THE YELLOW MONKEY、再集結10周年を象徴する“温かな深み” スリルと祝祭で駆け抜けたライブハウスツアー『60分一本勝負』
メンバーたちが去っていくステージには、温かい空気が充満していた。お互いを思いやり、優しさを持ちながら、全力で音楽に向かう姿。それをやはり、温かい拍手と声で見送るオーディエンス。
こんな空気、昔の……90年代のTHE YELLOW MONKEYにはなかった。もちろんあの頃の4人も優しくて気のいい男たちだったが、今のこの雰囲気は、再集結からの活動を続ける中で生まれたものだと思う。
『THE YELLOW MONKEY TOUR 2026 THE COUNTDOWN 〜60分1本勝負〜』ツアーファイナル、10月30日のZepp Nagoya公演。開演前に流れるBGMのThe Velvet Undergroundやデヴィッド・ボウイの歌のあとに会場が暗転すると「ボナペティ」が流れる。2019年の全国ツアー『GRATEFUL SPOONFUL』でも使われていたブルージーな曲だ。これが終わるとステージのタイマーが01:00:00からカウントダウンをスタートし、メンバーたちが演奏を始める。1曲目は「ロザーナ」。
「お待たせしました名古屋! 『60分一本勝負』へようこそ!」
吉井和哉(Vo/Gt)が声をあげると、フルハウスのオーディエンスからは大きなリアクションが返る。EMMA(Gt/菊地英昭)の繊細なカッティングや、うねりのあるリズム隊がクールだ。立て続けにプレイされたのは「Stars」で、2017年発表の曲が続く。この時期の4人には、ライブを続ける合間に少しずつ新曲をリリースし、バンドのペースを掴んでいった感があった。また、2016年の再集結直後、多くのファンが各地のライブ会場を埋め尽くしたのはもちろんだが、その時に印象深かったのは、客席の男性の比率が高くなったこと、それから親子と見られる観客たちがいたことだ。これは90年代のこのバンドにはなかった傾向で、おそらく当時はライブを観れなかったファンもかなり多かったこと、そして時が移ろったことを強く感じさせる光景だった。今夜のZepp Nagoyaもあらゆる層の客が詰めかけている。
「60分、60歳。いろんな60がありますけど、一発たりとも同じ音はありません。そういう意味では、皆さんの人生と同じだと思っております!」
そう、吉井はこのツアーの間に還暦を迎えていた。前の週の東京・日本武道館公演ではメンバーやスタッフ、そして全国のイベンターたちに祝福され、ちょっと照れたような笑顔を見せていた彼である。
次の曲「I don't know」は2019年、久々となったオリジナルアルバム『9999』からの先行シングルで、HEESEY(Ba/廣瀬洋一)の重いベースラインから始まる曲。さらにサイケな匂いのスカナンバー「ホテルニュートリノ」と、ここではシリアスな描写がされた楽曲が続く。冒頭の2曲には再集結時の歓喜や興奮が詰まっていたが、時を経ながら、バンドは自分たちの深遠部に向かっていった。ことに「ホテルニュートリノ」は、今回のビジョンの映像も賑やかではあるものの、歌に込められた残りの人生についての言及は、以降のTHE YELLOW MONKEYのあり方そのものになっている。
ここで吉井から、今回は再集結から10周年を記念したライブハウスツアーで、この10年の間のシングル曲やMVになった、言わば代表曲を揃えたセットリストであるという説明がされた。では、ツアータイトルに入っている“THE COUNTDOWN”が示すのは……?
「何のカウントダウン!? 知らないの、俺たちも! 運営が教えてくれなくなりました(笑)」「ただ、水面下というか裏側では、しっかりと会場を押さえてるんじゃないかと……(客席から歓声)。おちおち弱ってる場合じゃない!」(吉井)
こうしているうちに、ステージ上のタイマーの残り時間がどんどん減っていく。60分というスペシャルなセットでは、5曲目にして早くも中盤戦なのだ。演目はもう一度、再集結直後の楽曲が続く並びになる。2016年の「砂の塔」はドラマ『砂の塔〜知りすぎた隣人』(TBS系)の主題歌だった曲で、ストリングスの不穏な音色が強いインパクトを残す。こうしてみると彼らの場合はタイアップであっても不安定な感情、ざわつくような心情が浮かぶ曲が多く、ここは90年代当初のTHE YELLOW MONKEYとの違いのひとつだと思う。あの頃もこうした傾向はなくはなかったが、今はいっそう顕著である。
イントロで吉井が「EMMAが皆さんに向けて書いた曲です」と言った「Horizon」は、EMMAが作詞・作曲を手がけたバラード。当時作られたドキュメンタリー映画『オトトキ』の主題歌になった曲で、あの映画では全国ツアー中に菊地兄弟の父親が亡くなったことが明かされたものだ。過去と未来を見つめながら〈会いに行こう 愛と絆と〉と歌われるこの曲は、大人になった彼らだからこそ演奏できるのだと思う。優しい声の吉井、丁寧なバンドのプレイ、フロア中から自然に湧き上がった歓声と拍手。感動的な時間だった。
