連載「Create with AI」第8回:木村 響
映像作家・木村響に聞く、プロがAIを使う意義 「経験や知識があるほど、“素材の良し悪し”を判断できる」
生成AIとクリエイティブ。その可能性をめぐる議論が日々更新されていく時代に、クリエイターたちは何を思い、どう距離を取りながら、創作と向き合っているのか。
連載「Create with AI」第8回は、映像作家の木村響氏にインタビュー。90~00年代のフィルムルックを追求した全編AI制作の映像『honey bee』で注目を集め、その後も『2000』『2001』『SHOGUNATE 2126』と作風の異なる作品を発表し続ける同氏に、制作にAIを取り入れるようになったきっかけや、実写の制作経験を元にしたAI映像制作をする狙いを聞いた。
■プロフィール
木村 響映像作家/株式会社WEBB。2001年生まれ。2025年に現在のメンバーとともに株式会社WEBBを創業。実写映像/AI映像を主な活動領域とし、全編AI制作の映像『honey bee』『2000』『2001』『SHOGUNATE 2126』などを発表。
AIが出力したものを高い完成度まで持っていくのが人間の役割
ーー2026年4月に発表された全編AI制作の映像『honey bee』がSNSで注目を集めましたが、ご自身の映像制作にAIを本格的に取り入れるようになったきっかけと、当時の心境について教えてください。
木村:生成AIに初めて触れたのは、2025年の2~3月頃にChatGPTを使い始めたのがきっかけです。エンジニアをしている父親が仕事で使っているのを見て、自分も試しに触ってみたところ、人間のように自然に受け答えをすることにかなり衝撃を受けました。
もともとコンピュータや新しい技術が好きだったこともあり、そこから一気にAIにのめり込みました。同年7月頃には『RTX 5090』(NVIDIAの高性能GPU)を搭載したPCを個人で導入し、ComfyUI(オープンソースの画像・動画生成AI用ノードベースインターフェース)を使って画像生成などを試していました。当時の映像生成はまだ発展途上という印象で、私自身も本格的な制作ツールというより、まずはいろいろ遊びながら可能性を探っていた時期でした。
ーー『honey bee』はどのような経緯で生まれた作品なのでしょうか。
木村:もともと自社コンテンツとして、90~00年代のフィルムルックを意識した実写のホラー作品を制作していました。
その延長で「90~00年代の青春映画のような映像をAIで作ったら面白いのでは」と思ったのが『honey bee』の始まりです。当時、ちょうど会社でも映像生成AIをいろいろ試していたので、検証も兼ねて、最初はかなり軽いノリで作り始めました。そこから、90~00年代の映画などを調べながら、少しずつ作品として仕上げていきました。
ーー所属されているWEBB代表の吉岡一靖氏が『honey bee』について、「90年代の撮影環境やフィルム現像の特徴をリサーチした木村が、生成後に自身の美的感性とこだわりで修正し、この仕上がりになっています。『映画・映像に精通した作家がAIを使う』ことへのWEBBなりの回答となる映像です」と紹介されていたのが印象的でした。こうした制作プロセスを採用した意図と、「映画・映像に精通した作家がAIを使う」ことへのWEBBなりの回答について、あらためて考えをお聞かせください。
木村:自分は、AIでも実写でも、使うツールが変わっただけで、最終的に欲しいアウトプットは同じであるという考えを持っていて。そのためAIだから特殊な作り方をするというより、従来の映像制作と同じように、リサーチ、ルック設計、素材制作、編集、VFX、カラーコレクション(色味を整える工程)といった工程に落とし込んで制作しています。
たとえば90年代の映像を作るのであれば、単に「90年代っぽく」と指示するだけでなく、当時のフィルムや撮影環境、衣装などを調べます。そうした映像に関する知識や経験があるほど、AIが出した素材の良し悪しを判断できる。「映画・映像に精通した作家がAIを使う」というのは、そういうことだと思っています。
ーーいまのお話に関連して、AIが出した素材に対して、生成後にご自身の手で仕上げていく工程で、とくに大切にされていることなど、こだわりがあれば教えてください。また「ここはAIに任せない」と意識的に線引きされている部分についてもお聞きしたいです。
木村:自分の感覚では、AIが担当するのは実写でいうところの撮影の工程に近いです。そこから編集、VFX、カラーグレーディングなどのポストプロダクション作業を行いますし、必要であれば素材を切り抜いたり、合成やレタッチをしたりもします。
AIが出したものをそのまま完成品とするのではなく、そこから高い完成度まで持っていくのは人間の役割だと割り切っています。特に「何を良いと判断するか」という部分はAIに任せないようにしています。自分にとってAIは、制作を楽にするためだけの道具ではなく、作品の質を上げるための道具という認識です。
