「掴みどころがないのがkeinで、掴みどころのなさは今もそのまま」 2026年、向き合うkeinの姿=『Iustitia sine misericordia』

 keinが約3年ぶりとなるアルバム『Iustitia sine misericordia』をリリースした。2ndアルバムであり、メジャー初のフルアルバムとなる。収録曲11曲のうち10曲が新たに書き下ろされた楽曲で構成されている。2022年の再結成以降、セルフカバーアルバム『破戒と想像』、EP『PARADOXON DOLORIS』と『delusional inflammation』、そしてツアー開催、メジャーデビューと、アグレッシブな活動を見せてきたkeinは、新たなアルバム『Iustitia sine misericordia』で一体何を見つめ、何を歌うのか。リアルサウンドでは、眞呼(Vo)、玲央(Gt)、aie(Gt)、攸紀(Ba)、Sally(Dr)――全員揃って話を聞かせてもらった。あらためて、keinというバンドのその稀有なあり方に触れてほしい。(編集部)

一筋縄で行かない、そこに宿るkeinの“らしさ”

――再結成後、初のフルサイズのオリジナルアルバムリリースということですが、前作『delusional inflammation』リリース時に「今後keinの進むべき指針/起点となる作品」とおっしゃっていました。前作を経て、何か見えてきたものはありましたか?

玲央:前作は“メジャー感”や“抜け感”といったテーマをもって制作しました。そのなかで――それがいい、悪いということではなく――keinのメンバーは世間一般の“メジャー感”とは違ったとらえ方をしているなということを再認識したので、それを踏まえて、直近のEP2枚の延長線上にあるアルバムを作ったらどうかというところから制作を始めました。

――となると、“エネルギッシュ”というテーマで制作した『PARADOXON DOLORIS』、“メジャー感”をテーマに制作した『delusional inflammation』ときて、今作は明確なテーマは設けなかった、ということになりますか?

玲央:そうですね。今作はあえてテーマは設けず、あくまで前作、前々作の流れを汲んだものとしてとらえてもらえればと思います。

――個人的にこれまでのEPという形はkeinに合っていると感じていたなかで、フルアルバムとなると、楽曲のバラエティの面であったり、作品をまとめるというところで難しさなどはなかったですか?

aie:そこは狙ったデモテープの出し方をしましたね。「俺はこの5曲を提示するけど、全体像のなかでハマる場所があればそれを使いましょう」という感じで、どの曲を使うかはみんなにお任せします、という感じでした。

玲央:漠然と、EP2枚を経てのフルアルバムリリースまでを一連の流れとしてとらえていたので、そこに収まれば問題ないと思っていましたし、勢いのある前々作と、しっとりとした前作という異なるテーマの2作品が見えていたからこそ、曲を並べた時にバランスが取れていればよしと思って選曲をしました。

――個人的には、それぞれがバランスよく曲出しをしている印象で、アルバム全体としてもとてもバランスがいい作品だなと感じたのですが、皆さん作曲段階からある程度そこを意識しながらだったということなんですね。

攸紀:そうですね。自分の曲を作るなかでもそうですし、ほかのメンバーのデモを受けて「リズムが似てるから変えよう」とか、逆にほかのメンバーの曲をアレンジしてみたり、さまざまな方向でバランスをとることは意識していました。

――聴かせていただいた印象として、前作、前々作のテーマをより突き詰め、さらにマニアックでカオスな方向に進んでいっているなと思ったのですが……。

Sally:レコーディングが終わってしばらく経ちますけど、あらためて聴くとマニアックで凝っていて、一筋縄で行かない作品だなと思いますし、そこにkeinの“らしさ”が表れているなと感じますね。

『Iustitia sine misericordia』全曲試聴動画 / kein

――今作のタイトルとなる『Iustitia sine misericordia』はラテン語で「哀れみなき正義」を意味する、中世イタリアの神学者であるトマス・アクィナスの言葉です。

眞呼:本当はもっと長い言葉で、「哀れみのない正義は冷酷である。正義のない哀れみは解体の母である」が正式の言葉なんですけど、前半の部分に焦点を絞りました。要は、正義の在り方ですよね。慈悲がなければ正義でない。現実を見ていても勘違いしがちだなと思っていて。

――眞呼さんが普段生きているなかでも、身近に感じることがありますか?

眞呼:取りこぼされている人のほうが圧倒的に多いなと感じます。哀れみのない正義によって傷つく人が多いし、“悪”と呼ばれるものが生まれる瞬間ってそこにあると思っていて。正しさのなかから生まれるのが悪だとすると、主観的だと思います。なんだか世界が冷ややかで、悪の種が生まれやすい状況ですよね。

――そうなると、今作の歌詞はタイトルありきで書いたのでしょうか?

