そして、もう一つ。

　2016年から2017年にかけて、まさに「PPAP」が世界的なブームと熱狂を巻き起こしていた渦中だった頃から少し時間が経ち、冷静な視点で現象を振り返ることができるようになった今だからこそ、改めて見えることがある。

　それは、ピコ太郎が決して「一発屋」にはならなかったということ。これだけのゲストと共に武道館公演が実現し、それがこうしてDVD＆Blu-rayのパッケージとして発売されるということ自体が象徴的だが、多くのお笑い芸人のネタがだいたい半年から一年もあれば消費されて過去のものになっていくのに比べると、ピコ太郎の存在感はとても息が長い。それは古坂大魔王のキャリアもさることながら、彼のプロデューサーとしての手腕がもたらす、ピコ太郎の音楽としての地肩というか底力の強さのようなものが大きな要因となっているはずだ。

　最近に公開された新曲でも、それを実感することがあった。

　今年2月にYouTubeに公開された、ももいろクローバーZのキッズ向けプロジェクトユニット・ももくろちゃんZと、ピコ太郎のコラボレーションによる「Vegetable」。

　2分41秒という短い動画なのだが、とても印象的なのはリズムの構成だ。リズムと声のズレが絶妙に仕込まれている。そして、「PPAP」でもTR-808の音色が使われていることが話題になったが、この曲の音色も癖になる。特に低音がいい。イントロのスラップベースに、〈ポテト〜〉のサブベース、〈ベジタブル〜〉のアシッドなベースライン。前半はヒップホップ、後半はエレクトロを想起させ、短い時間にいくつものフレーズが仕込まれる。しかも曲全体も一定の拍子に則っていない。そして、歌っている内容は基本的にナンセンスである。

　曲自体が不思議な中毒性を帯びているのだが、この中毒性は偶然に生まれたものというよりは、ミリ秒単位の細かい構築の末に編み出されたものと感じる。

　すなわち「PPAP」が世界中に巻き起こした現象には再現性はないのだが、あの楽曲が持っていた音楽的なツボというのは、古坂大魔王の中である程度のメソッド化されていることが伺える。昨年にテレビ番組『アウト×デラックス』（フジテレビ系）で古坂大魔王が「大天才ひふみん」こと加藤一二三のデビュー曲「ひふみんアイ」をプロデュースしていたのだが、あの曲にも巧妙にリズムと声のズレが仕込まれていた。

　ピコ太郎が巻き起こしているムーブメントは、引き続きとても興味深いことになっていると、心底感じる。

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば」／Twitter

■リリース情報
『PPAPPT in 日本武道館』
発売：2018年4月18日
【DVD】
¥4,644（税込）
【Blu-ray】
¥4,860（税込）
〈収録内容〉
DVD・BD共通
【LIVE本編】
★前説 　上田晋也
★PNSP（国立劇場ver. PPAP）　／国立劇場の皆様
★PPAPPT統括本部長の開会宣言 有田哲平
★PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン) 「ロング」バージョン
★I LIKE OJ（Long ver.）　with高須クリニック・高須院長
★☆スイーツまとめて星になれ☆！
★KASHITE KUDASAIYO
★ヒヨコ選別
★二文字目ミステイク
★ねぇ・・・
★YOME
★べったら漬けが大好き
★マンチャマンチャ・ポ・マンチャはロマンチスト
★I LOVE YOU ～アフリカの風に乗せて～
★爆チュー問題 × ピコ太郎
★ゲストインタビュー
★PPAP from 世界のYouTuber
　 Metal ver./ バラードver.
★今いる場所、それはここ
★ロミータ・ハシミコフ
★ネオ・サングラス
★カナブンブーンデモエビインビン
★DJ TIME （ピコ太郎×ピコッツァ・鈴木・ゼブラーノ）
★PPAP（フジヤマディスコ ver.）
with SILENT SIREN
★PPAP（Rising Hope ver.）
with LiSA
★PPAP（ミライボウルver.）
withマス寿司三人前（ももいろクローバーZ派生ユニット）
★契り 五木ひろし
★PPAP（よこはま・たそがれ ver.）
with五木ひろし
★Paradise Has No Border 東京スカパラダイスオーケストラ
★PPAP（スカパラ ver. ）
with東京スカパラダイスオーケストラ
★歓喜の歌（スカパラver.）
with ゲストの皆様
【裏ピコ密着レポート(某熱大陸風味)】

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