『おっさんずラブ』を脚本・徳尾浩司が語り尽くす 「また書きたいという気持ちは常にある」

『おっさんずラブ-リターンズ-』を通して伝えたかったこと

――春田と牧に関しては、結婚式を経て恋人から家族になっていくというのが今回の『リターンズ』のテーマでもありましたが、改めて田中圭さんと林遣都さんの演技を見ていかがでしたか?

徳尾:始まった瞬間に春田と牧の2人になるんですけど、彼らは5年の間に成長している部分もあるんですよね。例えば、牧は自分の言いたいことが言えるようになっていたり、春田は牧に甘えられるようになったりとか。そういった変化はもちろん意図的に本人同士の演技プランの中にあったんだと思います。2人の関係性は恋人としては完結しているんですけど、どこか不完全な状態も残していて。それはとってもいいことで、第1話を観た時にこの2人がどうやって家族として成熟していくんだろうというふうに思えたんですよね。全9話を通して、2人がじっくりどういった家族になっていくのか、その過程を演じるのはとても難しいことで、田中圭さんと林遣都さんだからこそできたことだと思います。

――この5年の間に、田中圭さんと林遣都さんがプライベートでも仲を深めてきたということも、芝居に反映されているポイントだと感じます。

徳尾:『おっさんずラブ』の現場は、やるかやらないか、仕掛けるか仕掛けないかというような阿吽の呼吸で、見つめ合ってふっと笑い合うこと一つでも普段の2人の関係が出てきたりするものだと思うので、そういったところが映像に出ていてよかったなと思いました。

――徳尾さんの中で、春田と牧の印象に残っているシーンはありますか?

徳尾:『リターンズ』を始める時に、結婚式を描きたいと話していたのでそれができたのはよかったですね。それを最終話ではなく物語の真ん中に持ってくることでその後を描くことができました。結婚式というもの自体がマストなのかということも考えながら作っていて、でも春田はもしかしたら結婚式がしたいかもしれないなと。結婚式自体よりも、そこに向かう過程にドラマがあると思うので、それを描くことができてよかったですね。

――結婚式を中盤に持ってきたことで、結婚式が人生のゴールではないということも言えますよね。

徳尾:そうですね。そこはこだわりのポイントかなと思います。結婚式はきっと最終話なんだろう、という予想もありましたが、そうじゃないパターンを作ることができてよかったです。

――自分としては“わたあめキス”のシーンで春田が牧に言う「悩みとか弱さとか、全部牧に見せて、甘えん坊将軍でいくから」というセリフが好きでした。

徳尾:いいですよね。自分の弱み、カッコ悪い部分をさらけ出すということを、春田だけではなく牧も徐々にできるようになっていくのかな、と思います。

――春田と牧については、たまにインサートされる下の名前の「創一」「凌太」呼びがズルいなと思いながら観ていたのですが、そこの塩梅というのは考えながら書いていたんですか?

徳尾:そうですね。あまり呼びすぎず、ここぞという時がいいんじゃないかと思っています。1話の初詣での「創一」「凌太」呼びは、当初は入ってなかったんです。でも『劇場版 おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』ではすでに「創一」「凌太」と呼び合っていて、『リターンズ』でずっと「春田」「牧」の呼び方だと、あれは夢だったのかと思われるような気がして、ここぞという時には呼び合っているというのを証明するために初詣のシーンに「創一」「凌太」呼びを入れました。

――徳尾さんの中で、想像を超えていったキャラクターはいますか?

徳尾:みんないい意味で想像を超えていっていますけど、眞島(秀和)さんが演じる武川さんは特にすごいですね。『リターンズ』の台本を書いている時に、こじらせながらも愛を模索していく武川さんが面白くていいなと思い、だんだんと筆が乗ってきてやりすぎなところはやめていったりもしたんですけど、眞島さんが芝居になるとなんなくこなしていってしまうんですよね。武川さんというキャラクターをものにしているんです。コーヒーを噴き出す量とかも完璧ですし、ソロキャンプの哀愁もすごい。もちろん春田と牧、あとは武蔵も衝撃的でしたね。ばしゃうまクリーンサービスの名刺を牧に渡そうとしても渡さないとか、あれも台本にはないんです。キッチンのドアを壊すとか(笑)。そういった肉弾戦も観ていて面白かったです。もはや、モンスターですね(笑)。それがネタとして面白いというのはもちろんなんですけど、その演技が武蔵というキャラクターの延長線上にあって、それは田中圭さんと林遣都さんでないと受けきれないんです。3人のお芝居は5年ぶりに見てもさらにすごくなっているなと思いました。

