『インサイド・ヘッド』は万国共通のキャラ表現を達成 感情をめぐる普遍的アニメーション
もちろん、そこに描かれたライリーという少女の物語自体も、大いに感動を誘うものになっている。ミネソタ州の田舎町から大都会のサンフランシスコに引っ越したライリーは、いきなり引っ越しの荷物が届かない災難に遭い、住むことになった家もミネソタに比べて狭く、気持ちがグッと落ち込む。学校に行っても周りは知らない子ばかり。その中でライリーの心にカナシミの感情がわき上がる。
そう、カナシミ。ライリーが常に楽しく過ごせるように頑張っているヨコロビからすれば天敵のような存在で、それこそ不要だと思って感情を操作する司令部からカナシミを遠ざけようとする。そんなやりとりを見ている観客も、わざわざ哀しくなるようなことをするカナシミの存在が疎ましく思えてくる。
日本語版の場合は、そんなカナシミの声を大ベテランで超演技派の大竹しのぶが務めていることで、余計にうっとうしいと思う気持ちがふくらんでしまう。竹内結子が演じるヨロコビの声が常に前向きで力強いだけに、余計にカナシミなんて必要ないと思えてくる。
けれども、そんなカナシミがもたらしてくれる感情こそが、ライリーという少女を強くし前向きにしているのだと分かった時、人は喜びだけでは生きていけないのだと気付く。哀しみがあってこそ喜びの感情がより強く、より大切なものとして心に刻まれ、記憶として残り一生の思い出になるのだと知る。浮いて沈んでまた浮いて。そんな感情の起伏が、人に前を向く気持ちをもたらしてくれるのだ。
そうしたドラマチックな物語に観客は感動する。そして同時に、自分の中でこれはどのような感情が頑張っているのだろうと思い返し、そうした感情を今度は自分自身で操って、これからを生きていこうと思うのだ。
もっとも、人はそれほど単純ではないことは、成長して大人になった人なら分かっている。喜怒哀楽以外の複雑な感情に引きずり回されながら生きていることを、自分ごととして知っている。そこに踏み込んだのが、続編となる『インサイド・ヘッド2』(2024年)だ。
サンフランシスコに引っ越して2年が経ち、高校に進むことになったライリーに芽生える思春期ならではの感情が、新しいキャラクターとなって続々と登場している。例えばシンパイ。喜び哀しみ怒り恐れるだけではカバーできない不安感を司る存在として現れては、アイスホッケーがうまくいかないのではないか、友だちと別れてしまうのではないかといった感情をライリーに与えて迷わせる。
他人をうらやむイイナーだったり自分を卑下するようなハズカシであったり何もやる気が起きなくなるダリイであったりといった感情も次々に芽生え、それまでライリーの面倒を見てきたヨロコビたちを隔離してしまう。
そこからのヨロコビたちの大冒険は、『インサイド・ヘッド』でも描かれたヨロコビとカナシミの冒険にもまして複雑で、ワクワクとする展開の中に見る人を引きずり込む。『インサイド・ヘッド2』がアニメ映画として歴代1位となる16億5000万ドルもの世界興収を上げられたのも、エンターテインメントとしての面白さがあったからだろう。
そして同時に、誰もが直面する思春期のモヤモヤを、キャラクターたちの劇を通して可視化してくれたこともある。そこから自分を見つめ直し、新しく歩み始めるきっかけをくれたことで、自分のための作品だと感じることができた。日本語版でヨロコビの声を演じた小清水亜美が、竹内結子の演技を受け継ぎ前作からのファンを喜ばせたことも添えておく。
もしも『インサイド・ヘッド3』が作られたら、今度はどのような感情が生まれるのかは大いに気になるところだ。それは、打算だったり効率だったり諦めだったりと、大人の世界の醜さが可視化されたものになって、あまり嬉しい気持ちにはならないかもしれない。
けれども、人が大人になっていく課程、そして社会で生きていく中で避けることができないものでもある。描くのに苦労しそうだが、そこは人を楽しませるノウハウを持つディズニー/ピクサーが、きっと鮮やかなドラマにして描いてくれるだろう。
■放送情報
『インサイド・ヘッド』
日本テレビ系にて、10月9日(金)21:00〜10:54放送
※本編ノーカット
声の出演(日本版/英語版):竹内結子(エイミー・ポーラー)、大竹しのぶ(フィリス・スミス)、佐藤二朗(リチャード・カインド)、落合弘治(ビル・ヘイダー)、浦山迅(ルイス・ブラック)、小松由佳(ミンディ・カリング)、伊集院茉衣(ケイトリン・ディアス)、田中敦子(ダイアン・レイン)、花輪英司(カイル・マクラクラン)
監督:ピート・ドクター
共同監督:ロニー・デル・カルメン
脚本:ピート・ドクター、メグ・レフォーヴ、ジョシュ・クーリー
製作:ジョナス・リヴェラ
製作総指揮:ジョン・ラセター
音楽:マイケル・ジアッチーノ
©2026 Disney/Pixar