この「Horizon」で歌われた愛、そして絆は、次の吉井のMCに受け継がれた。武道館でイベンターたちからプレゼントされた還暦祝いの赤いマイクスタンドを持ち出した彼は、こう話した。
「ずっとバンドのメンバー同士の絆もあったけど、バンドとファンとの絆ね。これに、ある時は助けられ、ある時は苦しめられ……(客席から笑い)……とにかくバンドとファンには、特にTHE YELLOW MONKEYは、独特の絆があると思っております。あらためてこの絆に感謝してるということで、作った曲があるんですよ!」
そう言って演奏された「DANDAN」は、EMMA、HEESEY、そして吉井がマイクスタンドを向けたANNIE(Dr/菊地英二)と、各メンバーも部分的に歌う箇所が設けられた特別版。思い出せばコロナ禍前の2019年末、ここ名古屋のバンテリンドーム ナゴヤ(当時はナゴヤドーム)公演でのこの曲の時に、歌詞にあるチンドン屋もステージに現れたシーンを思い出した。最高の瞬間、悲しい出来事、心温まる場面。30代までの彼らはパッションや爆発力を発し続けていたが、こうして再会し、40代の終わりから60代にかけては、人生の喜怒哀楽に立ち向かいながら、それでも笑顔で、お互いを思いやりながら生きていこうとするバンドになっている。「DANDAN」は本当に明るい、突き抜けた曲なのに、自分はつい涙ぐみそうになっていた。突き抜けたといえば、続くアニメ『ニャイト・オブ・ザ・リビングキャット』のオープニングテーマ「CAT CITY」は別方面に突出したナンバーで、今までにない彼らの側面を引き出すこととなった。ビジョンにも“ニャア”とか“ミャア”の字が踊り、ネコ好きのHEESEYがとりわけ元気いっぱいだ。
「ツアーも大好きだけど、レコーディングもこれからします。またこれからもどんどんと、いい曲を、カッコいい曲を作っていきたいと思っております」(吉井)
タイマーが残り十数分を告げる中、もう最後のブロックに入る。「ソナタの暗闇」「天道虫」とアッパーなロックチューンの連続。後者は吉井がやはりドラマ(『天 天和通りの快男児』/テレビ東京系)主題歌として書いた曲だが、それに応じるだけでなく、〈めくればパイパン〉という歌詞には彼なりの反骨心を生で聴くたびに感じる(ここで本人も歌いながら何かをめくるポーズ)。現代のストーナーロックの文体にSteppenwolfばりの荒々しいリフを混ぜ込んだこの曲が終わると、本編ラストは「罠」。2024年のアルバム『Sparkle X』のリード曲で、これはタイマーがゼロに近づく中でパフォーマンスされるため、スリル感いっぱい。そして最後の歌詞、〈秒読みだよカウントダウン〉が歌い切られた瞬間にタイマーは見事に00:00:00になり、演奏がジ・エンド。ここまで、きっかり60分だった。
アンコールで再び登場した彼らは、その1曲目に「Love Communication」を投下。90年代半ば、バンドがブレイクを目指した時期の楽曲で、これには今夜プレイされた、言わばシーズン2の4人には見られない熱量が埋まっている。ツアー中、別会場では「熱帯夜」が演奏されたとのことだが、この2曲のリリースは半年しか違わない。あの当時のTHE YELLOW MONKEYのギラつきが反芻された刹那だった。
「名古屋! ファイナルだ! 準備! 準備オーライ!」
今夜の、そしてツアーの終幕を彩ったのは「ALRIGHT」。再集結の第1弾リリース曲である。間奏では4人とキーボードの鶴谷崇が紹介されたあと、吉井が「アンド、エブリバディ!」とフロアに向かって手を広げる。さらに「スタッフの皆さんもお疲れでした!」と続けて言うところに、今のこのバンドが他者を思いやる姿勢が表れていた。愛と絆? 照れくさい。でも、大切なこと。今のTHE YELLOW MONKEYは、それを堂々と言い切れる大人たちなのだ。今夜も会場のロビーでは、被災地支援のための「バラ色募金」が行われている。
「何よりもここでこうしてることが奇跡と……思いませんか?」
歌詞を言い換えて、客席に問いかける吉井。またも客席から熱い声援が起こる。2016年にこの歌を聴いた時、この詞は再び集まった4人のことだと思った。しかしそれはファンやオーディエンスの歌でもあったし、また、その後にあらゆることが起こり続ける中で、〈奇跡〉の示す意味合いは深く、大きくなっていった。そのことに、また胸が熱くなった。
客席に手を振り、微笑みながらステージ袖に消えていくメンバーたち。熱さだけではなく、温かさも、お互いへの思いも交わされていたライブハウスツアーの最終日。もちろん相変わらず下ネタも忘れないし、やはりお茶目さもある、けれども。今夜ここにいたのは、大人の姿になったTHE YELLOW MONKEYだった。