眞呼:先にタイトルができて、そこに合わせて歌詞を書きました。と言っても、歌詞を書く時に頭の片隅にタイトルがあるくらいの感じなんですけど。

――玲央さん作曲の「自壊の肖像」は、ミドルテンポですが、終始不穏なギターが鳴っているのが印象的ですよね。

玲央:シンプルなものが延々とサビまで続いていくなかで、表情の付け方やサビのリズムやギターを変える以外は淡々としている、ということを狙って作りました。

――そこに、aieさんはどういったアプローチをされたのでしょう?

aie:玲央さんの持ってきたテーマにどう味付けをするかというところで、「変なことをやりたい」という俺たちの悪い癖がAメロに集約されていると思いますね。

――ドラムと息の合ったキメが気持ちいいです。

aie:あそこは頭を使って考えるんじゃなくて、「体でやろうぜ!」って言ってSallyちゃんに任せたドラムに合わせるという、ジャムセッションスタイルで作ったんです。その場の瞬発力とノリで合わせて、「今のいいね!」っていうフレーズを暗記していくやり方。これは目が合ってないとできないですよ。

2000年以前のkeinが背負っていた“使命感”

眞呼(Vo)

――そういった不穏な雰囲気や捻くれ方こそ、keinの真骨頂だと思います。攸紀さん作曲の「Cradle Lull」はスピード感のある楽曲ですが、攸紀さんが激しい曲を書くのは再結成以降では初めてですよね。

攸紀:そうですね。楽曲のバランスというところも含めて、フルアルバムで重宝されやすい――激しくてスピード感があってサビが開ける曲を作っておこうと思って、作りました。

――また、この曲のギターの変態度合いが凄まじいですよね。

aie:そういうのは得意なので(笑)。レコーディングでは、「やってはみるけど、いいか悪いかは任せます」と言って録りましたね。

――反対側では玲央さんもまったく違うことをやっているので、keinらしさ全開のツインギターだな、と。

玲央:攸紀くんから「aieさんとは違うことを弾いてほしい」というオーダーがあったので、この感じになったんですけど。なんせ効果音的なものがたくさんあって、合計7トラックくらいあったので、リアンプを含めてレコーディングにかなり時間がかかってしまいましたね。

――続く「Enforcer」は玲央さん作曲ですが、前作を超えるメジャー感のあるストレートな楽曲になっていますね。

玲央:2000年以前のkeinって、「変なことをしなければいけない」「ほかと違うことをやらなきゃいけない」という使命感のようなものがあったんです。でも、それはもういらないかな、って。あえてストレートな曲を出すことで、今現在の自分たちが演奏したらどう聴こえるのかを見てみたかったというのも大きいですね。なので、「狙って変なことをしない」ということを念頭に置いて作りました。

――ほかと違うことをしてきた天邪鬼なkeinが、あえてストレートな曲をやるというのもある種の天邪鬼で、“らしさ”なのかもしれました。

攸紀:ストレートな楽曲ということで、はじめはルートで弾こうと思っていたんですけど、イントロは昔のポジパン(ポジティブパンク)っぽい感じを意識して弾いています。

――シンプルな8ビートをやることが珍しいとされるあたり、keinが変わったバンドであることを表していますね(笑)。

Sally:そうですね(笑)。前作に収録されている「幻想」も8ビートではありましたけど、あれはフルショットにコミットしたドラムだったので、ここまでストレートな8ビートはこれまでなかったですし、そういう意味では捻くれたバンドにおいてはかえって新しいのかもしれないです。

――「ネオン」はこれまでのkeinにはなかったテイストというか、メランコリックでありながら、途中から音像がガラッと変わるのも面白いですよね。

眞呼:フランス映画に出てきそうなメロディにしたくて。

玲央:でも、途中から世界観が変わってからはグランジやオルタナで。前半部とでひとつの音楽になっているのがすごいなと思います。

aie:これは日本の歌謡曲とはまったく違うやり方で作ったんですけど、若い時に影響を受けた海外の音楽の影響――わかりやすく言えばトム・ヨークかな? 「自分のなかのトム・ヨークはきっとこうやるだろう」という感覚で作り進めていって、展開してからも、もとのテイストにはもう戻らなかったです。なので、これはアルバムというテーマじゃなかったら作らなかった曲ですね。

玲央(Gt)

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