――自分も武蔵と牧のバトルは大好きです。その延長線上として温泉旅館での宴会場の乱闘もすごかったですよね。

徳尾:シーンとしてちょっと長いんじゃないかと思いながらも面白かったですね(笑)。宴会場でのバトルがあるバージョン、ないバージョンの台本がそれぞれあったんです。『おっさんずラブ』では感情の矢印が交錯した時に、それを整理するために定期的に暴れるという(笑)。もちろん暴れることが目的ではなく、そのエネルギーを介してみんなの感情がお互いに分かるようになっているんですが。

――今回『リターンズ』がBlu-ray&DVDとして発売されます。特典映像は380分以上と大ボリュームです。

徳尾:『おっさんずラブ』の撮影の仕方として、カメラのあるなしにかかわらず、役者のみなさんが感情をぶつけ合い、時には叩いたり、泣いたりしながら、どう動いていくかというのをカメラに収めるという撮り方をしていると思うので、メイキングでは役者さんが試行錯誤しながらも役を演じている臨場感が伝わると思いますし、シーンとして切り取られた、はみ出した部分でもそれぞれのキャクターは生き生きしているのではないかと想像します。

――以前『unknown』のBlu-ray&DVDの特典映像を全て観たことがあったんですが、メイキング映像ではチームとしての仲の良さが伝わってきますし、特に吉田鋼太郎さんが笑ってしまうくらいに面白くて。今回の『リターンズ』でも、メイキングは必見なんだろうなと思います。

徳尾:そうですよね。彼らの仲の良さから生まれる阿吽の呼吸が画面に出ているわけですよね。きっと誰よりも芝居で負けたくない人たちなので、決してゆるゆると遊びでやっていない、その切り替えも魅力なんじゃないかと思います。リハーサルではゲラゲラ笑ってるけど、本番では真剣勝負で、その切り替えがプロフェッショナルだなと思います。

――徳尾さんが最終回に込めたメッセージ、もしくは今回の『リターンズ』全体を通して伝えたかったことはなんですか?

徳尾:家族をテーマに書いてはいたんですけど、それは結論のないもので、一生をかけて探していくものだから。そうやって歩んでいく1日1日、一瞬一瞬に幸せというのは隠れているものだということを書きながら思っていて。幸せというのは、自分がその渦中にいると気づかないものだということも最終回では伝えたかったんです。

――徳尾さんが『おっさんずラブ』でまだ描きたいことはありますか?

徳尾:僕は彼らのお芝居がとても好きなんです。春田と牧、武蔵、武川さん、ちず(内田理央)、蝶子(大塚寧々)さん、マロ(金子大地)にしてもみんな好きなので、やっぱり彼らに会いたくなっちゃうんですよね。新しいテーマはまだ何も見つかってないですけど、彼らに会いたい、彼らのことを書きたいと思う気持ちは常にあります。テーマはきっと貴島さんが考えてくれるのだと思いますが、例えば全く世界を変えて、戦国時代に彼らが移った戦国版の『おっさんずラブ』とかもやってみたいですし、公安ずラブ主体の世界の中に春田と牧が出てくる作品も興味があります。彼らが関わる作品というのは無限の広がりを持っていて、ただ大切な作品だからこそ、すぐに書きたいというような軽口は叩けないんですけど、また書きたいという気持ちは常にありますね。

――徳尾さんがSNSに投稿していた「春田入院編」のメモを拝見しました。

徳尾:実際のストーリーでは武蔵が入院する展開でしたけど、春田が入院することもあるんじゃないかとか、いろんなパターンを今回の『リターンズ』を作る時に考えては、削ぎ落としていきました。使わなかったアイデアもたくさんあります。100個ぐらい考えても、90個ぐらい削ってるというような。自分も考えたことを忘れたりもしますし、様々な都合でダメになったりなんかしたこともありますね。

――徳尾さん個人としては、『おっさんずラブ』に限らず脚本家としてこれから描きたいことはありますか?

