椎名 豪×吉村 広が語る、『CODE VEIN』シリーズの音楽に刻まれた“20年の歳月”

 日本のみならず世界中で高い評価を得た人気ゲーム『CODE VEIN』シリーズ。荒廃した世界で生きる、吸血鬼たちの物語を描いたアクションゲームだ。個性豊かなキャラクターや斬新なアクションシステムに加えて、躍動感あふれるゲーム音楽も大きな魅力のひとつ。壮大にして豪華絢爛なサウンドは、多くのプレイヤーを魅了し、時に鼓舞し、時に涙させた。

 その楽曲をCD6枚組の大ボリュームで収録した『CODE VEIN SERIES ORIGINAL SOUNDTRACK CD』が2027年1月29日に発売される。付属のブックレットには、コンポーザーを務めた椎名 豪氏と、ディレクターの吉村 広氏の対談も掲載。制作秘話を、悲喜こもごものエピソードとともに語っている。

 今回は特別に、その内容の一部を抜粋して先行公開する。どのようなやり取りを経て、あの名曲は生まれたのか。その過程を垣間見ることのできる貴重な内容だ。では、さっそくのぞいてみよう。(藤田直人)

“中二感”と、大人の背伸び

 二人の出会いは約20年前。開発中のゲームに問題がないかをプレイしながらチェックする、デバッグ作業の現場だった。以来、“素で付き合える”盟友としての関係は、今も変わらない。『テイルズ オブ レジェンディア』『GOD EATER』とともに歩んできた吉村にとって、新規タイトル『CODE VEIN』の音楽を椎名に託すのは、自然な選択だった。

——『CODE VEIN』の音楽は、どのようなやり取りを経て生まれたのでしょうか。

吉村 広(以下、吉村):『GOD EATER』はSF的な部分もありましたが、『CODE VEIN』はゴシックな雰囲気の作品なので、その世界観で椎名さんの個性がどう表れるのかを見てみたい、という興味もありました。

——椎名さんは、その世界観にどんな印象を受けましたか?

椎名 豪(以下、椎名):吉村くんの作るものって、言わば“中二感”が魅力なんですよ。「俺、魔法使えるぜ」みたいな。その感覚は、たぶん思春期からずっと変わっていない。いいこじらせ方をしているというか(笑)。ただ『CODE VEIN』のプロットを見たときは「うん?」と思って。大人の気取った感じを見せやがったな、みたいな(笑)。

吉村:ありました、ありました(笑)。僕自身年を重ねてきた中で、ちょっと大人ぶったところは確かにあります。海外市場も見据えていたので、背伸びをしたところはあったかもしれません。

椎名:それもあって、アレンジャーさんの比重を高くして、僕の子供っぽいところを薄めてもらったんです。ただ、根幹にあるものは残したかった。カッコつけている中にも、弱い部分やダサい部分を見せたほうが、プレイヤーも親近感が湧くと思ったので。そのさじ加減がいちばん難しかったですね。

描きたかったのは、心のダークさ

——“大人っぽさ”を、音楽でどう表現したのでしょうか?

椎名:色味を少しダークにしています。EDMのシンセリードのような、やんちゃな音はイベントシーンでは使っていません。ただ、僕自身はダークなものはあまり得意じゃなくて。地獄のようなベタな世界観は、割と表現しやすいんです。でも『CODE VEIN』のダークさは、ビジュアルではなくメンタルのほうに強く描かれている。いじけている感じや、心が病んでいる感じをどう表現するか。そこがいちばん大変でした。

——最初のデモを聴いたときの印象はいかがでしたか?

吉村:メインテーマを聴いたときは、ちょっとイメージが違うかな、と(笑)。バグパイプが使われていて、ファンタジーに寄りすぎていると感じたんです。

椎名:最初は「わかってねえな、こいつ」と思いましたけどね(笑)。でも、当時はバグパイプの音色が王道ファンタジーのサウンドとして定着していたので、ユーザーのことを考えれば、不正解だったと思います。

吉村:でも、何か違うと感じたのはあの曲くらいですよ。

椎名:重要なシーンの曲が決まると、それを軸に曲の入れ替えが起こることもよくあります。実際、「記憶の残滓」の曲が決まってから、曲の配置がかなり流動的になった気がします。配置が変わればアレンジもやり直してブラッシュアップする——そういう過程を経て、完成形に近づけていくんです。

