藤井 風バンドのグルーヴを支える佐治宣英――「1曲に1回くらい牙を剥く」、リスナー目線から生まれるドラミングの妙
ストイックだが、どこかホンワカしたところもーー藤井 風の人となり
ーーその後も佐治さんは、清木場俊介さん、家入レオさんなど、数多くのアーティストをサポートしてきました。個性的なボーカリストとの仕事も多いですが、ドラマーとしてどんなスタンスで活動を続けているのでしょうか?
佐治:僕はドラマーであると同時に、リスナーとしての意識もかなり強いんですよね。ボーカリストの後ろで叩かせていただくときも、「その音楽のなかでドラムがどうあるべきか?」を常に考えていて。生ドラムよりも打ち込みのほうが合うと思えば提案するし、ドラムが必要なのかどうか、音色やフレーズはどうあるべきかを含めて、そこは間違えないようにしたいと思っています。その一方で、1曲に1回くらい牙を剥く瞬間を作りたいという気持ちもあって。今の話と矛盾するかもしれないですが、曲のどこかで何か変わったことだったり、面白いと感じてもらえるようなプレイをしたいんですよね。
ーーその瞬間にドラマーとしての個性を出す。
佐治:そうですね。最初のほうはできるだけ目立たず、最後あたりでちょっとだけ自分がやりたいことをやる。それが僕のやり口なんですよね(笑)。
ーー2019年からは藤井 風のライブに参加。佐治さんがネットで公開しているdiaryには「最初から、とんでもねーヤツが出てきた!」と思っていたという記述がありますね。
佐治:ライブで叩かせてもらうことになって、資料をいただいたときから「すごいアーティストが出てきたな」と思いました。音楽性もそうですし、歌詞の世界もすごくて。初期の楽曲には岡山弁の歌詞もありますけど、それがめちゃくちゃ面白かったんですよね。(一人称が)“わし”だったり、言葉の響きとして決してキレイなだけじゃないと思うんですけど、洗練されたサウンドといい意味でギャップがあって。その乖離した感じがフックになっていたし、すっと流れてしまわず気になってしまう。もちろん曲自体もすごくカッコよかったし、これはすごい人だなと。新しいアルバム(『Prema』)は英語詞ですけど、それもすごくよくて。個人的には、岡山弁の新しい曲もまた聴いてみたいなと思いますね。
ーー佐治さんが初めて参加したのは2019年11月のLINE CUBE SHIBUYA公演。以降、2020年10月の日本武道館、2024年8月の日産スタジアムとほとんどの主要なライブに参加していますが、藤井さんの現場はどんな雰囲気ですか?
佐治:すごくいいチームなんですよ。常に新しいことをやろうとしているというか、他の人がやっていないこと、自分たちにとっても新鮮なことをやりたいという雰囲気があって。ライブの演出もそうだし、アレンジも常にアップデートしているんですよ。
ーー藤井さんはいつも穏やかなイメージがありますが、たとえばリハーサルの場などではどうですか?
佐治:リハーサルの時も同じく穏やかですよ。もちろん音楽に対してはストイックなんですが、どこかホンワカしたところがあるというか、ピリピリした感じにはならないです。僕が関わっているのはライブだけで、制作のことはわからないですけど、スタジオでのリハなどではいつも穏やか。“あのまま”だと思います。音楽の話もときどきしますね。最近、AORをけっこう聴いてたんですけど、「これがよかったよ」と教え合ったり。僕、マックスウェルの2枚目のアルバム(『エンブリア』)がすごく好きで。この作品について語る人は少ないんですけど、風くんからも好きだという話を聞いたり、そういう音楽の話ができるのも楽しいですね。
ーー今年の4月には『Coachella Valley Music and Arts Festival』(『コーチェラ』)に出演しました。ステージから見た、現地のオーディエンスの様子はどうでしたか?
佐治:『コーチェラ』のときは緊張感もあったし、正直、あまり余裕がなかったんですよ。ただ去年の海外ツアー、特にメキシコやフランスとかもすごく盛り上がっていたし、「日本人だから」ということではなく、音楽そのものが受け入れられている実感がありました。
ーードラマーとしての今後のキャリアについては、どんなビジョンがありますか?
佐治:先ほどPOLICEやRush、ブラックミュージックやフュージョンなどの話をしましたけど、20代前半の頃からずっと追いかけているドラマーがもう一人いて。スティーヴ・ジョーダンがめちゃくちゃ好きなんですよ。もともと彼はテクニカルなドラマーだったんですけど、THE ROLLING STONESのキース・リチャーズに「そのプレイはブルースじゃない」みたいなことを言われたことをきっかけに、シンプルなビートに特化しはじめたんです。僕もスティーブ・ジョーダンみたいなシンプルな演奏を志していたんですけど、一方でテクニックから逃げていた部分があった気がして。ある時期から技術を身に着けることから目を背けていたところがあったし、今になって、それは良くないなと思いはじめたんですよね。来年で50歳になるし、そんなに先があるとは思ってなくて。だからこそ目を背けていた部分に向き合って、テクニックを身に着けたいと思っています。
ーーすごい向上心ですね!
佐治:「今さら?」と思われそうですけどね(笑)。それこそ今年の『コーチェラ』での経験も大きいです。音質、プレイもそうですけど、世界との差を感じてしまったところがあって。ドラムの音は演奏全体の印象につながってくるし、もっと突き詰めたいなと。テクニックだけではなくて、テクノロジーの力も借りなくちゃいけないんですけどね、そこは。風くんのアリーナツアー(『Pre: Prema Tour』)でも新しい機材を投入したんですけど、どの会場でも「いい音だ」と感じてもらえるようにしたいし、もっと追求していきたいですね。