近年、女性ソロアーティストの活躍が顕著だ。昨年「全方向美少女」「初恋キラー」が立て続けにバイラルヒットし、香取慎吾のアルバムにもゲスト参加した乃紫や、『晩餐歌』の大ヒットで15歳にして『第75回NHK紅白歌合戦』に出場したtuki.など、若手女性ソロアーティストがたくさんのヒットを生み出している。本稿では2025年下半期注目のネクストブレイクに期待がかかる女性ソロアーティストを紹介したい。

はしメロ

　2023年に作詞・作曲・歌唱で参加したMAISONdes「けーたいみしてよ feat.はしメロ,maeshima soshi」が再生回数7億回を突破したはしメロ。今年はテレビアニメ『ウィッチウォッチ』の第2クールオープニングテーマとして「ときはなて！」を担当。さらにTVドラマ『彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる 2nd Stage』オープニング主題歌として「yosumi」を担当するなど、タイアップも続々と決定している。きらびやかな歌声にラップを織り交ぜる構成と打ち込みを基調とした勝ち気なサウンドは令和ポップカルチャーのど真ん中だ。

Aogumo

　15歳のシンガーソングライター・Aogumoは、TikTokへの弾いてみた動画の投稿をきっかけに注目を集めると、昨年11月に初のオリジナル曲「曲名はまだないです」がバイラルヒット。あどけなくも凛とした歌声と、一級品のリズム感から編み出されるギター捌きが組み合わさることで、弾き語りとは思えない濃密な演奏をリスナーに届けている。「曲名はまだないです」は、自身に才能がないと嘆きながら、それでも誰かに評価されたい、褒められたい、私の歌を聞いてほしいと切実に願うメッセージが描かれている。自己肯定や承認欲求という言葉が当たり前となった現代において、このメッセージは歌手に限らずどんな聞き手の心にも刺さる。

『ユイカ』

　『ユイカ』も歌ってみた動画をきっかけとしたインターネット出身シンガー。2021年に初のオリジナルソング「好きだから。」を発表すると、天月-あまつき-などのカバーをきっかけにバイラルヒット。2曲目のオリジナルソング「そばにいて。」は浜辺美波主演のTikTok短編映画「夏、ふたり」の主題歌となるなど、その注目度の高さを伺わせる。素朴で真っ直ぐな歌声で紡がれる女の子目線のラブソングの数々は、ティーンからも大きな支持を獲得している。『ユイカ』自身も今年20歳を迎えたばかりで、ティーンからの支持は彼女自身が他でもない同じ時代を生きる同世代だからこそと言えそうだ。

AislE

　女性ソロアーティスト AislE（アイル）は、2009年生まれの16歳。しかし、幼少期には俳優として多数の舞台や映像作品への出演し、キッズモデルとしても多くのファッションショーへの出演の経歴を持つ、クリエイティビティ溢れるアーティストだ。中学1年生からシンガーを志すと、俳優のキャリアで培った表現力を活かした歌唱が話題を呼び、YouTubeやTikTokを中心に多くの再生回数を記録。ネクストブレイクの機運は高まっている。

　これまでにデジタルEPとデジタルシングルをそれぞれ1枚ずつリリースしているAislE。1st EP『AislE』にはそれぞれ音楽性の異なる3曲が収録。海外のヒップホップからの影響を感じさせる「Vivace」。「The Reasons of My Smiles」はアニメのオープニングテーマが似合いそうな疾走感のある打ち込みサウンドが特徴的。そして00年代J-POPバラードを想起させる「On the Roof」と、幅広い音楽性はAislEの大きな魅力だ。

　そんなAislEの新曲「9」が8月1日にリリースされた。夏らしい軽やかなサウンドに乗っかるのは満たされない女性のシリアスな叫びだ。

〈ねえ何回こんな夜越えたら 私幸せになれるんだろう〉

〈同情も憐れみさえも 肌の上するりすべっていく〉

　SNSで可視化されてしまう他者の幸福。誰かと自分自身の幸せを比べることでずっと幸せになれない女性の姿を描く歌詞は現代社会を鋭く批評している。こうした表現にも果敢に挑戦するAislEの姿からは創作への強い意欲を感じると共に、様々な楽曲を乗りこなす歌声の普遍性にも驚くばかりだ。

　はしメロ、Aogumo、『ユイカ』、そしてAislE。女性アーティストたちが鎬を削りながらもシーンを盛り上げている。2025年を代表するアーティストがこの中にいるかもしれない。その未来を楽しみに待ちたい。