伊礼姫奈、“社会人”として新たなステージへ 『毒娘』『EVOL』『推し武道』の手応えを明かす

 4歳から子役として活動を開始し、数多くの作品に出演し続けてきた俳優・伊礼姫奈。映画化もされた『推しが武道館いってくれたら死ぬ』(ABCテレビ)、実写化不可能といわれた名作に果敢に挑んだ『EVOL(イーヴォー)~しょぼ能力で、正義を滅ぼせ。~』(DMM)、そして4月に公開された映画『毒娘』では狂気の演技を披露。作品ごとに別人のような姿を見せ、いままさにさらなる高みへと羽ばたこうとしている。この春に高校を卒業し、新たなスタートをきった伊礼はいま何を考えているのか。俳優業への思いについて、じっくりと話を聞いた。

どうすれば“気持ち悪くなる”かを突き詰めた『毒娘』

ーー内藤瑛亮監督作『毒娘』では、真っ赤な衣装を身にまとった“ちーちゃん”を演じられました。ちーちゃんが鮮烈過ぎるキャラクターだったので、目の前にいる伊礼さんとのギャップがすごいです。

伊礼姫奈(以下、伊礼):ありがとうございます。『毒娘』の舞台挨拶でも観客の皆さんに怖い人と思われるんじゃないかとドキドキしている部分がありました(笑)。

ーー『毒娘』のちーちゃんはある家に固執して、その家に住む家族を“破壊”していく人物で、人間というよりも怪物です。

伊礼:ちーちゃんは人間なのか、人あらざるものなのか、どれぐらいの知性を持っているべきなのか、最初はなかなか理解できませんでした。内藤監督に質問したら、「ゴジラを参考にしてほしい」と。それで余計に分からなくなってしまったのですが(笑)。どうしたら怖く魅力的なちーちゃんになることができるのか、内藤監督と相談しながら作り上げていきました。かつらをかぶって、メイクもすると、自分であって自分ではないような感覚もありました。

『毒娘』©️『毒娘』製作委員会2024

ーーちーちゃんは伊礼さんがこれまで演じられた役柄の中でも一番クレイジーなキャラクターだったのでは?

伊礼:“概念”ともいえるようなキャラクターだったので、最初は難しいと感じていたのですが、途中から勢いでいっちゃえと。私はひたすらぶつけていって、皆さんが戸惑うぐらいのほうがちーちゃんが奇妙にみえてくる。佐津川(愛美)さん、竹財(輝之助)さん、槇原(星空)さんが受け止めてくださったからこそできたことで、とても不思議な感覚でした。

ーーケーキを手づかみで一口食べては投げる、コーラのペッドボトルを直飲みして蓋を空けたまま投げつける……などなど、私生活では絶対にできないような行動もちーちゃんは行いますね。

伊礼:実はウィッグが長くて顔にかかっていたので、ケーキを食べる動作だけでもなかなかうまく見せることができなかったんです。加えて最初はどうしても躊躇する部分もあったのですが、回数を重ねるうちに楽しくなっていきました(笑)。ほかにもハサミの持ち方だったり、人に触れるときにどう触るのかだったり、「表情を作る」ことよりも細かい動作をとにかく研究していきました。どうすればもっと“気持ち悪くなる”かを自分なりに探して、監督と相談して……の繰り返しで。こんなことができるのも役者の楽しさだなと改めて思います。

『毒娘』©️『毒娘』製作委員会2024

ーー役者によっては、役柄が自分自身に残ってしまうという方もいると聞きます。ちーちゃんが残っていたら大変ですが(笑)、伊礼さんはどちらかというと切り替えられるタイプですか?

伊礼:かなりスパッと切り替えられるタイプだと思います(笑)。ちーちゃんは自分とはかけ離れていて、明確に変身する分、撮影が終わってメイクを取ればそのまま自然と離れることができました。ほかの役柄でもあんまり影響はされないです。

ーー内藤監督は『毒娘』もそうですが、『ミスミソウ』や『先生を流産させる回』など観た後に決して気分が晴れる作品とは違うタイプの作品を生み出している監督です。想像していたイメージと実際に会ってからの印象は違いましたか?

伊礼:作品が作品なだけに、少し重たい雰囲気の現場になるのかなという不安はあったんです。でも、実際には佐津川さんを中心にすごく楽しそうな雰囲気で、何なら内藤監督が一番楽しそうにされていて(笑)。その姿を見て、「自分ももっとやっていいいんだ!」と救われました。

『毒娘』押見修造が手掛けたビジュアル©️『毒娘』製作委員会2024

ーーそして、本作は漫画家の押見修造さんがキャラクターデザインを手掛けています。ちーちゃんの過去がスピンオフとして漫画にもなっていますが、順番としては映画の方が先だと。つまり、ちーちゃんのビジュアルに伊礼さんご自身の姿も反映されているとも言えるわけで。

伊礼:そうなんです。私も画を描くことが好きだったので、押見さんが参加してくださることもとても嬉しかったですし、まさか漫画にもなるなんて。これは思い込みかもしれないですが、漫画のちーちゃんも少し私自身に似ている気がして(笑)。最初にちーちゃんのデザインができて、それを基に役作りをして、そして映画の後に今度は前日譚が漫画になって……とこんな経験はなかなかできることではないので、本当に嬉しかったです。

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