広がる世界と、『CODE VEIN』らしさ

——『CODE VEIN Ⅱ』ではオープンワールドになり、ゲームシステムも含めてガラリと変わりました。

吉村:過去と未来を行き来するシステムになり、前作にはなかった“未来”という新しいキーワードが生まれました。

椎名:未来ならテクノロジーっぽい音、過去ならクラシカルな音、というのが一般的ですが、この作品は舞台そのものが近未来なので、言わばどちらも未来なんです。しかも、ダメになってしまった未来。荒廃した世界をベタなエレクトロニカで表現するのも安易ですし。ゲーム画面もブルーが映える印象があったので、前作のダークさは取り払ってもいいかと思ったんですが、そうすると『CODE VEIN』らしさが薄まる怖さもある。そのバランスの調整は、非常にシビアでした。

吉村:前作はずっとダンジョン的な薄暗い雰囲気でしたが、今作は景色が開けたときの一瞬のすがすがしさがあって、広がりがまったく違います。時間の経過だけでなく、天候の変化もありますし。

椎名:そうだね。それもあって、フィールド曲がいちばん大変だったかもしれない。

メインテーマに刻んだ、二人の歳月

——メインテーマは、エレクトロニカっぽい導入もありつつ、より多様性が感じられます。

椎名:タイムリープしながらミッションをクリアしていくシステムやストーリーを、一曲で表現したかったんです。

吉村:上がってきたときは感動しました。これまで一緒にやってきた歴史の集大成のような印象を受けて、椎名さんとの歳月を思い起こしたりもして……。

椎名:僕たちのスイートテン・ダイヤモンドみたいな感じだよね(笑)。実際、そこは意識していて、『テイルズ オブ レジェンディア』から今に至るまで、チームで作り上げてきたものを彷彿とさせるフレーズを、メロディの中に忍ばせているんです。会社を辞めてから吉村くんとする仕事は『CODE VEIN Ⅱ』が初めてだったこともあり、僕にとっては再出発の曲でもありました。デモの段階で生演奏を録音してアレンジャーさんに渡すという、ものすごく贅沢なこともやっています。

——ボス戦の音楽で、前作と比べて意識したことはありますか。

椎名:前作は、薄暗い中で敵の大きさがよくわからないこともあり、音楽をできるだけデカく、重心を低く作っていました。でも『CODE VEIN Ⅱ』は敵と主人公の距離が近いので、デカく作りすぎると、いかにも悪そうな敵を倒しているだけの印象になってしまう。しかも倒すべき相手は英雄たちです。純粋な悪者ではないので、そのボスが抱えている感情をきちんと伝えること。そこがいちばん難しかったですね。

 僕には好きなキャラクターに肩入れしてしまう悪い癖があるんですが、そのウェイトを決めるのはユーザーであって、僕じゃない。序盤に登場するキャラクターと終盤に登場するキャラクターで重要度が変わるかといえば、それも人によって違いますよね。僕はふだん、ストーリーに登場する順番どおりにキャラクターの楽曲を手がけることが多いのですが、『CODE VEIN Ⅱ』ではあえて順番を無視して作っています。

声優の「ん?」がリズムになる

——音楽が入ったことで、より良くなったシーンもあるのでしょうか?

吉村:全部のシーンです。椎名さんの楽曲を当てると、感情の起伏が何倍にもなる。まるで映像に合わせて書いていただいたような、「これだ!」と思えるシーンがいくつも出てくるんです。

椎名:やっぱり声優さんの力が大きいんですよね。すごい声優さんって、話しているだけでリズムがある。たとえば台詞の途中で「ん?」といった感嘆詞が入ることがあるじゃないですか。僕はあれでリズムを作るんです。その位置で曲がパッと入ると、音楽が台詞と一緒に動き出して、台詞がメロディみたいに聴こえるときがある。そのためにも、メロディがあまり動かないものやテンポの速いものなど、いろいろなバージョンを用意して、どれが合うかを試しています。

——これまででいちばん難しかったオーダーは?

椎名:「記憶の残滓」かな。ロジカルに作らなきゃいけないんですけど、僕はそういうのが得意じゃなくて(笑)。インタラクティブミュージックになっていて、キャラクターが記憶の中を歩いていくんですが、行った先で起きることに合わせて曲調が変わるので、決まったルールに沿って作らなければならない。このタイミングでメジャーに転じてもおかしくないようにしようとか、「記憶の残滓」の中で楽曲がどんどん変わっていくので、頭の中が大変でした。全部暗い曲ならいいんですけど、明るくなることもあるし、それをすべて違和感なくつなげなければいけない。

吉村:そうだったんですね。最初に上がってきた曲が素晴らしすぎて、そうした苦労はまったく感じませんでした。すごいのが来た、すごいすごいと、単純にキャーキャー言っていましたね(笑)。

日本は2D、海外は3D——ミックスのこだわり

——海外ユーザーを意識した点はあるのでしょうか?

