奥平大兼が演じるヤンキーはなぜチャーミングなのか? 『税金で買った本』の“自然な独り言”に注目
あまりにも自然な独り言が天才的!
ずいの原作漫画『税金で買った本』の主人公・石平紀一は、強面のヤンキーという設定で、攻撃力がありそうな前歯が随分とギザギザしている。だが、同作を原作とする放送中の夜ドラ(NHK)で、奥平大兼が演じる紀一の歯は変に尖っているわけでもないし、実写化作品だからといってビジュアルを極端にデフォルメしているわけでももちろんない。
やや威圧的なヤンキー風の金髪スタイルではあるが、どこかやわらかな雰囲気もあわせもったソフトな仕上がりになっている。だから本作は決してヤンキーが暴れまわるような作品ではない。主な活動拠点を図書館に定めたマイルドなヤンキーによるハートウォーミング作品なのだ。
絶妙な配役である奥平が演じる紀一は、よく独り言を発する人物であり、その様子がなんともチャーミングで見る者を飽きさせない。紀一と本との遭遇を準備する第1話序盤では、ちゃちゃっと喧嘩を片付けた紀一が本屋に立ち寄る。店前で「書店大賞」の受賞者名を見て「変な名前」と呟き、何度か視線を上げ下げするのだが、この独り言の発し方(とそれに伴う視線移動)があまりにも自然すぎて、独り言を自在に操る奥平大兼の表現力が天才的すぎる。
控えめなトーンと音量調節
さらに第2話では帰宅した紀一が、外の廊下を歩きながら「よく考えたら、なんでこんな建物ピンクなんだよ、気持ちわりーな」と毒づくのだが、こんな長セリフの独り言でさえも奥平は何ら不自然な演技にならない。そしてこの「気持ちわりーな」が第5話まで豊かに尾を引き、図書館でアルバイトをするようになった紀一が面倒な年配利用者を見て「きぃもっ」と歯切れのよい独り言を発する場面につながる。
その利用者にからまれていた先輩職員・早瀬丸小夜香(西野七瀬)から、業務内容を教わる場面ではこんなワードまででてくる。原作だと第1巻第3話(3冊目「ゆる登山ミニガイド」)で描かれる場面だが、早瀬丸から「前出し」(「背表紙を前にそろえることだよ」と説明)と聞いた紀一が「なんかエロいやつ?」と顔を赤くしてリアクションする。奥平演じる紀一は、場面の頭から作業用前掛けの(ほぼ股間付近の)前ポケットに両手を突っ込んだ状態を作り、このセリフの伏線としていた。
早瀬丸からいざ「前出し」というワードを聞くと、ポケットから手をだした紀一がイタズラっぽく股間のあたりで手を回しながら「ちょっとエロい感じ?」と言った。これも独り言同様、いかにも自然な調子だ。静かにしていなければならない図書館で発するにはあまり相応しくないワードであることから、紀一はきちんと控えめなトーンを守っていた。紀一の独り言が多い本作は音量調節も徹底しているのだ。
奥平大兼は「映画の風が吹く人」
図書館とは無縁であるはずの紀一がそこで働くようになるきっかけは、彼の幼少期にかかわる小説作品を探し当てるためだった。紀一の言葉をヒントに早瀬丸がその一冊を見つけてくれるが、図書館にある在庫はあいにく、ページの端が破られた修理中のもので貸し出しできなかった。そこで紀一は、図書館内の本のどこかに挟み込まれている可能性がある破片を探し出そうと、棚から棚へ片っ端から点検した(原作漫画では違う本を探す)。
でもそう簡単に見つかるはずがない。あっちを探し終えたら、こっちを探してみるのだと内心ワクワクしている紀一が早瀬丸に報告する場面が第4話にある。原作の紀一は何かとカウンター内まで入ってきて彼女を困らせるが、ドラマの彼はいたって控えめに書架の方を指差す。場面は閉館10分前だった。すると館内で鳴り響くBGM……。図書館の閉館BGMというと「蛍の光」が相場だが、ここでは何とグスタフ・マーラーの「アダージェット」(交響曲第5番第4楽章)が流れる。ちょっとセンチメンタルすぎる選曲だが、画面上では極めて控えめに音量が調整されている。
そんな中、紀一が左手を腰に当て、右手で指差す紀一のポーズが、同曲を日本で流行らせた映画『ベニスに死す』(1971年)に登場する美少年が海の中に屹立し、ポーズしたあの有名なポージングとよく似ていることに気づく。いや、まさかNHKの夜ドラがイタリア映画の巨匠作品と結びつくだなんてこじつけがすぎるかもしれないのだが、奥平の主演映画『PLAY!~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』(2024年)の古厩智之監督が、筆者との個人的なLINEの中で、「(奥平大兼は)映画の風が吹く人」と言っていたことがここで説得力をもたせてくれる。閉館間際の図書館で、奥平演じる紀一が指差す書架と書架の間を、その「映画の風」が吹き抜けてもなんらおかしくはないのだ。