――明確にしたかった具体例を教えてください。

B.D.：まず、メジャーのリリースということもあり、リリックの内容を考えたんです。これまでは“ピー”になる言葉が多かったけど、その言葉ひとつひとつの角度を変えてえぐる作業、“王道”とは何か、ブラックミュージックの原点とは何か、本当に必要なものを探っていく作業……とにかく追究に追究を重ねました。例えば、ネガティブなものを無理してポジティブに置き換える作業は、嘘になってしまうかもしれない。自分が本当に感じたことを責任を持って伝える作業が、「BALANCE」というアルバムで明確にしたかったことですね。偉そうなことを言うわけじゃないけど、ラッパーは発する言葉に自己責任を持たなくちゃいけないと思うんです。その真摯な態度というのは、聴き手に絶対伝わると思うので。

――B.D.くんは世代的に“宇田川町の最後の砦”と言われますが、そこへの責任、というのも感じるものでしょうか？

B.D.：俺より先にデビューをして背中を見せてきてくれた先輩たちと同じ動きをするばかりじゃダメだと思うんです。“B.D.”としてやれることはたくさんある。「GROW AROUND」（※彼が勤務している渋谷宇田川町のセレクト・ショップ）という職場も土地柄、プラスに作用することも多いし、最後の砦という責任や、その自負はあります。

――『BALANCE』を作り終えて、その気持ちは一層強くなりましたか？

B.D.：今作はひとつの幕開け、という感じがしたんです。すぐに次作への欲求も沸いて、そこで100％の理想形に近づくことができるかもしれない、って。でも、毎回作り終えるたびにそう思ってしまう性分なので、その気持ちに終止符が打たれることってないんですよね（笑）。「100％出し切った……」と思えたときが、良い意味でアーティストとして最後なのかもしれない。責任や自負はもちろんだけど、もう一人の自分というか、もっと違う側面を打ち出した作品を出したい、って気持ちもあります。それこそ流行のサウンドや挑戦的なサウンドに身を委ねてみたり。根底にあるものを大事にしていれば、B.D.という軸がブレることは決してないと思うので。

――今作のリリックには「本物」や「真実」、「無限の可能性」「希望」といったポジティブな言葉が顕著ですが、そこからもB.D.くんが明確にしたかったことが伝わってきます。

B.D.：昔を思い出して恥ずかしくなるときもあるけど、それも含めていまの自分ですからね。いまは誰でもラッパーになれるし、テクノロジーも発達して作品を簡単にリリースすることもできる。そんな時代だからこそ、バランスに長けた人間であり、記憶に残るアーティストでありたいと思う。大それたことを言うようだけど、日本語ラップ・シーンにおいて、東京の核となる存在でありたいですね。
（取材・文＝佐藤公郎）

■アルバム情報
『BALANCE』（UNIVERSAL）
価格：2,500円

01. HAJIMARI
02. LAUNCH SEQUENCE feat. NIPPS
03. GRINDSTONE
04. 勧善懲悪
05. F.Y.P.M
06. ONE TIME
07. 戦争
08. MOOCHA feat. MACKA-CHIN
09. KAZE
10. RELAX 88
11. THE WANTED feat. FLA$HBACKS & KIANO JONES
12. DANCER feat. D.O
13. PURPLE MIRROR feat. NIPPS
14. 0 ~ZERO~