仲村トオルが挑戦し続ける理由 「“わからないけど、とりあえずやってみよう”を大切に」

 仲村トオルが主演を務める抱腹絶倒のグルメドラマ『飯を喰らひて華と告ぐ』がTOKYO MXにて放送開始となった。

 原作は、『ヤングアニマルWeb』で先月まで連載されていた足立和平による同名漫画。路地裏にひっそりと佇む中華屋のような店構えの料理屋「一香軒」を舞台に、中仲村が料理の腕は一流だが、驚異的な勘違いで訪れる客を困惑させるズレまくった店主の“オヤジ”を演じている。

特徴はその尺の短さと満足度。1話12分完結で観る人の心とお腹を満たす異色のグルメドラマに挑戦した仲村に、撮影の手応えや自身が演じるオヤジの魅力を語ってもらった。(苫とり子)

今回のオヤジ役は癒し効果あり?

――ドラマを拝見しましたが、1本12分ということもあり、あっという間に楽しく観終わってしまいました。1話あたり60分ないしは30分の作品が多い中で、12分のドラマを撮影してみていかがでしたか?

仲村トオル(以下、仲村);僕自身、1本12分という尺の短さが一番興味を惹かれた部分です。それこそ、子供の友人が「もうTikTokより長い映像観るのだるくない?」と言っているのを聞いていたので、誰もが忙しくタイムパフォーマンスが重視される今の時代にピッタリなんじゃないかなと思ったりもしました。ただ最終的には12分×12話で全体としては144分の映像を作っているので、撮影のボリュームは十分ありましたし、意外とやること多いなと思いました。

――12分という尺が原作とのテンポ感とマッチするなと思いました。仲村さんもオファーを受けてから原作を読まれたそうですが、どんな感想を抱きましたか?

仲村:まず、オヤジの調理シーンを読んだときに、いかにも美味しいものが作られている感じがしてワクワクしました。これは原作者の足立さんご本人から伺ったんですが、漫画では調理シーンで「ジュワー」「ぐつぐつ」というような擬音が一切使われていないんです。にもかかわらず、音が聴こえてくるような調理シーンを目指しているとおっしゃっていて。それはすごく腑に落ちましたし、無音だからこそ、自分にとってベストな音が聴こえてくるんだろうなと思いました。

――ご自身が演じられるオヤジの第一印象は?

仲村:オヤジに関しては、勘違いの度合いがなかなかひどいなと(笑)。あまりに壮大な勘違いなので、最初は「この人、もしかしたら勘違いしているフリをしているだけなんじゃないか?」と思ったんです。一見フザけたオヤジだけど、実は敢えてそう振る舞うことで、居場所が見つからない少年を肯定したり、もう死ぬしかないと思っている若者に生きる力を与えているんじゃないかと。でもそれは僕の“勘違い”だったようで、監督やプロデューサーから「いえ、フリじゃないです。完全に勘違いです。オヤジに誰かの背中を押そうという気は一切ありません」とキッパリ言われました(笑)。

――それでも最終的には誰もが元気をもらって帰っていくというのが不思議ですよね。そうさせるオヤジの魅力とは何なんでしょう?

仲村:オヤジの魅力……うーん、あるのかな(笑)。強いて言うなら、まっすぐに間違っているところですかね。イマドキ、自分が思ったことをあんなにも確信して相手に伝える人も珍しいなと思います。そういうところが、きっと悩みを抱えたお客さんにとっては励みになるんじゃないでしょうか。昔、ある現場でNGを出しまくって出番を終えた共演者が監督から半ば冗談で「さっさと帰れ」って言われたときに、「まだいますよ。自分よりダメな人間がそばにいると、皆さん気が楽になりませんか?」って返したんです。それを聞いて僕は「この子、頭いいなー」と思ったんですが、オヤジもそういう存在とちょっと近しいんじゃないかなと思います。オヤジを見ていると、自分が悩んでいることなんて小さく思えてくるというか。そんな癒し効果はあるのかもしれないですね。

――今度はどんな勘違いが炸裂するんだろうと、毎回ワクワクさせられます。仲村さんといえば、エリート官僚や敏腕弁護士など、デキる大人の役を演じられることが多いと思いますが、こういう少し抜けたキャラクターを演じてみて率直に楽しかったですか?

仲村:社会的地位のある人を演じているときも同じなんですが、リアルタイムで演じている最中に楽しいと感じることはほとんどないですね。撮り終わったタイミングで、「今のシーン、面白かったな」と思うことはありますけど。

――完成した映像を見たときの感触としてはいかがでしょう?

仲村:ドラマの慰労会で編集段階の第1話をみんなで視聴したんですが、演じている側としては「公開処刑だな」と(笑)。あと、改めて相当喋ってるなと思いましたね。オヤジはずっと一方的に勘違いしたことを言い続けていて、相手の話なんてほとんど聞いていないですから。セリフを覚えるのも、普段に比べて大変だった気がします。

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