桜田ひより×佐野勇斗は“今期最も尊いバディ”に 『ESCAPE』でみせた俳優としての更新
ストーリーが折り返しに差しかかった頃から、『ESCAPE それは誘拐のはずだった』(日本テレビ系/以下、『ESCAPE』)は、やっぱりこの2人のドラマだなと感じる瞬間が増えていった人は多いはずだ。
日本有数の企業の社長令嬢・八神結以(桜田ひより)と、前科持ちの青年・林田大介(佐野勇斗)。スタート地点は「人質」と「誘拐犯」という、どうあがいても交わらなさそうな関係だ。それが、結以の「私と一緒に逃げて!」というひと言を境に、ゆっくりと運命共同体になっていく。犯罪サスペンスの枠組みを借りながらも、この作品が描こうとしているのは、2人の人生そのものをやり直していく過程だ。そして、その説得力を支えているのが、俳優として新しい段階に足を踏み入れつつある佐野勇斗と桜田ひよりのバディだ。
大介を演じる佐野は、これまでラブコメや青春ドラマで、明るくて、人との距離の近い若者像を何度も演じてきた。たとえば『トリリオンゲーム』(TBS系)では、目黒蓮演じるハルの相棒・ガクとして、天才エンジニアでありながらどこか不器用で愛嬌のある青年を好演していた。『TOKYO MER~走る緊急救命室~』(TBS系)では、命の現場で必死に食らいつく若い医療スタッフとして、真っ直ぐさと青さが同居する姿を見せている。『僕の愛しい妖怪ガールフレンド』(Prime Video)では、恋人が欲しくて仕方ないゲームオタク・犬飼忠士、通称“ハチ”というキャラクターを軽やかに演じた。恋や仕事に空回りしながらも、前向きさで突き進んでいくちょっとダメでかわいい主人公は、まさに佐野の陽のイメージを象徴する役だったと言える。
そんな彼が『ESCAPE』で演じる大介は、一見するとこれまでのイメージから最も遠いところにいる。借金と前科を抱え、人生の選択を何度も間違えてきた青年。恩人に頼まれて誘拐計画に加わってしまう流されやすさもあれば、どこかで「こんな自分でも誰かの役に立てるはずだ」と信じていた痕跡のようなものも見え隠れする役どころだ。印象的なのが、第5話で描かれた恩人との別れのシーンである。棺の前に立った大介は、こらえようとしていたものが決壊したように、涙とともに恩人への言葉をぶつけていく。感情の行き場をなくした若者が、やっと本音をさらけ出した瞬間として映る。そこにいるのは「誘拐犯」ではなく、大切な人を失った一人の青年だ。『ドラゴン桜』(TBS系)で演じた、復讐心と正義感のあいだでもがく米山圭太役もそうだったが、佐野が本領を発揮するのは、実は“闇”の部分を抱えた役なのかもしれない。
一方の桜田は、子役期からドラマや映画に数多く出演し、繊細な感情の揺れを丁寧にすくい取る演技で注目を集めてきた。『明日、ママがいない』(日本テレビ系)で児童養護施設の子どもを演じて以来、繊細な心の揺れを表現できる若手として、映画『ういらぶ。』『ホットギミック ガールミーツボーイ』などでも、等身大のティーンを体現してきた。近年では、『silent』(フジテレビ系)で、徐々に聴力を失っていく兄・想をそばで支え続ける妹・佐倉萌を演じた姿が印象に残っている。家族の中で一番年下でありながら、兄と母のあいだに立ち、時に踏ん張り、時に甘える。そのバランス感覚の良さは、彼女の健気さが表れていた。
『ESCAPE』での結以は、その健気さを土台にしつつ、明らかに一段ギアを上げた役だ。社会問題に目を向ける優等生でありながら、一族に受け継がれる“さとり”の能力と、父から受けた暴力の記憶によって、長くまともな人間関係を諦めてきた人物。第1話で大介に「私と一緒に逃げてほしい」と懇願した瞬間は、その諦めを裏返すような、半ば衝動的な決断だった。そこから第5話、第6話にかけて、結以は少しずつ守られる側から自分の意思で選び取る側へと変わっていく。危険を承知で恩人の葬儀に向かおうと言い出すのも、高熱にうなされながら自分の秘密や過去を打ち明ける相手として大介を選ぶのも、どちらも結以のほうだ。
そうして2人の関係は、共犯者から、お互いの居場所になりつつある相棒へと変わっていき、気づいたときには、2人の距離はもう後戻りできないところまで近づいていった。お互いの弱さを知ったうえで、それでも一緒にいることを選択する。そこにあるのは、恋愛だけでは言い切れない、お互いを必要とし合う感覚だ。相手がいなければ、自分は前に進めない。そう思える相手を見つけた2人の姿に、視聴者は“尊さ”を見出していったのだと思うし、今期もっとも愛されるバディへと育っていったのだろう。逃げながら、誰かを信じることを覚えていくハチとリンダは、放送が終わったあとも、しばらく私たちの記憶のどこかで並んで走り続けていそうだ。
ひかわかよが脚本を手掛けたサスペンスドラマ。20歳の誕生日に誘拐された八神製薬の令嬢・結以は、身代金目的の犯人になぜか「一緒に逃げてほしい」と懇願する。彼女の真の目的とは一体何か。
■放送情報
『ESCAPE それは誘拐のはずだった』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00~23:00放送
出演:桜田ひより、佐野勇斗、ファーストサマーウイカ、結木滉星、加藤千尋、髙塚大夢(INI)、志田未来、松尾諭、山口馬木也、富田靖子、北村一輝
脚本:ひかわかよ
演出:小室直子、長沼誠ほか
チーフプロデューサー:荻野哲弘
プロデューサー:秋元孝之、明石広人
音楽:桶狭間ありさ
主題歌:家入レオ「Mirror feat.斎藤宏介」(ビクターエンタテインメント)
制作協力:オフィスクレッシェンド
©日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/escape/
公式X(旧Twitter):https://x.com/escape_ntv