『小説すばる』どうしちまったんだよ! 『HiGH&LOW』10周年祭りがボリューム満点でファン必読

 『小説すばる』の2026年10月号がえらいことになっている。WEBサイトを見る限り前号までは普通だったのに、10月号では突然「行くぞテメェら!『HiGH&LOW』10周年祭り」と題した特集を掲載。特に前兆もなく、いきなりハイロー祭りを開催しているのである。コブラじゃなくても「どうしちまったんだよ!」と思わずにはいられない。

 特集タイトルで改めて気付かされたが、思えばハイローも始まってから10年が経つ。というか、ドラマ版の放送開始は2015年10月なので、正確にはすでに10年以上経っている。一応書いておくと、ハイローこと『HiGH&LOW』とはEXILE TRIBEなどが所属するLDHが展開する総合エンターテイメントプロジェクト。10年の間にドラマ・映画・ライブ・舞台・コミックなど幅広いメディアで展開されており、すでに一口に説明するのが難しい規模感になっている。映像作品については各種配信サービスでも見られるので、気になる方はチェックしてみていただきたい。

 ちなみにファンの間でも議論が分かれるであろう「ハイローを見る順番」については、自分は一番最初のドラマ版から順を追って見ていくのが一番混乱が少ないと思っている。一番最初の映画は確かに映像的にもリッチでインパクトがあるし最初にこれを見てもいいような気はしますけど、やっぱり琥珀さんがどうしてあんな感じになっちゃったのかを理解した上で映画版の終盤を見た方が泣けるし、見てて腑に落ちると思うんですよね……。

 話が逸れた。今回の『小説すばる』ではこのハイローを大特集。出演者であるAKIRA(EXILE/EXILE THE SECOND)と河村壱馬(THE RAMPAGE)に加え、10年にわたってシリーズの脚本・監督・演出を手掛けている平沼紀久の3人による鼎談が掲載されている。さらに青崎有吾、葉真中 顕、円居 挽、三浦しをん、吉川トリコによるハイローをテーマにした読み切り短編や、ハイロー識者の作家陣によるエッセイ、さらにシリーズ各作品の解説や名台詞集など、盛りだくさんの内容だ。

 まず特集の頭に収録されている鼎談だけでも読み応えがある。3人それぞれのハイローにかける思いがリラックスした空気の中で語られているが、その中でも「轟の名前をあんまりちゃんと覚えていないAKIRAさん」「琥珀さんを演じるにあたり自分の判断でイカつめの床屋に行ったAKIRAさん」「『魔法使い琥珀さん』のアイデアを生み出すAKIRAさん」など、AKIRAさんの発言は一歩踏み込んだインパクトがあり、ファンならば必読。というか、「魔法使い琥珀さん」はスピンオフか何かで実現させるべきなのではないだろうか。琥珀さんのことだから、最終的に魔法使うのがめんどくさくなって、つい拳が出そうではあるけど……。

 特集内でもボリュームのある、5人の作家による短編も見どころが多い。ハイローの魅力は色々とあるが、その中でも大きなボリュームを占めているのが殴り合いであり、キャラクターごとにスタイルの違うアクションはシリーズの見せ場となってきた。今回の特集に参加している作家陣の中にはあまりアクションシーンの印象のない作家もいるが、そういう人でも短編の中でいきいきと殴り合いを書いているのは、ハイロー特集ならではだろう。

 この「ハイローにおける殴り合い」について、各作家がどのような目線で描いているのかを読み比べるのも楽しいはず。ある作家はコミュニケーションとしての殴り合いを書き、ある作家はキャラクターの魅力を描くための殴り合いを書く。ハイローというお題に対するレスポンスがおのおの異なり、必然的にアクションシーンと作品の主題との関わり方も異なってくる(もちろん、殴り合いを描いていない作品もある)。このあたりのアプローチの違いを味わえるのは、同一の世界観をお題として提示している今回の特集ならではだろう。

 ちなみに自分は、5つの短編のうちでも葉真中 顕氏による『カウント・アンド・ベット』が好みだった。大量のキャラクターの中から劉を主人公にするというチョイスの渋さ、アクションに関するコテコテ気味なケレン味、殴り合いと主題の結びつきの鮮やかさに加えて、全編読んでの「葉真中さんってこういう芸もあったの!?」という驚きもあった。葉真中氏にはどちらかというと重ための社会派ミステリーを書く人という印象があったのだが、武侠小説とか忍法小説も全然書けるんじゃないだろうか。

 ハイローファンの作家たちによるエッセイも読み応えがある。中でも阿津川辰海氏による『ハイロー、プリパラ、ジョン・ディクスン・カー』は、タイトルだけで「およそ10年前の頃のインターネット」の記憶が濃厚に蘇ってきてしまった。あの頃はまだ今ほどTwitterの環境も悪くなかった気がするし、ていうかそもそもXじゃなくてTwitterだったし、そしてプリパラもめちゃくちゃ面白かったし、おれもフリーライターじゃなくて編プロ勤務だったな……。10年という歳月が経過したことを、しみじみと思い知ったエッセイである。

 全編ハイローを愛する有名作家による超豪華合同誌といった趣の『小説すばる』10月号。なにしろ来年には新作映画の公開も控えており、これからジワジワと盛り上がっていくことは確実。まさにその口火を切るような特集だったと言っていい。基礎的な情報も掲載されているので、ハイローのファンはもとより「ハイローはよくわかんないけど、掲載作家のファンではある」「なんかちょっと気になっている」という感じの人にも手に取ってほしい一冊である。

■書誌情報
『小説すばる 2026年10月号』
価格:2,800円
発売日:2026年9月16日
出版社:集英社

関連記事