『ファイナルファンタジーXI』音楽の歩みーーXIの日を記念して

 「ファイナルファンタジー」シリーズ初のMMO(多人数同時参加型オンライン)RPGとして、2002年5月16日に正式サービスが開始された『ファイナルファンタジーXI』(『FFXI』)は、2022年に運営20周年を迎えた。2021年7月7日には特設サイト「WE ARE VANA'DIEL」が開設され、動画コンテンツやインタビュー、アートギャラリーなど、アニバーサリーを祝う様々なコンテンツが公開されている。

 また、2023年3月17日には、『FFXI』20周年を記念し、人気楽曲を厳選して収録したアナログレコード『FINAL FANTASY XI 20TH ANNIVERSARY BEST SELECTION VINYL』がオフィシャルショップ限定で発売(鮮やかなパッケージも目を惹く本盤についても、のちほど改めて紹介する)。同年8月には音楽商品をまとめた特設サイト「FINAL FANTASY XI MUSIC PORTAL」を公開。そして今回、11月11日に最新のオリジナル・サウンドトラックを含む多くの楽曲がストリーミング配信で登場するなど、今年、『FFXI』は音楽的に大きな盛り上がりを見せている。この機会にあらためて『FFXI』の舞台である「ヴァナ・ディール」での冒険を彩った音楽たち、そしてそれらの楽曲を手がけてきたコンポーザーたちの歴史を振り返ってみたい。

“ヴァナ・ディール音楽史”のはじまり

 『FFXI』初期の音楽は、作曲・編曲家である水田直志、植松伸夫、谷岡久美の3人で分担して制作された。当初担当していたのは水田、植松の2名だったのだが、水田は『FFXI』同梱ソフトのネットワーク対戦型カードゲーム『テトラマスター』(2002年5月16日サービス開始)、植松は『ファイナルファンタジーX』(2001年7月19日発売)の音楽もほぼ並行して手がけていたこともあり、植松の声かけで谷岡が加わる形となった。なお、初期開発の段階を終えた後、谷岡は『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』のプロジェクトへ参加している。

 混声コーラスを交えたオーケストラ編成で演奏される「FFXI Opening Theme」(作曲:植松伸夫/作詞:加藤正人/オーケストレーション:浜口史郎)は、「ファイナルファンタジー」シリーズおなじみといえる「Prelude」のメロディーがハープで奏でられる導入部「Legend - The Crystal Theme」で幕を開け、「Memory of the People」「Memoro de la Ŝtono(石の記憶)」「Memory of the Wind」と名付けられたパートが続く全四部構成の壮大な楽曲だ。ヴァナ・ディールというボーダーレスな世界を通じて、世界中の多くの人々が心を通い合わせるきっかけになってほしいという願いを込め、「石の記憶」のコーラスは国際補助語としてつくりあげられた人工言語「エスペラント」で歌われている。また、「石の記憶」のモチーフ(メロディー)は拡張データディスク『プロマシアの呪縛』のエンディングテーマ「Distant Worlds」(歌:増田いずみ/作曲:植松伸夫/編曲:水田直志/日本語原詞:佐藤弥詠子/英語訳詞:マイケル・クリストファー・コージ・フォックス)でフィーチャーされ、ほかにも「Recollection」(作編曲:植松伸夫)や「Fury」(作編曲:谷岡久美)などいくつもの楽曲でアレンジを耳にすることができる。

 実は、『FFXI』プロジェクトの立ち上げ当初、ゲーム中のBGMはストリーミング(オーディオファイル再生)を前提として進められていたが、ネットワーク負荷やゲーム中の効果音の音数など様々な事情が勘案され、最終的に「PlayStation 2」の内蔵音源での制作となったという背景がある。そのため、曲を鳴らすには演奏データと楽器単位の波形データを用意する必要があり、手間を要する楽曲のコンバート作業においては、マニピュレート(シンセサイザー・オペレート)と一部編曲を担った岩﨑英則(水田とは『テトラマスター』の音楽制作で初めてタッグを組んでいる)と、野田博郷も携わっている。数々の試行錯誤を繰り返した彼らの尽力も忘れてはならない。