徳尾:僕はやはりコメディーが好きですね。『おっさんずラブ』の場合は「コメディー × 恋愛」で、「コメディー × サスペンス」が『unknown』でした。コメディーと何かを掛け合わせた作品が書きたいですけど、いろんなことに挑戦していきたいとは思います。

――コメディーということで言うと、自分は『VIVANT』(TBS系)のパロディのような、いろんな作品のエッセンスが入っているところも『おっさんずラブ』は大好きです。

徳尾:ほかのドラマではなかなかできないけど、『おっさんずラブ』だからというので自分の中でやりたくなってくるところはあります。『名探偵コナン』にも公安は出てきますけど、その直前に『VIVANT』を観ていたので、そっちの方が自分としてもしっくりくるかなと。「『VIVANT』で言うところの、野崎さんっていうことですか?」というセリフのシーンで、鋼太郎さんは『VIVANT』を観ずに演じていたと後で聞いて、それは驚きました(笑)。

――『VIVANT』そっくりの画角で、橋を俯瞰していくシーンも大好きです。

徳尾:武蔵の「もしや」といったようなセリフは元々の台本にあるんですけど、あそこまでそっくりな橋でカメラが引きながら、「たしかこれは『VIVANT』で見た」というセリフは台本にはなかったんです。そこは監督が整えて。局は違うのに、面白いですよね(笑)。

■リリース情報
『おっさんずラブ-リターンズ-』
7月3日(水)Blu-ray&DVD発売

【Blu-ray】
価格:35,035円(税込)
品番:TCBD-1577
仕様:2024年/日本/カラー/本編427分+特典映像387分/16:9 1080i High Definition/2層/音声:リニアPCM2chステレオ/バリアフリー日本語字幕(本編&スピンオフのみ)/全9話/4枚組(本編Disc3枚+特典Disc1枚)

【DVD】
価格:28,600円(税込)
品番:TCED-7386
仕様:2024年/日本/カラー/本編427分+特典映像387分/16:9LB/ Disc1・2・6・7:片面2層、Disc3~5:片面1層/音声:ドルビーデジタル2.0chステレオ/バリアフリー日本語字幕(本編&スピンオフのみ)/全9話/7枚組(本編Disc5枚+特典Disc2枚)

<特典映像>※Blu-ray&DVD共通
超大容量の計380分越えの大ボリューム!
・田中圭×林遣都ビジュアルコメンタリー「春田と牧で第1話みてみた。」
・もったいないから大放出!!未公開&ロングバージョン&ハプニング集
・あの名シーンを別アングルでもう一度-リターンズ-
・尊すぎてしんどい爆笑胸キュン秘蔵メイキング
・TVerスピンオフドラマ「春田と牧の新婚初夜」
・TELASA スピンオフドラマ「禁断のグータンヌーボ」前後編
・豪華キャスト集結!笑顔と涙の舞台挨拶
・キャラ紹介スペシャル動画
・ポスタービジュアル撮影メイキング1&2
・コタツでトーク~前後編
・おっさんずラブ「バチェラー完全版」
・PRスポット集

<初回生産限定>※Blu-ray&DVD共通
武蔵お手製♥はるたん(&牧)お重ラバーマスコット

出演:田中圭、吉田鋼太郎、林遣都ほか
脚本:徳尾浩司
音楽:河野 伸
演出:瑠東東一郎、山本大輔、Yuki Saito
主題歌:スキマスイッチ「Lovin' Song」(AUGUSTA RECORDS/UNIVERSAL SIGMA)
エグゼクティブプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日) 神馬由季(アズバーズ)
協力プロデューサー:松野千鶴子(アズバーズ)
制作協力:アズバーズ
制作著作:テレビ朝日
発売元:株式会社テレビ朝日
販売元:TCエンタテインメント株式会社
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