リアル・ブラックペアン!? 『情熱大陸』で驚愕の最新医療テクノロジーが明らかに

 5月27日放送の『情熱大陸』(TBS系)で、VR(バーチャル・リアリティ)などの最新技術を駆使し、国内外から注目を集める外科医・杉本真樹氏が取り上げられた。同局で放送中の人気ドラマ『ブラックペアン』でも、医療テクノロジーがひとつの中心的なテーマになっているように、医療現場は今まさに変わりつつあるようだ。

 番組冒頭に映し出されたのは、「NTT東日本 関東病院」の手術室。その片隅で、ゴーグルを付けた医師たちが、目の前の空間を手探りしながら、何やら話し合っている。ゴーグル型端末には、『HoloEyes』の文字ーー3D空間上にポリゴン変換したCTデータを表示させ、臓器の構造や出血ポイント、手術する患部などを目の前で確認できるというテクノロジーだ。患部の3D画像を見ながら手術の内容について議論することはもちろん、それを執刀医の視野に投影し、まるで透視のように、内臓や血管を見ながら処置することができる。

 このシステムを開発したのが、医療の革命児・杉本真樹氏だ。彼が作ったVRシステムは、番組内で「いわば外科医にとってのカーナビのようなもの」と説明されている。NTT東日本 関東病院の志賀淑之・泌尿器科部長は、「外科医は常に不安と闘っている。そのときに、立体にしっかり見えていることが安心につながる。術者の安心感が患者さんの安全につながればよく、この技術はとても役立っている」と、その有用性を語った。

 杉本氏はプログラマーとともに、会社を立ち上げた。この春に准教授として務めていた神戸大学大学院を辞し、今はフリーの外科医でもある。PCや周辺機器と向き合うことが多くなり、白衣を着る機会は少なくなったと言うが、「外科医を助ける人がなかなかいない。効率化して100%のパフォーマンスが出せるように余分な仕事を減らすべきだし、快適で魅力的な仕事にしなきゃいけない。われわれのVRツールを使って、それを達成する」と力を込める。

 実際に、椎間板ヘルニアの難手術を控えた整形外科の名医から声がかかり、患部の3D画像を制作、即座にリアルな「予習」の場をセッティング。内視鏡を挿入する角度は、これまで医師の経験に頼る部分が大きかったそうだが、3D画像によってより緻密に、神経を傷つけないラインを見ることができるようになった。そのデータをゴーグルにインストールし、実際に患者に触れて、3D画像の大きさを調整。患者の上に浮かぶ画像をガイドに、見事、手術は成功。手術を求める患者が200人待ちだという名医も、「いつもは細かく確認しながら手術を行うが、3D画像のおかげで自信が持てる。この技術が確立すれば、レントゲン画像は要らなくなるかもしれない」と舌を巻いた。

 杉本氏は葛飾・柴又生まれ。小学校から私立に通い、周りに医者の息子が多く、いつしか「経験や技がものを言う外科医を目指すようになった」という。しかし、実際に医師になってみると、外科手術以前の問題に気づいた。それが「レントゲン画像の限界」だ。それ以来、3D画像の研究に力を入れ、手術において患者の肌に身体の内部の画像を映し出す「プロジェクションマッピング」も、杉本氏が初めて行なった。練習用の臓器を3Dプリンタで作製するなど、手術を立体的に捉える彼の取り組みは、世界でも注目を集めており、2014年にはAppleが選ぶ「世界を変え続けるイノベーター」30名にも選出されている。

 番組のテーマにもつながることだが、この杉本氏、情熱がすごい。自分が足を骨折すれば、実験の好機とばかりに立体の模型を作り、手術に活かす。また趣味のスキーにおいても、滑っている最中にスタビライザーを振り回し、360度映像のテストだ。新しい製品が出れば、医療に役立たないかと、とにかく試すのだという。

 米シアトルで開催された第16回世界内視鏡外科学会で、杉本氏が講演を行なった。テーマは「医療の未来をのぞく」。各国の医療関係者がその取り組みに関心を寄せるなかで、「もしもデジタル技術がエラーを起こしたら、誰が責任を取るのですか?」という厳しい質問も投げかけられた。根本的かつ、クリティカルな問題もはらむところだが、医師である杉本氏は、「患者さんが人である以上、治すのも人だと思う。現在のCTやMRIも、そこ撮られた画像や映像は、もともと機械的に得られたデータ。現状、医療機器として利用されているソフトウェアにおいても、同じように医者が責任を取ることになっており、その立ち位置はあまり変わらないかもしれない」と言う。自身が医師であるからこそ、「医師が責任を取る」と言えるわけだが、一方で杉本氏は技術者であり、「医師に責任を負わせたくない」という気概も持っている。

 番組では、そんな杉本氏の技術者としての真価が問われる、ある手術が取り上げられていた。

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