『おちょやん』テルヲが千代のために奔走 「最後に父親らしいことをしたい」

 テルヲ(トータス松本)の生い先が長くないと知った千代(杉咲花)は、複雑な心境でいる。「心の中には干からびたものしか残ってへんのや」といいつつも、そこは血の繋がった父親。そう簡単に割り切れるものでもなかった。連続テレビ小説『おちょやん』(NHK総合)第73話では、テルヲが千代のために奔走する姿が描かれる。

 またも大山社長(中村鴈治郎)の元を訪れるテルヲ。千代が苦労せずに暮らせるようにと役者を辞めさせようとしていた。しかし大山は「あんさん、何もわかってあらへんわ」と答えるのみ。続けてテルヲは、千之助(星田英利)に千代が辞めるまで厳しくしごけと無理を言い出すが、千之助は「とっくの昔からしごき倒してるわい」と返し、それでも千代はもっといい芝居をしたいと食らいついてくるのだと伝えた。千代は相手の魅力を引き出すことができる“お月さんみたいな役者”だと、いかに千代が素晴らしい役者であるかを説くのであった。

 千夜の芝居が無性に観たくなったテルヲは、岡安を訪れシズ(篠原涼子)に頼みこむ。さらに一平(成田凌)の元を訪れたテルヲは、写真を撮ってもらうことに。泣きながら「千代を幸せにしたってくれ」と言うテルヲに一平は、「笑ろうてください、もっとや、もっと!」と怒ったように繰り返し、満面の笑みの写真を撮るのであった。

 テルヲの笑顔の写真を残そうというのは一平の千代への優しさだろう。一平が千代にとっての良い夫であるかは断言できないが、千代のことを一番良く理解しているのは確かだ。かつて京都時代にテルヲに貯金通帳を盗まれた千代は、何もかも嫌になって女優を辞めようとしたことがある。その時に一平は、千代に「人の苦しみはその本人にしか分からない。だが舞台に立つことで、その苦しみがちょっとは人に分かってもらえる気がする」と話している。今回も一平はテルヲに「芝居見に来てください」と真剣に伝えた。テルヲは一平に千代の幸せを託すが、千代の心に刺さった棘を抜けるのはテルヲでしかない。それは千代の舞台を見て少しでも千代の気持ちを理解することだと一平は言いたいのだろう。

 「最後に父親らしいことをしたい」と話すテルヲの言葉通り、テルヲは千代をなんとか支えたいと思っていた。何度も涙を流し、千夜の知り合いの元を訪ねては頭を下げたり、無理難題を押し付けたり。しかし自らの行いのツケがまわり、結局千代には迷惑をかけてしまう。

 一度した借金のループから抜け出せないこと、生活を立て直し、人生をやり直すことが困難であることは今でも貧困についてまわる大きな問題だ。テルヲがどんなに今から千代の人生において理想的な父親らしく振る舞おうとしても、もう遅いのかもしれない。この残酷で胸をザワつかせるテルヲの姿は、無惨に心を締め付ける。千代が母の写真を見てテルヲとの暮らしを思い出し、人知れず流した涙からはそんな痛みや葛藤が感じられた。一平の撮ったテルヲの写真は、千夜の母のとなりに並ぶことができるのだろうか。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/