なぜMetaは今、「Muse」を投入したのか? 出遅れたAI競争で狙う巻き返し

旅行の予約までAIに頼めるなら、ぜひお願いしたい。航空券とホテルを見比べて、空き状況を調べて、必要な情報を入力する。旅行は楽しみでも、あの手配はすごく面倒だ。
Metaが2026年9月に公開した新AI「Muse(ミューズ)」が、10月23日に日本でも利用できるようになった。旅行の予約など、面倒な作業を利用者に代わって進めてくれるAIだ。500万ダウンロードに達するまで、ChatGPTは56日かかったが、Museは公開からわずか22日だった。SNSを中心に、Museに料金交渉や航空券の返金手続きを任せたという報告が相次ぎ、テック界隈が沸いている。
ここ数年、生成AIの話題の中心にいたのは、OpenAIのChatGPT、AnthropicのClaude、GoogleのGeminiという「3強」だった。Metaには、どうしても出遅れている印象があった。そのMetaが、なぜ今になってMuseでこれほどの勢いを見せているのか。この記事ではMuseの躍進を手がかりに、MetaがAI競争で巻き返しを図る戦略をひもとく。
ChatGPTより先にデモ公開。それでも苦戦したMeta
実はMetaは、ChatGPTが登場する約2週間前に、生成AIの公開デモを始めていた。2022年11月15日に公開した、科学分野向けのAI「Galactica(ギャラクティカ)」だ。
論文や教科書などの科学的な文章を学習させ、論文を要約したり、専門的な質問に答えたりする研究用のAIだった。膨大な文献を読み、内容を整理する手助けを目指していたのである。

ところが、もっともらしい文章で誤った情報を生成する問題が指摘された。「砕いたガラスを食べる利点」をうたう、架空の研究論文のような文章を生成した例もあった。批判を受け、Metaは公開からわずか3日でデモを停止した。

その約2週間後、11月30日にOpenAIが公開したのがChatGPTだった。Metaのデモが短期間で姿を消した一方で、こちらは生成AIへの関心を一気に広げていくことになる。
Metaも翌2023年、AIの「頭脳」に当たるモデル「Llama(ラマ)」を発表した。外部の研究者や企業も、決められた条件のもとで利用・改良できるようにしたもので、開発者の間で存在感を高めていく。
一方、一般向けサービスでは試行錯誤が続いた。2023年には著名人の姿を使ったAIチャットボットを投入した。大坂なおみ氏ら著名人の姿を使ったAIキャラクターで、WhatsAppやInstagramなどから話しかけられるサービスだった。しかし、翌2024年には提供を終了している。

この間、ライバル各社は、数学やプログラミングなどの難しい問題を解く能力を高めていた。複雑な条件を整理し、いくつもの手順を踏んで答えを導く「推論」の能力だ。
2024年9月には、OpenAIが回答までに時間をかけて考える「o1」シリーズを発表。2025年には、アンソロピックの「Claude 3.7 Sonnet」、Googleの「Gemini 2.5 Pro」も登場した。複雑な依頼にどこまで正確に応えられるかが、各社の競争の焦点になっていた。
Metaも2025年4月、Llamaの新シリーズ「Llama 4」を発表した。複数のモデルを用意し、その最上位に位置づけたのが「Behemoth(ベヒモス)」だった。

ところが、その後、Behemothの公開延期が報じられる。性能の改善が思うように進まず、社内でも公開できる水準に達しているか議論になっていたという。
他社が新しいモデルを送り出すなか、Metaは期待の最上位モデルを公開できずにいた。AIに巨額の資金を投じてきた同社にとって、開発で出遅れているという印象を覆すのは難しい状況だった。