吉村:もともと全世界の方々に遊んでいただく前提なので、作品として特定の国を意識することはないです。日本ならではの感性でものを作るという点はブレていませんし、そこに共感してくださる方はどの国でも同じだと思っています。

椎名:音楽で言うと、ミックスでは海外の方も意識しています。ざっくり言えば、日本人が音を2Dで捉えるとすると、海外の人は奥行きも含めた3Dで捉えている。それに、個人差はありますが、日本の人は高い音を拾う傾向があって、海外の人は低いところに耳がいく。なので、日本の音はカリカリして耳が痛い、と言われることもあるんです。今回のマスタリングでは、その高音と低音のバランスも含めて調整しています。

CDで想いも聴き込んで

——最後に、皆さんへメッセージをお願いします。

椎名:音楽というと、どうしても作曲家ばかりがフィーチャーされがちですが、アレンジャーさん、演奏家さん、エンジニアさんといった多くの方がいてこそ、作品は完成します。そのことも踏まえながら聴いていただけたらうれしいです。それに、圧縮されていない音源の良さも、ぜひ発見してほしいですね。今回だけは“タイパ”を捨てて(笑)、CDをかけてじっくりサントラを聴き込むという、ゲームとはまた違った楽しみ方をしてもらえたらと思います。

吉村:『CODE VEIN』と『CODE VEIN Ⅱ』、それぞれに個性がありますが、サウンドトラックは曲順も含めて、ユーザーの皆さんへのメッセージや想いを込めながら作りました。ゲーム体験を思い起こしながら、それとはまた違った新しい発見をしていただけたらうれしいです。

作曲者自らが語る、名曲誕生の舞台裏

 CDに付属するスペシャルブックレットには、厳選した楽曲について、椎名自身による解説も収録されている。ここでしか読めない制作秘話とともに、楽曲の魅力をより深く味わえるエピソードが満載だ。本稿では、そのなかから2曲を抜粋して紹介したい。

・『CODE VEIN』より「騎士の帰還 −死神の舞−」

椎名:ストリングス・アレンジにこだわった一曲です。ゴシックでありつつ、少しバロックの雰囲気もある。そうすることで、いわゆる“歴史の重み”のようなものを強く打ち出したいという狙いがありました。胸が高鳴るような高揚感がありますが、それはアレンジャーさんのおかげです。この曲に限らず、『CODE VEIN』全体において、アレンジの比重は大きいと思います。

・『CODE VEIN Ⅱ』より「隻腕の英雄」

椎名:『CODE VEIN Ⅱ』の中では、いちばん英雄らしさが強く打ち出された楽曲だと思っています。一般的に言われるような、神話的な英雄像を表現したかったので、少しマーチ風のリズムも取り入れました。エレキギターを入れたのも、勇者の登場という高揚感を出したかったからです。前作にはなかったバンドっぽさもありますね。

 ブックレットで取り上げているのは、他に「戦火 −恐怖を越えて−」、「ヒトとして」、「Can You Hear」など全16曲。制作当時を振り返りながら、楽曲に込めた思いやこだわり、レコーディング時の秘話を語っている。ぜひブックレットを手に取って、作曲者自身が語る貴重なエピソードに触れてみてほしい。

 デバッグの現場から20年あまり。ユーザーに素晴らしい作品を届けたいと切磋琢磨し、時に笑い、時に苦悩しながら二人が重ねてきた歳月は、確かにこのサウンドトラックに刻まれている。

プロフィール

椎名 豪(しいな・ごう)

作曲家。1974年生まれ。1997年にナムコへ入社し、「テイルズ オブ」シリーズ、『GOD EATER』シリーズ、『アイドルマスター』シリーズなど、数多くのゲーム音楽を手がける。2017年に独立し、フリーとして活動。アニメ『鬼滅の刃』(梶浦由記と共作)や『テイルズ オブ ゼスティリア ザ クロス』など、アニメ作品の音楽でも活躍している。『CODE VEIN』シリーズでは作曲を担当。

吉村 広(よしむら・ひろし)

バンダイナムコスタジオ所属のゲームディレクター/クリエイター。株式会社ナムコに企画として入社し、『テイルズ オブ レジェンディア』のバトル統括からキャリアをスタートさせ、開発プロデューサー/ディレクターとして新規タイトルを中心に手がける。代表作に『GOD EATER』シリーズ、『CODE VEIN』シリーズなどがある。

■関連リンク
『CODEVEIN SERIES ORIGINAL SOUNDTRACK』
CODE VEIN 公式 ポータルサイト | バンダイナムコエンターテインメント公式サイト

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