『るろうに剣心』漫画×アニメ×実写で成功した稀有な名作 “折れた逆刃刀”から紐解く
キャラクターデザインに関しては、1996年版の方が尖ったところがあって陰影も強く、全体に濃い雰囲気を漂わせていた。1990年代に特徴的なデザインとも言え、原作の漫画とは少し違ったアニメならではの味を感じさせてくれた。対して現在のキャラクターデザインは、シンプルであまり癖が強くない。剣心も斎藤一も志々雄も万人が見て受け入れやすいライトなフォルムになっている。それでいて、剣がぶつかり合う効果音は重く、目の前で起こっていることが時代劇の殺陣ではなく、命を削り合う戦いであることを思わせる。
これは、大友啓史監督が佐藤健を剣心役に撮った実写版『るろうに剣心』シリーズとも異なる部分だ。同じ宗次郎との最初の戦いが、映画『るろうに剣心 京都大火編』の中に登場するが、そこで神木隆之介が演じる宗次郎は、最初に剣心と何合も切り結ぶ。いわゆるチャンバラとは違って様式美を感じさせる剣戟ではなく、間違えれば斬られるようなスリリングさがあったが、アニメの前作や新作に描かれた、初対面からお互いを探り合い、一撃で決着をつけるような緊迫感からは遠かった。
映画という、決まった時間の中で幾つも盛り上がるポイントを作りながらストーリーを進め、エンディングへと進めていく映像と、毎週のエピソードに山場を作るテレビアニメとでは演出方法も違う。また実写版は、人間がとてつもないアクションを見せて驚かせようとしていたところもあって、宗次郎と剣心の激突でも、最初に激しいアクションがあり、お互いに抜刀術を見せようとした場面へと移って、今度は超人的な動きを見せて宗次郎も剣心も、とてつもない運動能力の持ち主であることを印象づけた。藤原竜也が演じる志々雄との戦いも含め、生身の人間による超絶アクションの迫力で、邦画史上に残る傑作シリーズになった。
現在のTVアニメを観ている人は、どちらかといえば実写版での激しいアクションであり、異形の風体をものともしない動きを見せた藤原の志々雄なり神木の宗次郎の印象が先にあって、アニメではどう描かれるかに注目しただろう。今後描かれる志々雄との激突は、実写映画が強烈だっただけになおさら展開が気にされそうだ。山根綺が声を演じる巻町操も、斎藤一にイタチを思わせる元気な様をめいっぱい見せて楽しませてくれている。そうした新登場の声優たちに先だって、主役の剣心を演じてきた斉藤壮馬も、これが令和の剣心だといった印象を持たれるようになっているようだ。
剣心といえば1996年版のTVアニメでは、涼風真世が担当していた。斉藤壮馬への変更は意外に思えただろう。宗次郎も日高のり子から山下大輝へと変わったことで、同じような違和感を抱かせているかもしれない。
ただ、間に実写版が入ってそこで佐藤健が剣心として大いに存在感を示したことは、女性から男性へのキャスト変更をあまり気にさせなくしたかもしれない。神木隆之介も、『劇場版 SPEC〜天〜』で見せたような無邪気さと危うさが混じった演技を宗次郎で見せて新しいイメージを作った。そこからアニメへと戻ったため、斉藤壮馬や山下大輝の声を聞いても、それぞれがしっかり剣心であり宗次郎だと感じられる。志々雄の古川慎については前作も実写映画も新作もイメージどおり。その意味で隙は無い。あとはどこまでアニメにしてくれるかが全世界のファンの関心事だ。
製作委員会に名前を連ねるアニプレックスにとって『るろうに剣心 －明治剣客浪漫譚－』のテレビアニメは、SPE・ビジュアルワークスとして会社が始まった当初に手がけた作品で、今につながる事業のルーツとも言える。この新作アニメを通じてアニメ事業への思いを再確認し、一方で原作の漫画や前作のアニメを通して世界に浸透していた『るろうに剣心』を、映像も音響も現代のクオリティで改めて見せてファンに喜んでもらう。そうした役目を担う作品として、まだたっぷりと残っている第3期以降のエピソードも、しっかりと描かれていくことだろう。
■配信情報
『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』第2期「京都動乱」
各配信プラットフォームにて配信中
キャスト：斉藤壮馬（緋村剣心役）、高橋李依（神谷薫役）、小市眞琴（明神弥彦役）、八代拓（相楽左之助役）、大西沙織（高荷恵役）、内田雄馬（四乃森蒼紫役）、日野聡（斎藤一役）、山根綺（巻町操役）、中村悠一（比古清十郎役）、古川慎（志々雄真実役）、山下大輝（瀬田宗次郎役）、戸松遥（駒形由美役）、羽多野渉（悠久山安慈役）、岡本信彦（沢下条張役）
監督：駒田由貴
シリーズ構成・脚本：倉田英之
シリーズ構成・脚本協力：黒碕薫
脚本監修：和月伸宏
キャラクターデザイン：西位輝実、渡邊和夫
プロップデザイン：小菅和久
副監督：牧野吉高
アクションディレクター：菊地勝則
美術監督：齋藤幸洋
色彩設計：篠原愛子
3DCGI：松永航、中森康晃
撮影監督：髙津純平
編集：長谷川舞
音楽：髙見優
音響監督：納谷僚介
音響効果：小山恭正
アニメーション制作：ライデンフィルム
©和月伸宏／集英社・「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」製作委員会
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