ーー『honey bee』以外に『2000』や『2001』、最近ではSF風の『SHOGUNATE 2126』といった異なるテイストの映像も公開されています。作風の振れ幅の背景にある思いや、コンセプトの立て方について教えてください。
木村:一つの作風に固定するというより、いろいろな時代やジャンル、映像表現の引き出しを持っていたいと思っています。普段見ている映画や写真、音楽、あるいは会社のメンバーとの会話など、いろいろなところからインスピレーションを受けて、それをパズルのように組み合わせながらコンセプトを作っています。
たとえばテーマが「90年代」と「青春映画」が決まれば、そこから映像の質感、フォント、音楽、カットの長さ、芝居、髪型、衣装などが連鎖的に決まっていきます。一つか二つ、作品の核となるコンセプトが決まれば、そこから全体の世界観を組み上げていく、という作り方が多いです。
思い通りにいかないときほど別の可能性を探す
ーー規制や著作権、産業構造の変化なども含めて、AIをめぐる映像業界全体の動きをどのように捉えていますか。
木村:映像業界に限らず、生成AIによって、これまでの制度や制作の枠組みだけでは整理できないことが今後さらに増えていくと思っています。著作権や権利者を守るためのルールは当然必要ですが、一方で、新しい技術や表現を過度に制限しないことも重要だと思います。
日本には漫画、アニメ、ゲーム、映画など強いコンテンツ産業があるので、クリエイターが新しい技術を自由に試せる環境が整えば、産業全体がさらに加速していく可能性があると思っています。
ーー実際にAIを作品作りに活用するなかで、思い通りにいかなかったり、独自の工夫で乗り越えた経験もあるのではないかと思います。直近で印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
木村:最近のモデルはかなり優秀なので、やりたいことの大半は実現できるようになってきています。それでも、狙ったカットがなかなか出なかったり、時間がかかりすぎたりすることはあります。そういう場合は一つの表現に固執せず、まったく違うカットや演出に変更することも多いです。
最初に考えた演出が必ず一番良いとは限りませんし、AIは別案を試すスピードが非常に速いので、思い通りにいかないときほど別の可能性を探すようにしています。結果的に、最初の想定より良い表現が見つかることもあります。
ーーAIに対するご自身のスタンスや距離感は、制作に取り入れ始めた当初と現在とで、変わった部分はありますか。もしあれば、どのような変化なのか教えてください。
木村:一番大きいのは、とにかくPDCAを回すサイクルが速くなったことです。これまではアイデアを思いついても、実際に撮影して映像にするまで時間や予算が必要でした。AIであれば一度形にしてすぐ判断できるので、良ければそのまま企画を大きくできますし、イメージと違えばすぐ別案を試せます。
それから、最近は実写との融合にも可能性を感じています。これまで大きな予算や時間が必要だった一部のカットをAIで補ったり、実写素材と組み合わせたりすることで、制作期間を短縮できます。特に自社コンテンツでは制作スピードを重視することもあるので、そういった場面では積極的に使っています。
自分ごととして捉えてしまうような、「リアルさ」を追求していきたい
ーーnoteでは『2001』の続編『2002』を制作中と書かれていました。このシリーズや、その先で、これから作りたい映像作品や、今後のクリエイターとしての展望など、現時点で構想されていることや興味を持たれているテーマがあればお聞かせください。
木村:『2001』『2002』のシリーズや、AIを使わず実写で撮影している自社コンテンツにも共通していますが、これからもとにかく「リアルさ」を追求していきたいです。
もちろんフィクションとして成立させた上で、その世界や出来事が本当に存在しているように見えるところまで作り込みたいと思っています。時代設定があるなら、映像の色だけではなく、衣装、髪型、音楽、美術、撮影方法など細かい部分まで揃える。そうした積み重ねによって、視聴者が一瞬でも自分ごととして捉えてしまうような、容赦のないリアルさを持った作品を作りたいです。
ーー最後に、ご自身のAIを活用した制作環境について、今後アップデートしていきたい・次に試したいワークフローなどがあれば教えてください。
木村:最近はローカル環境で使えるワークフローもかなり充実してきていますし、扱うモデルのサイズもどんどん大きくなっています。クラウドだけでなく、自分の環境でモデルを動かしたり、複数の処理を組み合わせたりすることで、作品ごとにより細かくワークフローを設計できるようになってきました。
そのためにも、今は『RTX PRO 6000』(NVIDIAのプロ向け高性能GPU)を導入したいと切実に思っています(笑)。今後も新しいモデルを試しながら、自分なりの制作工程を更新していきたいです。
【告知】
KAGEROU
自身初の完全フルAIによる短編映画です。是非ご覧ください。
■ 関連リンク
株式会社WEBB:https://webb-official.com/
X:https://x.com/Noukin_Camera