんでいたある時、机の中に1通の手紙が残されていたことに気付く。封筒を開くと、クラスメートや先生や職員の紹介と、学校での過ごし方のヒントが書かれた手紙が入っていた。

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 次の手紙の置き場所も書かれてあって、ソリはヒントを元に2通目の手紙を見つけ出し、そのまま手紙の呼びかけに従うように、新しい手紙を探して学校の中を歩き回っていた先で、ドンスンという名の少年と出会う。

 このドンスンを通して、ソリは誰が書き残した手紙なのかを知るが、どうして残したのか、そもそも誰に宛てて残したのかは分からないまま。それでも、手紙を追いかけているうちに、ソリに知り合いができ、友だちもできてしっかりとした居場所を見つけられるようになっていったところに、手紙が繋いだ“縁”のありがたさを感じ取る。さらに、その謎の手紙が誰のために書かれたものなのかが分かった時、長い長い“縁”というものが繋がって、嬉しさに心が満たされる。

原作と映画で異なる“世界”の見え方

 映画ではそんな展開を、写実的に描かれた美しい背景の上で、静かな音楽や歌声に乗せて紡いでいく。ソリとドンスンの出会いから続く手紙を探して歩くちょっとした冒険ストーリーに引っ張られ、観客をその渦中に身を置いているような気にさせる。ところが、チョ・ヒョナによる原作の漫画では、少し受ける印象が変わってくる。漫画は写実的というよりはデザイン的、あるいは絵本的な絵柄なのだ。

 チョ・ヒョナが描く『縁の手紙』のキャラクターは、アクションもののウェブトゥーンで見るような荒々しさとも、日本の少女漫画のような端麗さとも離れたシンプルな絵柄をしている。描き込みが少なく太めで単純な線で人物を形作り、動きを描き、表情もしっかりと描いてみせる。日本の漫画で言うなら、「ニューウェーブ」と呼ばれた高野文子やさべあのまが近いかもしれない。古すぎるというなら『ダンジョン飯』の九井諒子や『放浪息子』の頃の志村貴子といったところか。

©HYEONA CHO/LINE Digital Frontier

 ソウルの学校でいじめられ、田舎に転校したソリが新しい学校でもなじめず涙をこぼすシーンなど、たったひとコマなのに心にズンと突き刺さる。そんなキャラクターの絵を、1枚1枚つないで行きながらページを送り進める展開は、何が描かれているかがすぐ分かることもあり、展開がすっと頭に入ってくる。縦スクロール漫画のウェブトゥーンにこういう手法があったのかと驚ける。

 人物は単純だが、背景はアニメ映画ほど緻密ではないものの描きこんであって、ソリが通っている学校の緑の豊かさぶりに触れられる。その緑が時に運命的な出会いの舞台となり、都会とは違った森に囲まれた田舎の学校の素晴らしさを感じさせてくれる。それもひとえに、チョ・ヒョナが漫画の背景として描く自然の豊穣さがあるからだろう。そこは、リアルさに傾いたアニメでは再現できない特徴だ。

円のように繋がる“縁”の物語

 アニメ映画も原作も共通の展開で、ドンスンと出会ったソリは、ドンスンに心当たりのある手紙の主が残したメッセージを追って、次また次と手紙を探して駆け回る。手紙が挟まれていた石が新しく作られた池の底に沈んでしまっても、迷わず池に入って手紙を探そうとするソリにはもう、新しい学校で誰からも相手にされないかもしれないという不安はない。知り合いができて、目的が生まれることによって人は前向きになれる。そんな様子を見るにつけ、迷っている人がいたら何をしてあげたら良いのかを学ぶことができる。そんな映画であり漫画だ。

 ここで不思議なのは、水に浸かって読めなくなった手紙を、温室の管理をしている女性が読めるようにしてしまったこと。もしかして魔法? ちょっとしたファンタジーの要素が繰り出されて、映画を観る人や漫画を読む人を幻想の中に誘ってくれる。その一方で、表向きは優等生を装いながら、影でいじめや不正に手を出している少年の存在が、現実の悪意の存在を見せて気持ちを乱す。

 権力には逆らえないのか。弱い者は強い者には逆らえないのか。そこは、振り絞った勇気が拓く新しい道を見せることで、安心感を持って読み進めていくことができる。何よりクライマックスで起こることがまだ嬉しいし美しい。苦しんでいた誰かを導いたソリの過去が、ドンスンを経て今苦しんでいるソリを救い導く。円のように繋がる“縁”。その果てに待っている感動のフィナーレは、映画も最高だが縦スクロールで表現される漫画も最高だ。

 アニメ映画から観ても漫画から読んでも大丈夫。等しい感動を味わい、それぞれの表現の違いを楽しもう。

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■作品情報
『縁の手紙【リマスター版】』
作者:HYEONA CHO
配信:LINEマンガ
URL:https://manga.line.me/product/periodic?id=Z0004335

■映画情報
『縁の手紙』
公開日:2026年9月25日
公開劇場:新宿バルト9ほか全国ロードショー
監督:キム・ヨンファン
原作:チョ・ヒョナ『縁の手紙』(LINEマンガ)
声の出演:矢吹奈子、小野賢章
制作:STUDIO LICO、STUDIO N
配給:コミックス・ウェーブ・フィルム
配給協力:KeyHolder Pictures
協力:CWF CINEMAS
上映時間:97分
公式サイト:https://en-no-tegami.com
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