戸塚純貴はなぜ人を惹きつけるのか? 『虎に翼』に続き『もしがく』で担う“調和”の役割
俳優・戸塚純貴の勢いが凄まじい。この10月に入ってから『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(フジテレビ系/以下、『もしがく』)がはじまり、続いて『良いこと悪いこと』(日本テレビ系)もスタートした。参加した映画作品が同日に2作も封切られ、さらにはNHK連続テレビ小説『虎に翼』(2024年度前期)のスピンオフとなる来春放送予定の『山田轟法律事務所』(NHK総合)の制作も発表されたのだ。なぜ、彼はこうも愛されるのか。気がつけば好きになっていたという方は多いに違いない。ここでは『もしがく』での役どころを軸に考えてみたい。
本作は、三谷幸喜が脚本を手がけるコメディタッチの青春群像劇で、若手からベテランまでの多彩な顔ぶれによって“三谷ワールド”が構築されているものだ。1984年の渋谷の「八分坂」を舞台に、主人公の久部三成(菅田将暉)を中心とした、じつに風変わりな人間ドラマが繰り広げられているところ。戸塚が演じる大瀬六郎は、交番勤務の純情警官だ。渋谷の風紀を見守る、マジメで善良なキャラクターである。
物語の舞台である「八分坂」は架空の町。現実離れしたようなことがここでは起こる。「八分坂」のシンボルであるWS劇場で久部が働くこととなり、人々を巻き込んで芝居を打とうとしているところ。非常にユニークな設定だ。俳優たちとしては演じ甲斐があるのではないだろうか。しかし、この世界の住人として生きるのは容易なことではないと思う。
主人公の久部を筆頭に、それぞれのキャラクターには強い個性が与えられている。これを俳優たちは過不足なく表現していかなければならない。いくら風変わりな世界観の作品だからといって、個人の思うままに演じていてはドラマは調和を失ってしまう。こういった作品こそ、何よりも空気感を大切にし、共演者の演技をきちんと受け止めることが俳優たちには求められることだろう。そしてそれがもっとも求められているのが、戸塚なのではないかと思うのだ。
主としてこの物語が進行するのは、WS劇場である。けれども六郎はWS劇場の人間ではないから、ここの住人たちとの違いを示さなければならない。もしも私たちが「八分坂」に足を踏み入れたならば、WS劇場の人々は得体の知れない存在として映るだろう。だがいっぽうで、六郎は警察官である。彼のような人物と一度くらいはすれ違ったことがあるのではないだろうか。
戸塚は一般的にイメージされる警察官像を立ち上げつつ、六郎を六郎たらしめるスパイス(=個性)を加え、“三谷ワールド”の一員に仕上げている。ときおり見せる多少オーバーなリアクションなどがそうだ。口にする言葉そのものもそうだが、その発し方にこそ彼の“純情派”な一面が表れている。リアルな手触りのあるキャラクターとして存在しながら、周囲の者たちとの掛け合いの中で、これが“三谷ワールド”であることを視聴者に提示する。それによって我々は、より「八分坂」の人々に対して親近感を抱くことになり、物語の世界の深部へと入っていくことができる。これが本作における戸塚の役割なのではないだろうか。もちろん、これからストーリーが進展していけば、さらなる六郎の役割が生まれるに違いないが。
さて、本稿の冒頭で触れているように、山田轟法律事務所』の制作が発表された。タイトルからして、戸塚が演じる轟太一が物語の中心に立つことになるのだろう。『虎に翼』は出演者の多くが高く評価されたものだが、戸塚はその最たる人物だったといえる。同作の持つテーマの一部を体現する役どころだったのだ。こうしてスピンオフ作品で中心人物に据えられるあたり、戸塚が生み出したキャラクターがいかに愛されているのかが分かる。
戸塚は出演作の絶えない俳優だが、彼が30歳を迎えたあたりから、その“愛され度”は格段に上がったように感じる。オードリーの春日を演じた『だが、情熱はある』(2023年/日本テレビ系)が放送されていたあたりからだろうか。彼の演じる個性的なキャラクターたちが愛される存在なのは、もちろんその理由のひとつ。しかし一番はやはり今回の『もしがく』のように、戸塚が自身の役割を的確に掴んでいることこそが、広く愛されることにつながっているのではないだろうか。これを公開中のアニメーション映画『ホウセンカ』では、声の表現だけでやってのけている。彼の“愛され度”はこれからますます上がっていくに違いない。
1984年の渋谷を舞台に、脚本家・三谷幸喜の半自伝的要素を含んだ完全オリジナル青春群像劇。「1984年」という時代を、笑いと涙いっぱいに描いていく。
■放送情報
『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』
フジテレビ系にて、毎週水曜22:00~22:54放送
出演:菅田将暉、二階堂ふみ、神木隆之介、浜辺美波、戸塚純貴、アンミカ、秋元才加、野添義弘、長野里美、富田望生、西村瑞樹(バイきんぐ)、大水洋介(ラバーガール)、小澤雄太、福井夏、ひょうろく、松井慎也、佳久創、佐藤大空、野間口徹、シルビア・グラブ、菊地凛子、小池栄子、市原隼人、井上順、坂東彌十郎、小林薫ほか
脚本:三谷幸喜
主題歌:YOASOBI「劇上」(Echoes / Sony Music Entertainment (Japan) Inc.)
音楽:得田真裕
プロデュース:金城綾香、野田悠介
制作プロデュース:古郡真也
演出:西浦正記
制作著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/moshi_gaku/
公式X(旧Twitter):@moshi_gaku
公式Instagram:@moshi_gaku
公式TikTok:@moshi_gaku