なお、SNSで盛り上がっている二次創作は、「レゼがデンジにぞっこんになっていること」を前提としたものが多い。とはいえ実のところ本編では最期の瞬間を除くと、彼女の本心は曖昧にしか描かれていなかった。そのためファンのあいだでは“どの時点から、どれくらいデンジのことを好きだったのか”という議論も交わされている。

　このことと関係して紹介したいのが、「レゼはデンジにフラれたと感じて、自暴自棄になって大暴れした」という説だ。

　夏祭りの夜、レゼはデンジに対して「仕事やめて私と一緒に逃げない？」と誘いをかけるが、それを拒否されたことで街を大規模に破壊するほどのバトルになだれ込んだ。これはレゼが任務を忠実に果たしただけなのか、それとも私怨交じりに嫉妬や失望の感情をぶつけたのか……という具合に解釈が分かれている。

　まず事実をベースとして語るなら、レゼがボムになって街を破壊したのは、ビームの横やりが入ったことが理由。夏祭りの夜にレゼはデンジを2人きりになれる場所に誘導し、その舌を噛みちぎって心臓を奪おうとした。しかし近くで潜伏していたビームにデンジを救出されてしまったため、仕方なくボムに変身したという流れだ。

　これが「誰もいないところで2人きりで殺すための目論見」だったとすると、いかにも暗殺者らしいクレバーなやり方だろう。だが作中でデンジも疑問を呈していた通り、本当に任務に徹するなら出会ったときに殺してしまうのが一番自然だったはずだ。原作ではレゼの任務についてのもう1つの側面として、チェンソーマンの存在を広く周知させるという目的があったと説明されているが、それを加味してもやはり不合理な行動が多かったように見えてしまう。

　すなわち実際にはデンジと最初に出会ったときから、ソ連の刺客ではない“本当の彼女自身”による気持ちが行動に現れていたと言えるのではないだろうか。

　それを踏まえて夏祭りの夜のシーンを振り返るなら、デンジへの誘いはたんなるハニートラップではなく、多少なりとも本心のこもった言葉だったのかもしれない。だとするとレゼがデンジに誘いを断られ、もう1人別の好きな人がいることを悟ったことで自暴自棄になった……という解釈も十分成立するように思われる。

　あるいはもう少し妥協した解釈としては、「レゼ自身はハニートラップのつもりで誘ったが、デンジに拒絶されたことで思いもよらない動揺を覚えてしまった」というふうに捉えることもできる。デンジの拒絶をきっかけに自身の本心に気づき、その後じわじわと“冷酷な刺客としての人格”が剥がれ落ちていったという可能性だ。

　なおアニメ版では、デンジと戦闘中のレゼが「私たちの戦い方ってのを教えてあげる」と軽口を叩いたり、「なんだかもうメチャクチャだ！」と口走ったりする姿がどこか楽しげな様子で描かれていた。そこに自分が背負う任務や過酷な運命からの解放感を読み取ることもできるだろう。

　劇場版『チェンソーマン レゼ篇』は緻密なストーリー構成でありながら、解釈の余地もしっかり残されており、何度でも劇場まで観に行きたくなる作品だ。謎に包まれたレゼという存在こそが、同作を大ヒットさせている起爆剤なのかもしれない。

■公開情報
劇場版『チェンソーマン レゼ篇』
全国公開中
キャスト：戸谷菊之介（デンジ）、井澤詩織（ポチタ）、楠木ともり（マキマ）、坂田将吾（マキマ）、ファイルーズあい（パワー）、高橋花林（東山コベニ）、花江夏樹（ビーム）、内田夕夜（暴力の魔人）、内田真礼（天使の悪魔）、高橋英則（副隊長）、赤羽根健治（野茂）、乃村健次（謎の男）、喜多村英梨（台風の悪魔）、上田麗奈（レゼ）
原作：藤本タツキ『チェンソーマン』（集英社『少年ジャンプ+』連載）
監督：𠮷原達矢
脚本：瀬古浩司
キャラクターデザイン：杉山和隆
副監督：中園真登
サブキャラクターデザイン：山﨑爽太／駿
メインアニメーター：庄一
アクションディレクター：重次創太
悪魔デザイン：松浦力／押山清高
衣装デザイン：山本彩
美術監督：竹田悠介
色彩設計：中野尚美
カラースクリプト：りく
3DCG ディレクター：渡辺大貴、玉井真広
撮影監督：伊藤哲平
編集：吉武将人
音楽：牛尾憲輔
配給：東宝
制作：MAPPA
主題歌：米津玄師「IRIS OUT」（Sony Music Labels Inc.）
エンディングテーマ：米津玄師、宇多田ヒカル「JANE DOE」（Sony Music Labels Inc.）
©2025 MAPPA／チェンソーマンプロジェクト ©藤本タツキ／集英社
公式サイト：https://chainsawman.dog/
公式X（旧Twitter）：@CHAINSAWMAN_PR