 開発の初期段階に苦労した楽曲制作における音源的な制約は、2016年3月31日付でPlayStation 2版/Xbox360版のサービスが終了し、Windows版のみとなったことで生演奏や音価の長い音をある程度自由に使用できるようになり、大幅に緩和されている。2012年に『FFXI』が10周年を迎えた際、水田、岩﨑、野田は「SQUARE ENIX MUSIC BLOG」で開発初期のさまざまなエピソードを振り返っている。「何百回聴いても飽きないようなサウンド」を目指すーー長く聴かれ続けることを想定したオンラインゲームの音楽制作にかける当時の興奮や意気込みが伝わってくる内容なので、もし興味があれば本稿の読了後にはそちらも是非読んでみてほしい。

〈参考:「おめでとう!FFXI 10周年!(1)」(岩﨑英則)
【SQUARE ENIX MUSIC BLOG】(2012年5月16日)
http://blog.jp.square-enix.com/music/cm_blog/2012/05/ffxi.html

〈参考:「「ファイナルファンタジーXI」音楽開発前夜」(水田直志)
【SQUARE ENIX MUSIC BLOG】(2012年5月17日)
http://blog.jp.square-enix.com/music/cm_blog/2012/05/xi.html

〈参考:「おめでとう!FFXI 10周年!(2)」(岩﨑英則)
【SQUARE ENIX MUSIC BLOG】(2012年5月18日)
http://blog.jp.square-enix.com/music/cm_blog/2012/05/ffxi_102.html

〈参考:▼「FF11サービス開始10周年+1週間+1日」(野田博郷)
【SQUARE ENIX MUSIC BLOG】(2012年5月23日)
http://blog.jp.square-enix.com/music/cm_blog/2012/05/ff11.html

 木や土や水の匂いに満ちたヴァナ・ディールの音楽世界は、アコースティック楽器の音色やシンフォニックな曲想を中心につくりあげられていった。サンドリア王国のBGM「The Kingdom of San d'Oria」(作編曲:水田直志)では荘重な曲調に響きわたるバグパイプの音色が大きな存在感を示し、ロンフォールのBGM「Ronfaure」(作編曲:植松伸夫)ではパンフルートとアコースティック・ギターの音色が紡ぐ牧歌的でノスタルジックなメロディーが癒しをもたらしてくれる。グスタベルグのBGM「Gustaberg」(作曲:谷岡久美/編曲:谷岡久美・岩﨑英則)ではウドゥ(ナイジェリアのイボ族発祥の打楽器)やダラブッカ(中近東の打楽器)のリズムに乗る寂寥のメロディーが荒涼としたイメージを喚起させる。数多の冒険者に立ちはだかり、忘れ難い印象を与えた「闇の王」のテーマ「Shadow Lord」(作曲:谷岡久美/編曲:谷岡久美・岩﨑英則)と「Awakening」(作編曲:谷岡久美)は、禍々しいコーラス(岩﨑はインパクトのある音を目指してコーラス部分にデータ容量を贅沢に割いたという)や、強烈なリズム、緊張感あふれるシンフォニックサウンドで圧倒する。〈闇の王〉が秘めるヴィジョンや想いをすくいあげ、見事に音楽化してみせた、谷岡渾身の楽曲だ。

 このように、世界各地の楽器がふんだんに使われている『FFXI』の音楽たち。初期の音楽制作においては、「シンセサイザー系の電子音は基本的に使わない」という約束事が自然とできていったという。とはいえ、まったく使われていないわけではない。飛空艇のテーマ「Airship」(作編曲:植松伸夫)、イベントシーンBGM「Despair (Memoro de la Ŝtono)」(作編曲:植松伸夫)、キャラクターメイキング時BGM「Elvaan Female」(作編曲:谷岡久美)や「Mithra」(作曲:谷岡久美/編曲:谷岡久美・野田博郷)などは例外的な楽曲にあたる。谷岡が「ファッションショーの音楽」をイメージし、野田が80年代サウンドを意識して音色を作っていった「Mithra」は、往年のシンセ・ポップスタイルに仕上がっており、ビビッドな印象をもたらしている。

〈参考:「DX7」(水田直志)
【SQUARE ENIX MUSIC BLOG】(2012年5月31日)
http://blog.jp.square-enix.com/music/cm_blog/2012/05/dx7.html

〈参考:「DX7II」(野田博郷)
【SQUARE ENIX MUSIC BLOG】(2012年7月17日)
http://blog.jp.square-enix.com/music/cm_blog/2012/07/post_149.html

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