「チャレンジはローソンのDNA」 AIが考えた“ピクルス入りレモンタルト”、開発陣があえて一番難しい案を選んだワケ
ローソンは9月29日、関東・甲信越地区で「レモンタルト(ピクルス風味)」「酒種あんバターヨーグルトパン」「混ぜて食べる 和風パフェサラダ(ビーフン入り)」の3商品を発売した。いずれも生成AIが出した商品コンセプトを起点に開発されたもので、同社が生成AIを活用した商品を本格的に発売するのは今回が初めてだという。
意外なのはAIの使い方だ。売れ筋を探るために販売データを読み込ませたわけではない。過去の販売実績も市場データも使わず、AIに求めたのは「今までにない」「見た瞬間に『なんだこりゃ?』と思われる」「食べてみたらおいしい」の3つだけだった。
この突飛な案を、誰がどうやって「おいしい」に着地させたのか。商品本部 商品サポート部の中澤氏と村瀬氏、同 厨房・スイーツ部シニアMD(マーチャンダイザー)の井上氏に聞くと、見えてきたのは、ここ数年「定番」に重心を置いてきた同社が、もう一度「チャレンジ」へ踏み出そうとする姿だった。(間瀬佑一)
AIに頼んだのは「なんじゃこりゃ!?」な商品
ーーAIを商品開発に使うという発想は、以前からあったのでしょうか。
中澤:AIを使ったら何ができるんだろう、とはずっと思っていました。特に経営層を中心に「AIならなんでもできる」という期待がとても大きくて。じゃあまず一回やってみよう、というのが今回のスタートです。
正確に言うと、4月に一度コッペパンを出しているんです。ただそのときは「生成AIで考えました」とは一切言わず、こっそり出して、こっそり終わってしまった(笑)。AIが考えたことを訴求して発売するのは、今回が初めてです。
ーーAIには、どんな指示を出したのですか。
村瀬:今回は「AIならではの突飛なものを作れないか」という、本当にそれだけのテーマでした。なので社内で利用が認められているAIに「『なんじゃこりゃ!?』と思うような、今までにない商品を作ってくれ」と指示しました。プロンプトと言っていいのかわからないくらいシンプルに。
こういうお客様の、こういう課題に応える商品を考える、というのがいつもの流れです。今回は単純に「変わったものを作って」と言っただけ。出てきたものは、そのまま井上さんたちMDに渡しています。
ーー新商品のお題を受け取って、井上さんは率直にどう感じましたか。
井上:まさに「なんだこりゃ!?」でした(笑)。「レモンタルトにピクルスを乗せる」というお題で、レモンの酸味、ベースのクリームチーズの酸味、そこにピクルスの酸味が重なる。イメージで考えてみると「酸味同士で、すごくいいんじゃないの?」と思うんです。でも実は、全部違う酸味なんですよね。特にピクルスはきゅうりの酢漬けですから。その調整は、やっぱり人じゃなきゃできなかったと感じています。
中澤:経営から求められているのは、まさにそこなんです。「人ではたどり着かない発想に行け」と。酸味に酸味を掛けるなんて、人なら勝手なバイアスが働いて「それ以上重ねたらダメだ」となってしまう。AIはそれを気にせず出してくるんですよね。受け取った側は「えっ」と困ってしまったんですけど、それを商品として実現させてくれました。
井上:正直、「ほかのお題はないですか」と聞きましたから(笑)。実は次の案もあったんです。でも一番最初に出てきた、僕らからするとハードルの高い案に挑むことに、そもそも今回の意味がある。そう考えて取り組みました。
ーー(試食して)ピクルスがもっと主張してくると思っていたのですが、レモンの奥のほうでほのかに感じます。
井上:そのままトッピングすると、別物になってしまうんですよ。最初は隠そうとして、中に入れたり混ぜ込んだりしました。でもそうすると、食感は残るのに味がほぼなくなってしまう。それじゃ意味がないですよね。普通の輪切りを1枚載せてみようか、とも考えました。最終的には、ピクルスの酸味を感じながらレモンの酸味とうまく合うよう、レモンのピール(皮)を中に入れるなどして仕立てています。
その中で「AIが出してきたこのコンセプトは何なのか」を、人間として考えてしまったところがあって。単純に合わせたらおいしい、ではなく、酸味をうまく組み合わせれば今までにないものができるんじゃないか。そう僕らなりに解釈しながら商品化を考えていきました。
ーー発売後の反響はいかがですか。
中澤:話題にはなったかな、と思っています。「こういう時代になったか」「先取りしている企業だな」と言っていただく一方で、「本当に大丈夫なの?」という声もある。プラスもマイナスもいただいていて、今後AIを活用していくうえでいい材料になりました。
「No Challenge, No LAWSON」 定番重視の2、3年を経て再び挑戦へ
ーーローソンには、もともとこうした企画に挑む文化があったのでしょうか。
持丸:チャレンジはローソンのDNAなんです。「No Challenge, No LAWSON」と標榜していて、今年の新年の挨拶にも書いてあるくらいですから。従来にない発想でチャレンジしようというのは、商品開発に限らず、いろいろなカテゴリーでやってきたことです。
中澤:私たちは商品開発を「定番」と「チャレンジ」の2軸でやろうと言ってきました。チャレンジはずっと得意分野で、「バスチー」や「悪魔のおにぎり」のように話題になる商品を出してきた。ただこの2、3年は定番重視に舵を切っていたんです。今後はやっぱり両方ちゃんとやろう、という話をしています。
その候補を集めているのが「コンセプトの種」という取り組みで、商品本部の全員が「こういうのがあったらいいな」を社内の投稿しています。それを各カテゴリーのリーダー格であるシニアMDに見てもらい、「これいいかも」となったものを商品化していくんです。
村瀬:2024年度の後半に始めて、もう9000件くらい集まっています。社員も、言ってしまえばお客様の一人ですから。私はほとんど全部に目を通しているんですけど、「これ面白いな、誰だろう」と思って見てみると、またこの人だ、ということがあるんですよ。
ーーまるでラジオのハガキ職人のようですね(笑)。
中澤:MDが選ぶときは、誰の投稿かは見えないようにしているのですが、やはりそういう考えることが得意な人はいますね。それで、自分の意見じゃなくてもいいアイデアなら使おうという風土ができてきています。そこにAIという要素が入ってきても、みんな受け入れてくれるんじゃないでしょうか。
ーー今後、AIは商品開発にどう使っていきますか。
中澤:今回のような方向もありますし、社内の販売データをきちんと入れて、定番商品をどうしていくかを考える方向もあると思います。
井上:僕らには過去の経験や実績があります。ただ、だからこそどうしても、似たようなものを引き出してきてしまう部分もある。世の中にあるものをわっと集めてきて、そこから引き出したり集計したりするのは、AIの得意なところじゃないですか。そこで時短やサポートをしてもらいながら、定番とチャレンジの両軸を動かしていければ、さらにいい商品を出せるようになるんじゃないかと思っています。
ーーそれでも人が担い続けるのは、どんな部分でしょう。
井上:ある世代に好まれる味わいは何か、といったことはAIでも近い形で出せると思うんです。ただ、そこからどうすべきかには、やっぱり人が関与していかなきゃいけない。一口食べてどう感じるかと、1個全部を食べ終えたあとの味わいって、違うじゃないですか。満足度も違う。その商品に求められているものは何なのか。そこは、やっぱり人が考えていかなければいけないと思っています。