eyedはなぜ“余白”を選ぶのか――「silence」に宿る引きの美学、新鋭ガールズグループが描く新たな地平
謎のベールに包まれた次世代ガールズグループ・eyed(アイディー)が10月21日、プロローグシングル「silence」をリリースした。“プロローグ”とあえて記している通り、現時点の活動は彼女たちにとって序章にすぎない。とはいえ、公式SNSで公開した数々のショートフィルムやイメージ画像を追っていくと、早くも既存のグループとは異なる魅力を放ち、まだ誰も到達していない地平を目指していることに気付く。eyedとは一体何者なのか、そしてどれほどの可能性を秘めているのか——。現時点でわかっている情報をもとにコンセプト、ビジュアル、サウンドなど多角的に探っていきたい。
モノクロームの映像から浮かぶeyedの輪郭
eyedはkate、fuka、liliko、yuria、kyokaからなる女性5人組である。6月28日の宮城・仙台PIT『DANCE HOLIC 東北の陣』を皮切りに、8月末まで全国各地のダンスイベントに出演。当時、グループの詳細なデータを出すことなく、代わりにモノクロームを基調にした抽象的な動画を次々とアップしていったのが非常に興味深い。
そして、9月1日から本格的なプロモーションが始まった。アンビエントなサウンドが流れる中、森を駆け抜ける女性と未来を見つめているかのような二つの目が映し出される。「into the silence(沈黙の中へ)」と題されたこの10秒ほどの動画に続き、無機質なテイストの集団ショットやメンバーのしなやかな動きを静かに捉えたショートフィルムがSNSに投稿されていった。
こうした展開は、新人ガールズグループのプロモーションとして異例中の異例と言えよう。新人の初披露では、メンバーそれぞれのビジュアルやキャラクターを強調しつつ、サウンドの路線を明確に打ち出すケースが多い。しかし彼女たちは余計なものをできるだけ排除して、ひたすらにありのままの自分を見せていく。コンテンポラリーダンスを思わせる5人の一挙手一投足からは、従来の型や美意識をある程度許容しながらも、日常化する“盛り”や“かわいい”とは異なる世界へ向かおうとするアティテュードと反骨精神が見え隠れする。おそらくこれがeyedのベーシックなコンセプトなのだろう。
神秘的なイメージをキープしながらも、時おり等身大の姿を見せるのもユニークなポイントである。練習室における何気ない仕草や表情、SNS上でのコメントは、10代から20代前半のメンバーで構成されたグループらしく、フレッシュで瑞々しく、親近感も感じられる。このように、先鋭的なクリエイティブと等身大の親しみやすさを同時に無理なくアピールするのは、なかなかできることではない。
「silence」に宿るミニマルな“引きの美学”
では、肝心のサウンドメイクはどうなっているのだろうか。プロローグシングル「silence」はテクノ/ハウスにカテゴライズされる音作りだが、何よりも“引きの美学”を感じさせるアレンジに耳を奪われるはずだ。トラックプロデュースを手掛けたのはmachìna、作詞とトップラインは北村蕗。タイトなドラミングによる神聖な響きとともに、妖精のようなハイトーンボイスが舞い上がる。その美しさを強調したいがために、あえて最小限度の音だけを使い、Aメロ→Bメロ→サビといった予定調和さえも取り除く。この大胆な仕上がりは、かなりレアでアグレッシブであるのは間違いない。
このような“引きの美学”は、近年のダンスポップの世界ではしばしば用いられる。代表的な例を挙げれば、K-POPではYOUNG POSSEの「MACARONI CHEESE」、2026年のグラミー賞でBest New Artistなど2部門にノミネートされたKATSEYEの「Gnarly」など、それなりに結果を出したグループも多い。だが、その大半がヒップホップやファンク系で、eyedのようなテクノ/ハウス路線では珍しく、なおかつガールズグループではオンリーワンと断言できるのではないだろうか。
他にはない“何か”は「silence」のMVにもしっかりと刻み込まれている。シュルレアリスムをリスペクトするかのようなモノトーンの映像は、どことなく鳥取砂丘を舞台に人物を配置した写真家・植田正治の「砂丘シリーズ」を想起させ、サルバドール・ダリやルネ・マグリットの前衛的な作風にも通じるものがある。こうした雰囲気が濃厚に漂う中、彼女たちは次のように歌う。
〈無機質を装う誰か/(Someone’s pretending)/彼らは必要なノイズだけを要求する/(Demanding their desires)/私は追いかける/(Chasing the sounds)/内なる静寂から生まれる音を/(Born from this silence)〉
バイアスのない世界。自分がありのままでいられる日常。それだけをピュアに追求しようとeyedは登場したのだろう。となると、今後はテクノ/ハウスに縛られない活動も予想されるが、このジャンルで試すべき未知の領域はまだまだありそうだ。DJプレイでもセンスと実力を発揮し、ダンスパフォーマンスではドラマティックな演出が期待できる。そして強さと優しさの両面を兼ね備えた唯一無二のビジュアル。ここまでそろえたグループであれば、きっとテクノ/ハウスで新たな潮流を作ることは十分可能だと思う。
前述の通り、「silence」は“序章”に位置付けられたPrologue Single #1だ。続く第2弾のプロローグシングル「shock」は11月21日にリリースされる。今度は“沈黙”から“衝撃”に変わるが、実際どうなるのだろうか? それはテクノ/ハウスの領域で行われるのか、もしくは違うジャンルを選択するのかさえもわからない。謎めいた状況は続きそうだが、とりあえず断言できるのは、このグループの動向を追っていくのは音楽ファンにとって決して無駄ではないということだ。はるか先を見据える若き5人のさらなる活躍を期待したい。
■リリース情報
「silence」
2026年10月21日(水)リリース
「shock」
2026年11月21日(土)リリース
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