Facebook、インタラクティブ動画制作ツール発表

Facebook、インタラクティブ動画制作ツールを発表 クリエイターとファンのコミュニティ重視が鮮明に

 SNS最大手のFacebookは、動画コンテンツ市場において新たな戦いをしかけようとしている。この動画をめぐる新たな戦いを左右するのは、動画を制作するクリエイターとそのファンの存在だ。

ユーザ参加型動画の制作が可能に

 Facebookは6月19日、新しい動画制作ツールとクリエイターの支援制度を発表した。この発表の内容は多岐にわたるが、もっとも重要なのはインタラクティブ動画を制作できるツールのリリースだ。このツールを活用すると、ライブ動画に投票機能やチャット機能を追加できる。

 投票機能の活用事例としては、ライブ動画配信中に出題されたクイズに対してユーザが回答を選んだり、ユーザを対象にアンケートを実施することが考えられる(トップ画像参照)。また、チャット機能を使えば、ライブ動画の出演者が動画配信中にユーザと会話することが可能となる。こうしたインタラクティブ動画によって、動画を配信するクリエイターとその動画を視聴するユーザとのあいだに双方向のコミュニケーションが成立し、両社の結びつきが強くなるのだ。

 以上のようなクリエイターとファンの結びつきをさらに強める仕組みも用意されている。同社は、クリエイターが自ら制作した動画の熱烈なファンを見つけやすくするために、熱烈なファンの名前に対してバッジ表示を付加するシステムのテスト運用を今年3月から始めていた。このシステムはテストに参加したクリエイターとそのファンに好評だったため、システムを適用する範囲をさらに広げると発表されたのだ。

さらなるクリエイターの収益化手段

 クリエイターが動画を制作することによって収益をあげる仕組みも発表された。Facebookは、投稿された動画を再生中に表示される広告動画「Ad Breaks」を制作したクリエイターに対して、広告収益の55%を支払う支援プログラムを昨年2月よりテスト運用していた。今回新たに「Facebook for Creators Launchpad 」プログラムが発表され、支援するクリエイターをさらに増やすこととなった。同プログラムの支援を希望するクリエイターは、ここから支援を申請することができる。なお、支援を受けられるのは「ヒトビトを元気づけ、忠実なコミュニティを育てたオリジナルコンテンツを長きにわたって制作してきた」クリエイターとされている。

 さらに動画のファンが、直接クリエイターを支援するファン・サブスクリプションも発表された。視聴している動画を制作するクリエイターを支援したい場合、ユーザは月額4.99ドル(約550円)を支払うことでクリエイターを金銭的に支えることが可能となる。支援金を支払うユーザは、クリエイターの独占コンテンツが視聴できたり、支援者であることを証明するバッジを自身のFacebookページに表示できるようになる。

コミュニティ重視に転換か?

 テック系ニュースサイトUS版『TechCrunch』は、Facebookが発表したインタラクティブ動画制作ツールはクイズ動画アプリ「HQ Trivia」を意識したものであると指摘している。同アプリは、スマホにライブ配信されるクイズを出題する動画に対して、ユーザが回答を選択できるというものだ。クイズには賞金も設けられており、昨年から急激にユーザ数を増やしている。

 また、同じくテック系ニュースサイト『The Verge』は、同ツールが昨年11月にYouTubeが発表したコミュニティ機能に類似していることを報じた。このコミュニティ機能とはYouTubeに投稿された動画の視聴者を対象として、動画に埋め込まれた選択肢を選んでもらうことでアンケートを実施する、というものだ。

 さらには、今回発表された動画クリエイターとファンの結びつきを強める一連の施策は、先日同社が発表したゲーム視聴動画ページ「Fb.gg」やゲーム動画配信者支援プログラム「Gaming Creator Level up Program」とも類似している。

 以上のようなFacebookの動向から、同社はユーザに一方的に広告を供給して収益をあげるビジネスモデルから、クリエイターとファンのコミュニティを育成して、そのコミュニティの活動から収益をえるそれに転換しようとしている、と推測されるのではないだろうか。そして、こうしたコミュニティ重視の姿勢は、Facebookだけではなくコンテンツビジネスを展開するテック系企業全体に広がっているのかもしれない。

■参考記事
Facebook「Helping Creators Connect, Create and Grow
日本版TechCrunch「Facebookが動画内に挿入できる広告ブレークを導入へ―、広告収益の55%がクリエイターのもとに
US版TechCrunch「Facebook launches gameshows platform with interactive video
The Verge「Facebook entices content creators with new community-centered video platform
リアルサウンドテック「Facebook、なぜゲーム視聴サービスに注力? 市場の覇権を狙う切り札はOculusブランドか
トップ画像出典:Facebook「Helping Creators Connect, Create and Grow」よりプレスキットを引用

■吉本幸記
テクノロジー系記事を執筆するフリーライター。VR/AR、AI関連の記事の執筆経験があるほか、テック系企業の動向を考察する記事も執筆している。
Twitter:@kohkiyoshi