なぜMetaは今、「Muse」を投入したのか? 出遅れたAI競争で狙う巻き返し

学習の仕組みを再構築、「Muse Spark」で巻き返しへ

MetaのAIサービス「Meta AI」のロゴ(画像=Meta公式サイトより)

 Metaは2025年6月、AIを開発するチームを大きく組み直し始めた。AIの学習用データを整える事業を手がける米Scale AIに約143億ドルを投資し、創業者のアレクサンダー・ワン氏を、MetaのAI開発の中心を担う人材として迎えた。

 AIの学習には、大量の文章や画像などを用意し、必要なデータを選び、使える形に整える作業がある。Scale AIは、その分野を支える企業だ。Metaはさらに外部から研究者や技術者を集め、開発体制の立て直しを進めていった。

 この新体制で開発され、2026年4月に発表されたのが「Muse Spark」だ。後に登場するMuseの「頭脳」に当たるAIモデルで、利用者の指示を読み取り、回答や作業の進め方を考える能力を支える。

Muse Sparkを使い、フロリダ旅行の計画を複数の作業に分けて進めるデモ画面(画像=Meta公式サイトより)

 Metaによると、AIモデルの構造や学習方法、学習データの選び方を見直し、基礎能力を身につけさせる学習の仕組みを9カ月かけて作り直したという。

 その成果として示したのが、学習に使う計算の効率だ。プログラムのコードを用いた同社の評価では、従来のLlama 4シリーズの「Maverick」と同水準の成績に達するまでの計算量を、10分の1未満に抑えられるとしている。

Metaが公開した学習の計算効率の比較。プログラムのコードを使った評価で、Muse SparkはLlama 4 Maverickと同水準の成績に達するための計算量を約10分の1に抑えられるとしている。数値はMetaによる評価

 学習の効率に加え、難しい問題を解く能力でも、他社に近い成績を示した。Metaが公表したのは、幅広い分野の難問を集めたテスト「Humanity’s Last Exam」の結果だ。

 外部ツールの使用ありの評価では、Muse Sparkの高度な推論モードが正答率58.4%、OpenAIのGPT-5.4 Proが58.7%だった。この難問テストでは、先行する他社に迫る結果が出ていた。

Muse Sparkと他社モデルの比較。「Humanity’s Last Exam」のツール使用ありの評価結果

 さらに9月2日には、改良版「Muse Spark 1.3」を発表した。同モデルでは、長時間にわたる作業を続けたり、複数の依頼を並行して扱ったりする能力が向上したという。

 利用者とのやり取りも見直した。指示が曖昧なら質問し、作業の途中で行き詰まれば助けを求める。重要な操作の前には、本人に確認するように改良した。

 旅行や買い物を任せるなら、条件が足りないまま勝手に進められては困る。必要なところで質問し、判断できない場面では人に相談できることも大切だ。Museの登場前には、こうした用事を預かるための改良も進んでいた。

ついにMuse投入。AIに面倒な用事を任せる時代へ

MetaのAIエージェント「Muse」のキャラクター(画像=Meta公式サイトより)

 そして9月、Metaは一般向けにMuseを投入した。Museは、利用者に代わって作業を進める「AIエージェント」だ。旅行の予約を頼めば、ウェブサイトを開き、日程や予算に合う候補を探し、必要な情報を入力するといった操作を進めてくれる。メールの送信や買い物にも対応し、購入などの重要な場面では本人に確認を求める仕組みもある。

Museで商品を確認し、購入手続きへ進む画面。ベビーカーの商品情報と「Buy with Muse」ボタンが表示されている(画像=Meta公式サイトより)

 さらにMetaは、料金の値下げ交渉や、車をより高く売るための手伝いまで用途として挙げている。たとえば、毎月支払っているサービスの料金が高いと感じても、他社のプランを調べたり、問い合わせたりするのは面倒だ。節約できそうだと思いながら、そのままにしている契約もあるだろう。

 AIが代わりに条件を調べ、交渉を手伝ってくれれば、その手間はぐっと減る。サービスを提供する企業は、これまで以上に価格や条件で比較されることになるかもしれない。これまで手続きが面倒で同じ契約を続けていた人も、AIの助けで気軽に他社と比較できるようになるからだ。

MetaのAIエージェント「Muse」とのやりとり(画像=Meta公式サイトより)

 Metaには、Museを広めるための大きな強みもある。FacebookやInstagramのほか、LINEのようにメッセージや通話ができる「WhatsApp(ワッツアップ)」など、世界中で多くの人が使うサービスを運営している。

 米国では専用アプリやWhatsAppから利用できるMuseは、日本ではiOS、Androidのアプリとウェブ版「muse.ai」で提供される。多くの基本機能は無料で利用できる。普段のメッセージと同じ感覚でAIに用事を頼めるなら、利用する機会も増えそうだ。

 日本ではGmailやGoogleカレンダー、Instagramなどと連携する。さらにMetaは、メルカリ、マネーフォワード ME、チケットぴあとの連携も進めるとしている。

 日本での提供開始に先立つ10月15日には、Appleとの連携も明らかになった。Metaは、開発者がダウンロードして使える新モデル「Muse Spark Open」を公開。Appleも協力し、M5 Ultra搭載のMac Studioを2台組み合わせた構成で動かせるようにした。

Appleが公開した、Mac上で「Muse Spark Open」を動かした際の処理速度の比較。複数のMacを使った構成で、処理速度が向上している(画像=Apple公式サイトより)

 両社はこれまで、利用者のプライバシーや広告をめぐって対立してきた。それが今、AI開発で協力するというのだから、業界の変化を感じさせる出来事だ。

 Museは好調なスタートを切ったが、今後も使い続けてもらえるかは、日々の使い勝手にかかっている。

 旅行の手配がスムーズに済み、面倒な問い合わせも片付く。そんな経験が増えれば、「次もMuseに頼もう」と思う人も増えるだろう。

 かつて期待のAIモデルを予定どおり発表できなかったMetaが、今度は旅行や買い物を任せてもらおうとしている。ChatGPTなどとの競争で、Metaがどこまで巻き返せるのか。その行方にも注目したい。

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