直截的で即興性のあるパンチラインが求められるMCバトルに注目が集まりがちな日本のヒップホップシーン。それでもTHA BLUE HERBのBOSS THE MCをはじめ、近年ではZORNやC.O.S.A.のようなリリシストと評されるリリックの優れたラッパーも少なくない。そんなラッパー達に名を連ねつつあるのが、Kvi Babaである。

　Kvi Babaは、大阪府茨木市出身、23歳のラッパー／シンガーソングライター。 友人の付き添いでスタジオ入りし、その場の雰囲気でレコーディングしたところ、意外にもすんなり1曲完成してしまったことから、音楽制作を開始することになった天才肌だ。天賦の才を証明するように2019年より本格的な音楽活動をスタートさせると、1年間に2枚のEPと1stアルバムを発表し、3作品全てがiTunesのヒップホップ/ラップチャートで1位を獲得するなどルーキーとは思えない活躍をみせた。そして、国内のヒップホップシーンを代表するアーティスト、前述のZORNやSALUにフックアップされコラボレーションが実現するなど、その実力は折り紙つきである。

　同業のラッパーからも高い評価を得ているKvi Babaだが、なかでもエモラップにも通じる内省的でダウナーなリリックと、同時に救いの光も射すようなポジティブさに言及したCreepy Nutsのラッパー、R-指定による評価が最も本質を捉えた見方であるように感じる（※1）。また、ラップと歌が混ざり合う汽水域のようなフローが生み出す甘美でメロディアスな質感は、ヒップホップヘッズのみならず広く愛されうるキャッチーさも持ち合わせており、その絶妙なバランス感覚も魅力のひとつだろう。次世代ボーイバンド・WATWINGに提供した「The Practice of Love」では、そうした持ち味を活かしつつ、Kvi Babaと同世代のメンバーたちのクールな一面を引き出す洗練されたプロデュースワークを発揮したのも見逃せない点だ。

　そして、満を持して今年の3月にデジタルリリースしたメジャー1stアルバム『Jesus Loves You』を5月31日にCDリリースしたKvi Baba。このアルバムには、楽曲再生数1,000万回超えの「Fuck U & Love U」や、再生数が3,500万回超えを記録し、BE:FIRSTのMANATOがナビゲートを務めるラジオ番組『MILLION BILLION』（J-WAVE）にてフックのメッセージ性に注目して紹介した「Too Bad Day But… (Remix) feat. AKLO & KEIJU」、そして、TVアニメ 『TRIGUN STAMPEDE』（テレビ東京ほか）オープニング主題歌「TOMBI」も収録されており、近年の活動の集大成のような渾身の1枚に仕上がっている。

　あらためて、アルバム『Jesus Loves You』から何曲かピックアップし、そのリリックの魅力を深掘りしていこう。まず注目したいのは、Kvi Babaのもつ独特の死生観である。〈意識のみで意思ならばもうなく 死者と自分に違いはなかった〉（「TOMBI」）、〈愛に生きて愛に死にたい 天国なら近い 〉（「愛槌」）、〈生きてく理由はあるのか尋ねる／無邪気な子供達が美しく見える 〉（「ガラスの男」）、〈また1人夜通しHighにもなって どうせ灰になる 〉（「Fuck U & Love U」）のように生きることの刹那さを描写したラインは、どこか危うくもリアルさをもって響く。

　また「愛」に対する言及も多く〈愛に酔いしれるホロじゃなくてモロ酔い〉（「キスシーン」）、〈愛を誓う／王様気分でも忠誠心を誓うよ〉（「いつかは」）、〈言った以上に普通じゃないけど／君を愛してる〉（「ヴァンパイアみたいな気分」）、〈愛する事って時々／ドキドキがすぎ落ち込みモジモジ〉（「Baby Come Back」）といったラインから読み取れるのは、臆面なくストレートに表現される「愛」の形だ。

　このように誰もが普遍的に直面する「生きること」「死ぬこと」そして「なにかを愛すること」について、等身大で綴られるリリックは、どれも切実で他人事とは思えない真実味を帯びている。リスナーが自らを投影してしまう、写し鏡のようなリリックは、エモラップの領域を超えて文学の域に達しているようにさえ思える。メロディアスでキャッチーなフロウと文学的なリリック、その両方を高いレベルで結実させたKvi Babaは、これからの日本のヒップホップを背負って立つ存在になることは間違いなさそうだ。