キム・ヘヨン監督が『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』に込めた人間愛 日本映画からの影響も
韓国映画界の新たな才能として注目を集めるキム・ヘヨン監督。助監督としてキャリアを重ね、『恋愛体質~30歳になれば大丈夫』『私が死ぬ一週間前』などのドラマで演出を手がけてきた彼女の長編映画監督デビュー作『大丈夫、大丈夫、大丈夫!』がついに日本でも公開となる。本作は、突然の不幸に見舞われながらも、持ち前の明るさと「韓国舞踊」への情熱で運命を切り拓いていく少女イニョンの成長物語だ。第74回ベルリン国際映画祭「Generation Kplus」部門の最優秀作品賞にあたるクリスタル・ベア賞を受賞した本作の背景には、監督が日本映画から受けた深い影響と、人間に対する温かな眼差しがあったーー。
「人間が持つ多様な感情を面白く伝えたい」
ーー本作が長編映画監督デビュー作となりましたが、この題材で映画を撮ろうと思った背景についてまず教えてもらえますか。
キム・ヘヨン:実は当初、別のタイムループもののシナリオを制作会社から提案されていたんです。未来から来た友達が事件を防ごうとするストーリーでした。それはそれで面白そうでしたが、私はもっと地に足のついた“キャラクターの成長物語”を撮りたいと考えていました。そこで制作会社に「こういう話はどうでしょう?」と逆提案したのが、この作品の始まりです。
ーーご自身の中で温めていたテーマだったのでしょうか?
キム・ヘヨン:子どもや大人が一緒に楽しめる、優しくて感動的な映画を撮りたいという気持ちがずっとありました。韓国には、専門家が問題のある子供の行動を改善していく有名な観察バラエティ番組があるのですが、私はその番組が大好きで。でも、見ていると問題の本質は子ども自身ではなく、常に両親の側にあったんです。そういった“子供側の視点”で世界を見る物語にとても興味がありました。
ーーこれまで映画の助監督やドラマの監督としてキャリアを築かれてきたなかで、ご自身の中で心境の変化はありましたか?
キム・ヘヨン:若い頃は「間違ったことをしている人にダメだと言いたい」という強い正義感に突き動かされていました。でも、助監督として現場を経験し、年を重ねるうちに、「人の心は一つではない」と気づかされたんです。心には裏表があり、相反する感情が衝突することもある。何が正解かを決めるよりも、人間が持つ多様な感情を面白く伝えたいと思うようになりました。
ーーその“多様な感情”が、本作の主人公イニョンの造形にも活かされていると感じます。
キム・ヘヨン:そうですね。本作でもう一つこだわったのが“動き”による表現です。大学時代、専門ではありませんでしたがパントマイムのサークルに入っていて、言葉を使わずに表現することの面白さを知りました。今作で韓国舞踊をフィーチャーしたのも、そのときの関心から繋がっています。
ーーイニョンを演じたイ・レさんの演技が素晴らしかったです。絶望的な状況でも光を失わない彼女の魅力に引き込まれました。
キム・ヘヨン:この役は、最初からイ・レさんしかいないと考えていました。彼女は子役としてキャリアをスタートしていますが、作品選びに非常に勇気があり、常に新しいジャンルに挑戦しています。現場での彼女は、どの大人の俳優にも負けないプロフェッショナルでした。透き通ったピュアなエネルギーを持ちながら、堂々と自分の意見を言える。彼女の存在そのものが、この映画を成立させてくれました。